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世にはゴルフという魔物が棲む(3)

2013 FEB 22 18:18:20 pm by 東 賢太郎

キチガイの中のキチガイ

僕は雨が降ろうが槍(やり)が降ろうが、絶対に今日はやめようと言わないキチガイとして有名でした。イギリスでは雨などはのっけから無視。みぞれの日も雪の日もカラーボールで2ラウンドやる。夏は日が長いのだからどんなに暑くてもできれば3ラウンドはやりたい。ゲーム類はヘビ、カニ、キコリにサオイチ、スナイチ、ピンポンパンからオトモダチ、ラスベガス、オリンピック、プッシュまでぜ~んぶ「あり」。運悪く僕の部下になってしまった大勢の方々には本当にご多忙のところご迷惑をおかけいたし、おつきあい頂いたことにこの場を借りて深く御礼を申し上げなくてはなりません。

フランクフルトでは零下5度でもやり、カチカチに凍った地面にティーが刺さらないのでトンカチで打ちこみました。香港では気温33度、湿度99%などという灼熱地獄かサウナかという日でもとにかく毎土日やり、2年半で1度もリタイアしたことがありません。シンガポールで1度だけ気絶しそうに暑い日があり、終了後にプレー内容の記憶があまりないという稀有な体験をしましたが、それでもホールアウトは果たしたのです。

ロイヤル・ダブリン・ゴルフ・クラブ

golf_clubあれはアイルランドの名門コースであるロイヤル・ダブリンでのことです。キチガイ同志だった友人A氏と2人でした。その日は朝から暴風雨で、横殴りの雨がレンタカーのボディを揺さぶるぐらい強烈な荒れ模様。さすがにコースもクローズかなと行ってみると、なんと受け付けは開いていて、スタートできるかどうかプロショップで確認しろと言います。アイルランドはゴルフが国民的スポーツです。空港のパスポートコントロールで「旅行目的は」と聞かれたら「to play golf」と答えてください。笑顔で5秒で通してくれます。だからでしょうか、こんな天気なのにクローズと言わないところがめっぽう気に入りました。

喜び勇んでプロショップへ行くと、おじさんが「ホントにやりたいの?」と、やや疑わしげにききます。「オフ・コース」と言いのける僕らの意志が固いとみると、「それなら安全のためにひとつだけ条件がある」ときました。彼はやおら店の品物を何品か揃えだし、「これを全部買って身につけること。それなら行かせてあげるよ。」ということになりました。全部でたしか80ポンドぐらい(当時2万円弱)してグリーンフィーより高かったと思います。アイルランドの名誉のためことわっておきますと、これ、ほかの国なら99%そうなる「いいカモが来た、商売してやろう」という風情では全くありません。そこまでゴルフが好きな日本人がわざわざ我が国に来てくれた、なんとか思いを遂げさせてあげたいという善意です。空港だけではないのです。アイルランドでゴルフをやると、そこかしこでこういうhospitalityに出会い、心が温まりました。

アイルランド・スペシャル

さて、彼が用意してくれたもの。それはこういう天気でもやる人を想定したスペシャルギアです。「防水服」、「防水ズボン」、これはまあいい。感動したのは 「風で飛ばない帽子」、「オチョコにならない傘」です。蛇の道は蛇(へび)と言いますが、へびは我々だけではないんだと、これを見てますますこの国が好きになりました。しかし何よりの極めつけは「雨よけゴーグル」です。帽子のつばの下からにょきっと突き出る、お世辞にも格好の良くないセルロイド製の物体でした。ところがこれ、装着してみると、目だけ雨宿りの軒下に入ったというか、部屋の中から外の雨景色を他人事のように傍観しているというか、一種奇妙な心境になります。それ以来どこの国でも一度もお目にかかっていない、まさに蛇の道の秘密兵器とも呼べるものでした。

