世にはゴルフという魔物が棲む(2)
2013 FEB 21 12:12:58 pm by 東 賢太郎
悲惨だったゴルフ初体験
初めてやったのはサラリーマン1年目です。「止まった球なんて」とちょっとなめていて、クラブを買って素振りもせずにいきなりコンペに出ました。あがってみると126で、これがいいのか悪いのか、それもわかっていませんでした。短いショートホールを5番アイアンで思い切り打ったらゴロで乗り、それがニアピン賞だったというハプニングで結構どうだなどと勘違いしてましたから、お先は暗いものだったのです。
イギリスでの苦行
ロンドンへ行ってから回数は重ねましたが、人並みになるまでには人並み以上に苦労しました。どうしてかというと野球打ちなので腰が開く癖があり、「どスライス」になるのです。当時のパーシモンのドライバーというのはコスると大曲がりする代物で、右隣のフェアウエーに向けてブーメランみたいに曲がっていきます。探しに行ってみるとご丁寧にそっちのホールでぎりぎりOBでしたなんていう間抜けなこともおきました。
イギリスのコースはラフが深く、ススキみたいな固い草がヒザあたりまで生えています。これが大敵で10ヤードぐらい奥に入るとまず1打では出ません。天候は夏はいいのですが、冬は寒くて雨が多く、それでもイギリスでは皆がバッグを肩にかついで2ラウンド平気でやります。地面は湿ってドロドロ、ズブズブなのでトロリーを引っ張るよりかついだ方が楽なのです。自分が打った衝撃で飛び散った泥を全身にかぶり、メガネの前が見えなくなります。靴はもちろんズボンの裾まで泥だらけで氷のように冷たい。ホカロンがなかったので手はかじかんでほとんど感覚がなくなりました。
真冬ですと午後4時までにはもう真っ暗になり、疲れ切ってクラブハウスにたどり着きます。ストーブにあたってバーで飲むビールは最高で、いやーご苦労さんカンパイ!とまるで一仕事終えた赤ちょうちんというムードです。スコアがどうの以前に、お互い無事に生還したことを祝おうという感じです。戦った相手はパートナーではなく「自然」なのです。この感じはスポーツというより登山に近いのではないでしょうか。
ロイヤル・セントジョージス
では夏は楽かというとそうでもありません。Royal St. George’sという名門コースがあります。ドーバーの近くで、サンドイッチ発祥の地らしく「Sandwich」とも呼ばれています。2011年の全英オープンの舞台となったこのリンクス・コースに友人と2人で挑んだのは夏でした。写真のように、クレーターみたいなバンカーが待ち受け、ぱっと見で月面みたいだなと思いました。
その日は晴れでしたが強風でした。なんとパー3をドライバーで打って届きません。ラフとバンカーにつかまり脱出に4-5発打ちます。ティーグラウンドに立つと360度一面のヒース(ススキみたいな草)でフェアウエーがありません!前の人が打ったディボット(穴ぼこ)から方向を推察して打ちました。これが1ラウンド目。散々な目にあって懲りたので、2ラウンド目は仕方なくそれぞれキャディーをつけました。
これが中学生ぐらいの小生意気なガキで、僕が下手くそと見るや100ヤードぐらいを5番で打てなどとクラブを押し付けてきます。ところが打ってみると風で押し戻されてそれが正しい。パットのラインも、笑ってしまうぐらいとんでもない所へ打てといいます。嘘だろうと打ってみると、すごいスネークラインでそれが正しいのです。それにしてもやけに真剣に教えてくれて、パットを外すと一緒に悔しがる。「なんでだ?」ときいたら「I’m betting on you.」ときました。コイツら僕と友人にそれぞれ賭けていたのです。利害が一致する間柄をWe are in the same boat.(同じ船に乗っている)と言いますが、これぞ相手にパートナー、エクイティ・ステークホールダーになってもらうメリットなんだと体感し、ビジネスまで教わりました。
さて2ラウンドやってスコアは覚えてませんが2回ともボロボロの120ぐらい、初の難関コース+台風並みの強風という手厳しい洗礼に体も精神状態もボロボロ。36ホールよくぞ生還したという感じで手がぶるぶる震えていました。僕の運転で帰ったのですが、頭がボーっとしていて目の焦点も合わず、うわの空で飛ばしていてはっと気がつくとラウンド・アバウト(写真のような円形の交差点)がすぐ目の前に迫っていました。100キロぐらい出ていたかもしれません。「あぶなーい」友人の悲鳴と共に車は急ブレーキでお尻を左に90度振りながら、横切る道のド真ん中に、見事に進行方向(真右)を向いてピタッと停止しました。コメディなら爆笑シーンです。車はそこそこいたのにどうしてぶつからなかったのか今も不思議です。すると、こういう時に限っていいタイミングでいるんです、お巡りさんが。彼はつかつかと寄って来て、窓をたたいて開けろといいます。アップセットしている僕はもうアウトだ免停だと思いました。するとなんとしたことか、「What are you doing here, sir?」 とキレイな英語で、忘れもしない、実に軽妙でユーモア感覚にあふれる適確なご質問が飛んできたのです。「いやーちょっとブレーキ踏むのが遅れて・・・」などとわけのわからないことをモゴモゴ言ったところ、渋滞すると思ったのか英語が通じないと思ったのか、なぜか捕まることも切符を切られることもなく尋問終了となったのでありました。やれやれ。
夏でも冬でも、イギリスのゴルフ場には魔物がいるのです。
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