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ベートーベンピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15

2013 OCT 23 23:23:06 pm by 東 賢太郎

大学時代にこれを聴き始めた頃、僕は第1楽章のこの部分に非常に驚いていた。クラシックに慣れていない当時の僕の耳には現代音楽のように響いていたのである。作曲当時の聴衆も似た衝撃を感じていたのではないかと推察する。

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作曲は1794-5年。あの第2番変ロ長調協奏曲にとりかかってから8年後だ。長足の進歩である。主題の処理の手際、展開など前作の比ではない。その前作もこの時期に改訂したので、この時点の進歩の衣装をまとったものなのだが。後に初演される野心的な第1交響曲とは調性も楽器編成(クラリネット2、トランペット2、ティンパニが加わった)もまったく同じだ。第2楽章の調性が前作では常套的な4度上だったのが1番では3度下の変イ長調という新機軸も入ってくる。

しかし一方で、第1楽章のピアノ登場の直前のオケパートの和音連結にモーツァルトがはっきり現れるなど、前作と全く同じ面も残している(違うコード・プログレッションであるが、こっちもやはり魔笛のトレードマークだ)。第3楽章はいきなりピアノが第1主題を弾きはじめるが、これもモーツァルトの第9番変ホ長調「ジュノーム」の第3楽章の入りとそっくりだ。この楽章はティンパニが活躍するなど先輩にはない新機軸もあるが、まだ折衷的なものであり個性の開花とは至っていない曲である。

 

エミール・ギレリス  /  クルト・マズア /  ソビエト国立交響楽団

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大学時代にFM放送で聴き衝撃を受けた演奏をあげさせていただく。ギレリスの快刀乱麻の腕が冴えわたったライブで、オーケストラがやや落ちるがそれはすぐ忘れてしまう。それほどすごいピアノである。第1楽章、ミスタッチもいとわぬ打鍵の強靭さに圧倒される。この気迫は何なんだろう。オケも押されていてマズアが懸命にあおっている感じだ。第2楽章は一転して遅いテンポで深い情緒を表出し、緩急自在のフレージングよる変イ長調のロマン的世界になるのが印象的だ。そしていきなりピアノが疾走する第3楽章!ベートーベン自身もこのぐらい弾いたのだろうと思わせるほどギレリスの明快なタッチはこの楽章に合っている。他の演奏が物足りなくなること請け合いだ。

 

ペーター・レーゼル / クラウス・ペーター・フロール / ベルリン交響楽団

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ドイツ人によるドイツ語のベートーベンというイメージの演奏である。レーゼルはブラームスの2番のライブでも感じたが音楽の構築観と音のバランスを大切にした揺るぎのないピアノを弾く人だ。浅薄な部分は一切なく、和音は美しく、一音一音を音楽に奉仕する姿勢で弾き、あるべきところにあるべき音がある。だから過度な表情づけがなく汚い音はまったく出ない。この1番も芳醇なあたたかい、しかし芯のある音で見事に弾きこまれる。ベルリン・イエスキリスト教会の空間を感じさせる音響が包み込むオーケストラも最高だ。第3楽章はティンパニのf も実在感をもって鳴っており、音楽は熱してきれいごとに終わらない。これだけ無心に安心してこの曲にひたれる演奏もそうあるものではない。何も変わったことはしていないが最高に音楽性の高い名演である。

 

(補遺、3月9日)

アルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリ  /  カルロ・マリア・ジュリーニ  /  ウィーン交響楽団

71ArBE8JV3L__SX425_まことに格調の高いエレガントなオーケストラで開始する。ジュリーニの指揮の品の良さというのは抗いがたいもので、遅めのテンポで腰の重いトゥッティのアクセントはベートーベンにふさわしい。そこにミケランジェリのひんやりと硬質なタッチのピアノがからむ対照の妙はこのコンビの魅力だ。3番、5番もあり、こればかり聴いていた時期がある。終始、テンポやダイナミクスを煽るような安手の仕掛けは登場せず、それで十分な感動と興奮を与えてくれる「大人の1番」だ。

(補遺、9June 17)

米国留学時代にフィラデルフィアのFM放送からエアチェックした、ルドルフ・ゼルキン / ラファエル・クーベリック / ニューヨーク・フィルのライブ(1983年9月)です。

 

(補遺、19 June17)

グレン・グールド /  ヴラディーミル・ゴルシュマン / コロンビア交響楽団

1958年4月29、30日にニューヨークのコロムビア30番街スタジオでの録音。トスカニーニの死とともに解散したNBC SOに代わって登場したこのオケはワルターに振らせるCBS SOとでも呼ぶべきものだが、そのステレオ最初期の記録であるこのLPは幸いなことに高度な分解能、分離度が細密にとらえているオケが非常にうまい(ゴルシュマンを僕は高く評価する)。グールドのタッチの輝きも自然に収まっており、これまた一級品のうまさである。第1楽章のグールドによるカデンツァはマックス・レーガーの和声イディオムによると自身が語っているがユニークだ。この録音を受け取ったグールドは「2日間も歓喜に浸りました。最初から最後まで、真の生きる喜びにあふれています」とゴルシュマンに手紙を書いています。まったくそのとおりと思う。

 

 

 

(続きはこちらへ)

ベートーベン ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37

Categories:______ベートーベン, クラシック音楽

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