情報と諜報の区別を知らない日本人
2014 JUL 6 1:01:54 am by 東 賢太郎
米国の中央情報局を CIA と呼ぶのは007やスパイ映画などで有名だ。最初の C は Central、最後の A は Agency である。さて真ん中の「I」が「情報」なのだが、これが何の略かと学生にきいたことがある。野村證券金融経済研究所の部長時代に14の大学で講義した時のことである。そうするとほとんど全員がインフォメーション(Information)と答えた。インテリジェンス(Intelligence)と正答したのはたしか九州大学の子だけだった。
Information も Intelligence も「情報」と訳してしまうのは、日本人が両者の違いを知らないからだ。講義はそこから始めた。
ここからは Information を情報と、Intelligence を諜報と呼ぶことにしよう。情報はネット上にあふれている。Wikipedia が代表例でありサーチ・エンジンで検索できるものはほとんどがそうだ。Siri で「近くのラーメン屋!」は僕も時々使うし、即座に10件ぐらいは候補が出てくるのはありがたい。必要な時のそういう情報はあなたに価値がある。
しかし出てきた10件のラーメン屋のどれがあなたの求める味を提供するかは Siri では出てこない。そこであなたは次に「食べログ」のランキングや「口コミ」に頼ることになるが、それでもその情報がニーズを満たすかはわからない。あなたの好みはあなたしか知らないので、結局はあなたがリスクを取って自分で決めるしかない。あなたがすぐに行動を起こすかどうかはあなたの空腹と勇気次第だ。
この例で Siri の示した10件のラーメン屋が Information であり、もしも Siri が「好みの店」まで教えてくれたら、それは Intelligence になる。そのためにはあなたのスマホはあなたの味の好みを分析し、10件の店の味のデータを分析し、その最適のマッチングを選択する必要がある。そこまでしてくれれば、あなたは迷わずその選択に従って行動を起こすだろう。
つまり情報は必ずしも行動を起こさせるものではなく、諜報は行動を誘発するものだ。大雑把にそう定義してもいい。
僕はこの話を野村の100人ぐらいのアナリストに何度もした。彼らは証券分析のプロで何千万円の年棒の者もざらにいた。超高学歴でプライドが高く、良い情報を集めるのが仕事だ、そう思っている。しかしパナソニックの財務データや業績予想や新製品情報なんか情報端末で誰でも発表と同時に知ることができる時代である。誰でもわかっている情報で株を買う人も売る人もいない、つまり行動を誘発しないのだ。
公表情報を自分の頭で考えて咀嚼して、いま株を買った方がいい売った方がいいという諜報にすればお客さんの行動を誘発できるかもしれない。君たちの仕事においては情報なんか山のように集めてもクズといっしょだ。それしか提供できない者はマスコミかTVレポーターだろ。だから僕はアナリストとしての高給なんか払わないよ、と言った。
それでもわからない者がいる。彼らは基本的に学校秀才というだけで、学校秀才というのは基本的にこういうことの理解力においてはただの馬鹿であるケースが非常に多い。そこで仕方なく全員にとどめのメールを発信した。後日みずほ証券で元野村のアナリストを採用したら、彼がそのメールのコピーを「バイブルにしています」とクリアファイルから大事そうに出して見せてくれた。社交辞令かと思ったが見ると下線だらけでぼろぼろだった。読んだが内容はすっかり忘れていた。外資系証券に行ってみて初めてその意味が理解できたそうだ。
何千万円も給料がもらえるという事は諜報には情報より価値がもっとあるのだ。
CIA はアメリカ合衆国大統領の直轄で国家安全保障法に基づく組織だ。外交、軍事に関わる諜報活動、スパイ工作などをしているらしく、予算は多分青天井だろう。僕も映画、小説以上のことは知らないが「国家が行動するに足る情報(=諜報)」を生み出さなくてはその任務はつとまらないだろう。大統領、このへんにラーメン屋は10件あります、馬鹿もん、そのどれが俺の気に入るかきいとるんじゃボケ!
今の学生は僕らの時代よりも頭を使わなくなっている可能性がある。あくまで可能性だが、そう思った方がいい。なにせ知らないことは検索すればいい。論文はコピペで書ける。漢字は書けなくてもいい。翻訳もいらない。つまり情報クラウドにスマホを通してつながっていれば、自分の脳みそはすっからかんの「端末状態」で生きていけるのだ。僕は何も教えずに「自分で考えろ。お前の頭は何のためついてるんだ?」が口癖のうるさい親父に育てられたが、若い皆さんには親父のつもりでまったく同じ言葉をさしあげたい。
以上、ちなみに大学での講義は当時ずいぶんと時間をかけて考え所要時間90分だった。このブログは約35分で書き、皆さんは5分でお読みになれただろう。この中身は検索しても出ないしWikiにも載っていないからネット時代の恩恵というわけではない。自分で考える50年の癖のおかげで、時々わずらわしいが、やっぱり親父に感謝するしかない。
(追記、3月29日)
本稿は意外に根強い人気があって今でもけっこう読まれている。読者は情報より諜報が一次元上の存在であることは理解できただろう。では情報・諜報の区別と人工知能(artificial intelligence、略してAIとも)の関係はどうか。応用問題だ、正確に答えられる人はいるだろうか?
諜報(intelligence)に形容詞artificialがついただけだ。ここで日本語はまた諜報と知能をごっちゃにする。そして、またまたみなさんは訳がわからなくなる。欧米語の訳語は日本国では訳者の趣味とTPOで変わるのだ。その証拠にガム、ゴム、グミは全部gumの訳語だ。こんないい加減な悲しい言語でみなさんは思考しなくてはならないわけだ。
西洋語をきくと思考停止してsimulationをシュミレーションなんて平気で言ってしまって、ガム、ゴム、グミとおんなじことやって堂々と会議なんかやってる。言ってる方もきいてる方も実はよくわかってない。こういうゴミみたいなことをやっていてもみなさんは永遠に論理思考はできない。
つまり論理思考には言葉の限界がある。そしてそれがない言語が数学だ。だからみなさんはそれを高校まで学んだのだ。では数学で情報と諜報の違いを書けるか。それができると言われるのがベイズ定理だ。そして人工”知能”(AI)はベイズ定理を活用する。これでinformation、intelligence、 artificial intelligenceがみなさんの頭の中でひとつの脈絡でつながった。ものを理解するというのはこういうことだ。
そして、それをintelligenceと呼ぶのである。
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[…] ブラック・ジャック、法学、ゴシック、森、ブルックナー、株式・・・無意識に書き連ねてきましたがこういう単語が農耕民の世界でつながることは想定しがたいのではないでしょうか。そして今の仕事はそういう一見バラバラな情報から「諜報」を生み出すことです。僕ごときが起業してそれで食えるのは、ほとんどの国民が農耕民的であるために「情報と諜報の区別を知らない日本人」に書いた状況、隙間が生じているからです。 […]