米国放浪記(2)
2014 AUG 27 13:13:44 pm by 東 賢太郎

ついに車が現る
新しい車を持ってきたエイヴィスのおにいちゃんたちは親切で丁重だった。カウンターでキーを投げたおばはんに比べてこの2人はなんていい人なんだ、嬉しさと安堵と語彙の乏しさから僕らはサンキューを百回ぐらい言った。砂漠の遭難者だってレスキュー隊にあんなに礼はしない、きっと。帰り道で「あのバカどもなんであんなヤバいとこ行ったんだ?」と笑ってたろう。とんでもない車を押しつけられて大事なアポがパーになった、料金はいくら引いてくれるの?ぐらいは覚悟で来ている。いま思うと連中のご丁重は当然だった。
クルマはずっと新しくて輝いて見えた。3人乗ってもありあまるぐらいでっかい。こりゃあ部屋だね!H がうまいことをいう。アクセルを踏むとその部屋がスーッと油の上を滑るように進む。家のファミリア、あれはなんだったんだ?これがアメ車だ、ハリウッドの豪邸にあるみたいなやつだよな!僕はそう叫びながら、運転できるだけで胸が躍った。モーテルはすぐ見つかった。というより、ちょっと郊外に出るといくらでもネオンサインが出ている。ベッドはたいがい2つあって、くっつけて3人川の字で寝た。じゃんけんで負けた者が真ん中の谷間になる。これを H がvalley man と名付けた。オレは運転するんだからぐっすり寝たいという主張は通らず、ときどきヴァリーマンをやった。
食い物の感動
その日に何を食べたかわからないが、食事はほとんどマックかその辺のステーキハウスだ。それで5ドルもしない。マックはサラダとケチャップがタダなのに感動してたらふく食べた。ステーキはわらじの様にでっかい。4-500gぐらいで最初は食べきれない。肉というのはライスがいらないぐらい大量に食べるものなのだと知った。それを白髪のおばあちゃんがペロリと平らげているのを目撃し、僕は山本五十六と同じことを想った。こんな国と戦争しちゃあいかん。
さらに感動したのがオレンジジュースのうまさだ。カリフォルニアだから当然もぎたてのようにフレッシュである。空気が乾いていて喉が渇くので1リットル平気で飲めてしまう自分に驚く。このジュースをこの勢いで日本で飲んだらいくら取られるだろう?貧乏性なことが頭に浮かんだ。そういう浅はかなことだけで日本に住むのは人生バカらしいなと思ってしまうのが若者だ。今でもビッグマック、A1をかけたステーキ、オレンジジュースは光り輝く3種の神器に感じる。
支店長のお家に憧れる
翌日、予定通り親父の同僚の方の家におじゃました。奥様と大歓迎して下さり、いろいろご指導や注意もいただき、昨日ひどい目にあった不安がすっかり消えた。お家のさまは当時の銀行の支店長だから今とは大違いだろう。プールがあるだけで憧れた。すごいなあ、海外駐在だとこんなとこに住めるのかとまぶしかった。結局、長じて自分も海外の長として駐在の身になったが、この時の憧れが根強く残っていてああなりたいあんなところに住みたいとずっと考えていたからそうなったかもしれない。若者は願え、願わばかなう。
第2の事件おこる
ロスのダウンタウンを見物しようと愛車を人と車でごった返す裏通りの路上に停めた。あちこち見て歩いていざ出発となった。停めたあたりに戻ってみると、車がないではないか。あれ、この辺じゃなかったか?いや、もうちょっとあっちだっただろ?物珍しさに興奮していて3人とも場所など覚えていなかったのだ。お前が覚えてると思ったのに・・・いわゆるポテンヒットである。この通りじゃないんだろう、もう一本向こうの筋だ。そうかもな・・・通りの感じも似ていて歩けば歩くほどますますわからなくなる。1時間以上3人が手分けして必死に探して、へとへとになった。すべての悪いことを考えたのは道理だ。
盗まれた?違反で持っていかれた?おい、あのエイヴィスのおばちゃんになんて言うんだ?そうしたら、ついにいつも冷静沈着な秀才である I の最後の審判がおごそかに下った。「仕方ないからお巡りさんに届けようよ・・・」。それで観念した。僕らは今度はお巡りさんを探して足を棒にして歩き回ることになった。お巡りさんというのはなるべく関わりたくはないが、こちらが必要になって探しだすといないものだという真理を僕らは学び取ったことになる。なぜならお巡りさんを見つける前に愛車を見つけたからだ。それは何事もなかったかのように探し始めた場所にあった。
スタンドのおっさんに馬鹿にされる
ロスはどうせ最後に帰ってくる。まずはラスベガスに行こうぜということになった。よし、それじゃあ給油だ。たった2日のうちに車がらみで2度も冷や汗をかいているので3人とも用心深くなっている。アリゾナの砂漠の真ん中でガス欠はやめようぜとなったのだ。飛び込んだスタンドのおっさんに代金を渡しながらキャン ユー ショウ ミー ザ ウエイ トゥー ラスベガス?ときいた。エクスキューズ ミー?ときた。もう一回くり返すと ハァ?ラース ヴェーイガス? と豪快に笑って、アホかこいつという感じで道のない方向をあっちだと指さした。東京の千代田区のスタンドで北海道はどっちですかとでもきけばこういうスリルを味わうことができるだろう。
そんな道案内は不要だった。すでにマップの見方を完全攻略していた H のナビが完璧だったから。いよいよ愛車はスピードを増した。55マイル?そんなの平気だろ、65で行こう。向かうはラスベガス!なにやら怪しい響きだ。そして間に広がるはアリゾナの大砂漠である。地平線の彼方までまっすぐなハイウエイ。ハンドルなんかいらないねと I が後ろからつぶやいた。ほんとだ、それを見て荒井由美の歌が聞こえた気がした。
中央フリーウェイ
右に見える競馬場 左はビール工場
この道は まるで滑走路
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