勝手流ウィーン・フィル考(3)
2013 MAY 5 11:11:10 am by 東 賢太郎
最初にウィーン・フィルの実演を聴いたのがいつどこで何だったか、どうも記憶にありません。
オペラとしては83年夏にウィーン国立歌劇場でホルスト・シュタイン指揮の「パルシファル」でした。当時、曲を知らなくてあまり感動はありません。85年にロンドンでマゼールのブラームス1番と火の鳥、オケとしてはこれが最初だったかもしれません。僕は80年代以降のマゼールはあんまり好きじゃなく、これもつまらなかったですね。94年フランクフルトでのマゼールのメンデルスゾーン4番も印象が残っていません。92年にはシノーポリと来日してマーラー1番とドン・ファン。NHKホールの音もさえず、ドン・ファンのオーボエ部分の異様な遅さなどオケのいじめにでもあってるんじゃないかと思うほど生気がなく、誰がやってもブラボーであるマーラーも珍しい冷めた演奏でした。この1番、2年後にフランクフルトでマゼール指揮でも聴きましたが、これもだめ。このオケ、巨人が嫌いなんじゃないかと本気で思いました。
真価を感じたのは、ニューイヤーコンサート以外では以前書いたロンドンでのプレヴィンのハイドン。それから94年にフランクフルトでのムーティのベートーベン8番とチャイコフスキー5番。83年のザルツブルグ音楽祭でのカラヤンのばらの騎士、やはり96年ザルツブルグ音楽祭でのマゼールのダフニスとクロエとベートーベンのヴァイオリン協奏曲、というところでしょうか。確かハイドンのアンコールで、打楽器の人が嬉しそうに小太鼓を運び込んでやったJ・シュトラウスのワルツ、何だったかは忘れましたが、これが自家薬篭中という風情でノリまくり大変良かったのも印象にあります。
以上のようなものですから、どうもこのオケの実演ということでは僕は割とハズレが多く、ネコが真剣にならないイメージの方が強いのです。ただ、ハズレの時でもこのオケの音色美はいつも堪能していますから因果なものです。それだけで普通の客は満足だろうと高をくくられても仕方ないぐらい魅力的な音なのですから、ネコ型にもなろうというものです。
このオケを味わうならウィーンへ行って、ムジークフェラインで聴かないとというのが僕の今の結論です。ネコが遊びを選ぶように彼らはハコを選ぶのです。NHKホールやサントリーホールの音響で彼らが本気になるとは到底思えません。ベームの時(75年)は聴衆の安保闘争なみの異常な熱気で目覚めましたがあれは例外でしょう。ニューヨークでも、格段にひどい音のリンカーン・センター(エイブリー・フィッシャーホール)じゃあだめです。あそこでこのオケが弾いている姿を想像さえしたくありません。ワシントンDCのJFKセンター、あのホールでもチェコ・フィルは懸命にいい音を出しましたがウィーン・フィルは無理でしょう。フランクフルトのアルテ・オーパー、あそこは一見音がよさそうに見えるホールなのですが、大したことありません。ドレスデン・シュターツカペレの弦ですらしょぼい音でした。だからウィーン・フィルはやはりあまり真価は出してくれませんでした。それでいいんです。超美人ですから顔を出すだけで普通の客は喝采するのです。
ということで、他のオーケストラはともかく、ウィーン・フィルが来日しても、僕は絶対に聴きません。金の無駄です。いいオーディオ装置で、ムジーク・フェラインかゾフィエン・ザールでの録音を聴いた方がよっぽどいい音がするからです。
それでは次回、僕が好きなウィーン・フィルのレコード、CDをご紹介しましょう。
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花崎 洋 / 花崎 朋子
5/6/2013 | 9:48 AM Permalink
ウィーンフィルの音は、ホームグラウンドであるムジークフェラインザールでベストの響きとなるように創り上げられた伝統の技の証ですね。客演したホールの音響等、一切気にしないのも、ネコ型ウィーンフィルの面目躍如ですね。「私は超美人なので、出て来るだけで、皆喜んでくれる筈」という、ウィーンフィルの楽員の東さんによる心理分析、正に「言い得て妙」であります。それにしてもNYのエイブリーフィッシャーホールの響きは、たいへデッドで本当にひどかったです。カーネギーホールで聴けて、非常にラッキーでした。両方のホールの違いを熟知していたバーンスタインがカーネギーホール使用を強く要望した可能性もありますね。
花崎洋
東 賢太郎
5/6/2013 | 2:15 PM Permalink
自身ヴァイオリニストであり、オーケストラと同じ音をスピーカーから出したいという情熱で事業を起こし「HiFiレシーバーの祖」となったフィッシャー。彼の寄付を得てニューヨーク市が威信をかけて造ったエイブリ―フィッシャーホール。それを本拠とするニューヨーク・フィルがラインスドルフの指揮でブルックナー3番をやるというので期待して聴きました。スピーカーから出た音の方がまだましでした。NHKホールで聴いたシノーポリ。あまりにプアな音響にネコがやる気をなくした犠牲者だったような気がしています。あそこはのど自慢か紅白歌合戦向きですね。
花崎 洋 / 花崎 朋子
5/7/2013 | 6:35 AM Permalink
イヌでしたら、悪条件の中で、何とかベストなものをと最大限努力するでしょうが、ネコは、すぐにやる気を無くしてしまいますね。エイブリーフィッシャーホールの命名の由来、初めて知りました。有り難うございます。ホールが完成して、あまりの残響の悪さにフィッシャー氏の落胆が、どれほど大きかったことか・・・