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N響 トゥガン・ソヒエフを聴く(1月21日追記あり)

2013 NOV 17 19:19:12 pm by 東 賢太郎

この36歳の指揮者は何者だろう。まったく名をきいたことなく、何の期待もなく、そして驚き、そういうことをしたことはかつて一度もないが、帰りに彼の来週のBプロを買いにNHKホールの窓口に並んだ。完売だった。

最初のボロディン「中央アジアの草原にて」のヴァイオリンの高音がひそやかに鳴った瞬間に、おやっ今日はいいぞと思った。何となく集中力がちがう。結局そのe音からプロコフィエフの最後の音まで、今日のN響の弦はかつて聴いた最高の音を出した。後で調べるとソヒエフの出身地北オセチアは黒海とカスピ海の中央で、来年の冬季オリンピック開催地ソチに近い。ボロディンがこの曲を構想した中央アジアはこの辺だろうから、これは彼のご当地ソングということだろうか。実はこれをライブで聴いたのは初めて。とても面白く、弦も管もとても良かった。この演奏がオケも客席も集中力を高めさせた。

続くはチャイコフスキー・コンクール優勝者ボリス・ベレゾフスキーとのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調だった。とても上手い。しかし速い。第2楽章などかつて聴いた最速の部類だ。ベレゾフスキーにスイッチが入ってしまっていて先へ先へと駆り立てられてオケが合わない。タメが全然ない。ソヒエフは彼の指を見ながら合わせる部分も。難しいパッセージを弾ききるといちいち見栄を切る。pもmfぐらいに弾く。前から4列目で目の前でそれを聞かされ見せられて辟易してしまった。第1楽章にして早やこっちの集中力は切れ、ウルトラ剛腕の体育会系のピアノの轟音を前にしながら、昨夜の宴会疲れもあって眠気に襲われそのまま終了。ラフマニノフ自身もこういう感じで弾いた可能性はあるがこの曲はそうではない名演を何十回も聴いており、これはノーサンキューである。

そして休憩後のプロコフィエフ。ラフマニノフとはうって変わって人生で最高のプロコ5番を聴いた。かつてロンドンでチェコフィルをアシュケナージが振った演奏がライブでの僕のベストだったがこれはそれをはるか上回る。ソヒエフの指揮は見ていて実にわかりやすい。パントマイムによって全身で何か伝えるように表情豊かで、手や動作による指示は交通整理のように手際よく、タイミングが絶妙で運動神経がいい。そういうことが一切あざとくなく、音楽の自然な呼吸であり要求であるとして奏者にびしびしと電気のように伝わるのが見ていてわかる。

経営者が社員に経営ヴィジョンを明確に伝えるのは大事だが、それは言葉でできる。声を出せない指揮者がどんな音を求めているかを楽員に明確に指示するのはやはり動作と表情なんだろう。その欲しい音というものが聴衆にまでわかるというのは珍しい。あの通り弾けばいい音楽ができて楽しそうだ。それを恐らくそう受け取ったコンマスの篠崎史紀さんが気持ちよさそうに弾かれ、それがオケ全体に連鎖する。全員が自発性を全開しながら棒に集中している。当たり前のようだが、こういうことは滅多に感じないほど稀なことだ。

N響がのったときのベルリンフィルみたいだった。だめなときは草食系っぽいが燃えさせるとすばらしいオケだということをわからせてくれた。トゥガン・ソヒエフ恐るべし!トゥールーズ・キャピトル国立管音楽監督とのことだが、いつの日かN響のそれをやっていただけることを切望したい。

 

(追記。16年1月21日サントリーホールN響Bプロ)

忙しく、チケットを忘れてきてなんとか入れてもらった。疲れていて、前半ラフマニノフPC2番まで夢うつつ。そして後半、チャイコフスキー白鳥の湖。これが良かった。マズルカを聴いてふと悲愴交響曲第3楽章の原型を見る(コントラバスの半音階低下するバスなど)。本当に素晴らしい音楽!

音楽は生ものだ。うまく調理して供してくれたソヒエフの腕に敬服。N響が信頼してぴったりついていく。すっかり頭が冴え、たまっていた滓をきれいに掃除してくれた。音楽の魔力。今日のような気分の日にそうしてくれたことに感謝。

 

(こちらへどうぞ)

ボロディン 交響詩「中央アジアの草原にて」

クラシック徒然草-トゥガン・ソヒエフの春の祭典-

Categories:______演奏会の感想, ______演奏家について, クラシック音楽

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