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「女性はブラームスを弾けない」という迷信

2014 JUL 15 19:19:26 pm by 東 賢太郎

ときどき音楽を聴く気がない、受けつけないような固まった精神状態になることがある。いわばアタマの肩凝りで、この週末までそうだった。日曜日にちょっと気分を変えようと、ショスタコーヴィチの交響曲第10番をかけたが、途中でうたた寝して終わった。寝不足でもないのに、どうしても頭に音楽が入ってこない。だからこちらも音楽に入っていけないという困った事態だ。

それがその次にかけたブラームスの第1ピアノ協奏曲でこうも変わるものか?眠気が吹っ飛び、すっきりと凝りがとれたものだから少し驚いてこれを書いている。いや、この稿よりも先に、そのブラームスに触発されてすぐに書いたものがある。昨日上梓した「シューマン交響曲第2番  ハ長調    作品61」の稿だ。それは2番について、書きたいと思っていたが凝りのせいでさぼっていた事々だ。

気分が沈んだ時はモーツァルトのピアノソナタ何番ですよなどと音楽をサプリメント化して効能分類する人がいる。それは多分に主観的であり、商売に過ぎないように思うが、だからといって効能を否定するにも及ばないだろう。僕には自分なりの音楽サプリメント集があるし、無意識にその時々に聴く音楽をそうやって選択しているように思う。今回そういうわけではなかったが、こうやって劇薬みたいに効いてしまうこともあるようだ。

ブラームスのピアノ協奏曲第1番はLP時代から知ってはいたが特に好きでもなかった。僕にとって2番変ロ長調の存在が大きすぎたからだが、それを初めて知ることになったのはロンドンでのある演奏会でのことだ。スティーヴン・ビショップ・コヴァセヴィッチのピアノ、アンタール・ドラティの指揮で聴いたそれはブラームス観を変えるものだった。ひとことで言うなら、それまで女々しいと思っていた1番が男性的に聞こえたのである。

日曜日に僕に革命をもたらしたのは朝比奈隆と伊藤恵が新日本フィルとやったCDである。いうまでもなく伊藤さんは女性ピアニストだ。僕には女性はブラームスを弾けないという偏見があった。そうしたら解説に面白いことが書いてある。伊藤を高く評価する朝比奈が「伊藤さんは男ですから」とほめた?そうだ。すごい!どこかの議員と一緒でセクハラになりかねないが、僕のような者にはこれが最高級の讃辞であることがわかる。

「男らしいブラームス」という評価は西洋にはない。たぶん。感覚的に共有する男はいそうだが、ある指揮者が女性の多いオケは台所に見えると言い放って無事に仕事ができた時代は遠い昔だ。しかし、誤解のないことを祈るが、僕にはブラームスは男らしく響いて欲しい。それは奏者の性別のことではなく、鳴っている音楽がそういう風であって欲しいということで、男とはマッチョのことではなく、剛毅を装って生きてきたが本当は弱くてシャイである、しかしまだ枯れてはいない初老の男のイメージである。

このCDでの伊藤さんのピアノは、そういう男の味そのものである朝比奈の棒に寄り添って剛毅にも響くが、とてもナイーヴなものを秘めている。クララ・シューマンへのラブレターである第2楽章は、あんまりそういういい男でもない僕のハートにも熱く熱く届く。ラブレターに聞こえるのだ。いや、あまりあれこれ書くのはひかえよう。こういう演奏を言葉は壊してしまうかもしれないから。

朝比奈隆のブラームスはいいと思う。彼がそういう男だったかもしれない。伊藤さんは男?いや、指揮者の意をくんで男らしくもふるまえる腕前をもった類まれな女性でしょう。ジャン・フルネのラストコンサートで弾いたモーツァルトの24番。老体の遅いテンポに夫唱婦随で懸命に合わせる伊藤さんを見たのはサントリーホールだったか。大和撫子でした。そしてやはりフルネと共演したブラームスの2番で、女性は弾けないという偏見を打ち砕いて下さいました。この1番は日本人が世界に誇ってよいものではないでしょうか。

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