このゴーグルはちょっと不安だった我々を鬼に金棒の気分にしてコースに送り出してくれました。モーツァルトのオペラ「魔笛」で、夜の女王から魔法の笛(魔笛ですね、いわゆる)と魔法の鈴をもらったタミーノ君とパパゲーノ君みたいでした。「こんな日にゴルフ場に来る人なんて俺たち以外にいるわけないよね」と有頂天になってコースに向かったのでした。たしかに、見渡す限り人っ子一人おらず、今日はゴルフ場独り占めだぜ~と雨を降らせてくれた天に感謝したものです。

魔笛破れたり

真横に降る豪雨と暴風の中を勇んで1番ホールのティーグラウンドに立った我々がまず直面したのは、風で耳がゴーっという間断なき轟音にふさがれてしまい、いくら大声でどなっても相手の言うことがぜんぜん聞こえないという未知との遭遇でした。しかし、だんだんわかってくるのですが、そんなのはまだかわいいもので、実はこの日の数々の未体験ハプニングの単なる序曲にすぎなかったのです。

まず、向かい風になるとさすがのゴーグルも魔法が効かず、吹き付ける雨でメガネは高速ワイパーが必要な状態になります。グリーン上は水たまりがあると強打しても1メートルしか行かず、かと思えば、風で打つ前に2~3メートルもころがってせっかく乗ったグリーンからこぼれてしまいます。不意に突風を食らって人生初めてショートアイアンを空振りしました。袖や首から服にしみこむ雨が凍ってきている?のか体ごと凍傷になりそうで、気がつくと両手の指の感覚をほぼ喪失していました。

おじさん自慢の「風で飛ばない帽子」が天高く軽々と舞い上がり、「オチョコにならない傘」が修復を試みる意欲を喪失させるほどビューティフルに裏返ったときです、僕らの闘争心がついに萎えはじめたのは。5番ホール、渾身の力をこめて振った第2打でした。かじかんだ僕の手をすっぽぬけた5番アイアンはチョロだったボールよりはるか遠くへ高々と飛んで行き、その行方をじっと確認した僕たちはついに続行を断念する思いに駆られたのです。結局、最後まで無事だったのは「雨よけゴーグル」だけでした。

びっくりの結末

5番ホールはクラブハウスとは遠いところでした。ゴルフコースというのは球を打たないで歩くには実に退屈な散歩道です。コースガイドで近道を探し、右だ左だとさ迷い歩きながら、プレーに夢中で忘れていた寒さは30分立ち止まったら凍死しそうなレベルであることに気がついてきました。お互いずぶ濡れの泥だらけ姿にザンバラ髪から水滴をしたたらせ、落ち武者だねと笑いながらなんとかクラブハウスに帰還し、がっちりと握手を交わしました。

やれやれと目の前のドアをバーンと開けると、薄暗い空間から葉巻とおぼしき煙がプーンとたちこめてきて、そこはどうやらバーのようだということがわかりました。とにかくストーヴの火が恋しかったので我々は見境いもなく、ゴルフバッグをかついだまま勇んでそこに飛び込みました。すると目の前に広がった光景に圧倒されたのです。なんとしたことか、いつどこからこんなに人が出てきたんだとびっくりするぐらい大勢のメンバーさんたちが、もくもくの煙の中でビール片手にわいわいやっているではないですか。

しかし、もっとびっくりしたのは彼らの方です。手前のダンナが僕らをじっと見据えると、大声で、

「おーい、みんな見ろ、こいつらやってたんだ!」

「おー、お前ら、すごい勇気だ」

「ヒューヒュー(口笛)」

僕らの蛮勇?を称える歓声がにわかにわき起こり、ウォーという怒涛のような声とともに全員が起立。いわゆるひとつのスタンディング・オベーションによる大拍手となってしまいました。

 

日本人のイメージがよくなったかどうか自信はありませんが、少なくとも、僕らのキチガイぶりは立派にグローバルに通用するものだということが証明された、まさしく未体験の瞬間でございました。

 

(次はこちらへ)

世にはゴルフという魔物が棲む(4)

 

 

 

Categories:ゴルフ, 徒然に

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