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クラシック徒然草-ショパンコンクールと日本人-

2015 SEP 28 23:23:24 pm by 東 賢太郎

ショパンコンクールの一次予選を日本人が12人通過したそうです。ポーランド15人、中国15人に次いで多いようですが全員女性だそうです。だからどうということもないのですが、男はどうしたんだろう。

コンクールってなんだっけという素朴な疑問があります。ピアノの上手い人ばかり集めてスポーツのように点がつけられるとは思わないからつけるなら好き嫌いだろうし、本来聴衆は好き嫌いで聞くのだからそれならコンクールはいらないと思います。音楽産業が売れそうな人を探すコンテスト、だいぶ昔に「スター誕生」というテレビ番組がありましたが、そんなものだというなら合点がいきますが。

歌舞伎と同じく古典芸能だから「型」というものはあるでしょう。好き嫌いをこえた伝統的な価値ですね。ショパンをムード音楽にしちゃ困るみたいな。しかし審査員もショパンの演奏を聞いたわけではないのです。弟子たちはもちろんショパンを聞いたわけですが、では弟子ならそのまま伝わるかというとそうでもない。たとえばラヴェルに教わったり初演を依頼されたりした人は複数いて、ロン、ルヴィエ、ペルルミュテール、コルトーなどですね、しかし録音での彼らのラヴェルの弾き方はみなちがいます。

だからラヴェルより百年も前のショパンのケースで作曲家直伝の解釈が唯一無二として残っていて、それを審査員の先生方だけが知っているなど想像もできないことです。いや、百歩譲って仮に残っていたとしても、ストラヴィンスキーの自作自演とブーレーズのCDを並べられどっちか一つといわれたら後者を選ぶ人は僕だけではないでしょう。

70年代にポリーニがショパンのエチュードの録音をしてそれが度肝を抜く完成度でしたが、ショパン自身はあんなに完璧に弾けたんでしょうか?それがどうあれ、あれを聞いてしまった僕らはポリーニより下手な人がエチュードを弾いてコンクールで優勝しましたといわれても耳がもう納得しないでしょう。伝統は否が応でも、そうやって日々ぬりかえられるのです。

イタリア人のマウリツィオ・ポリーニはショパンコンクール優勝者です。ああいう人を発掘するというならコンクールの存在意義はあるでしょう。しかし、我が国最高のピアニストである内田光子は日本人最高位である2位入賞者ですが、彼女はその後もショパン演奏家であり続けたわけではなく、それで現在の世界的な名声を築いたわけでもありません。

いまやポリーニや内田のような誰が聞いても天才という水準にある人はyoutubeで個人デビューすることができます。コンクール審査員のプロの耳と何億の一般大衆の耳とで評価に違いが出ても、どっちが絶対ということはなく伝統はそうやって日々ぬりかえられるのです。僕は「重複」は「ちょうふく」で「じゅうふく」は間違いと習いました。ところが大勢の人が「じゅうふく」と読みだして、僕はいまだにそれが気持ち悪いのですが、もうそれが辞典にも載ってしまって新しい日本語になってます。大衆が伝統を覆してしまう、そういうことがクラシック音楽の解釈でも起きているでしょう。

youtubeでデビューしてブレークし、EMIにベートーベン全集を録音させてしまったH.J.リムという韓国女性がいます。現在はラフマニノフの3番とブラームスの2番をアップしていて、女性にとって技術のハードルの高い二大協奏曲をあえて選んでおり、それなりに征服して弾けてしまっています。クラシック音楽というのは演奏技術がトップレベルであることはフィギュアスケートの規定競技といっしょで大前提ですが、そこはクリアしてるわよという世界のうるさ型聴衆向けのプレゼンになっているわけです。

ネットで演奏を無料公開してまず名前を売ってから、コンサートやグッズで収入を得るのがいまやポップスでは潮流です。i-tunesは世界に12、3社いるアップル社が契約したアグレゲーターという目利きが選んだアーチストが商品としてアップされます。彼らが選んだものは売れるというということで、クラシック界でのコンクール審査員に近い役割でしょう。しかしポップスに伝統もヘチマもありません。売れるかどうか、その名の通りポップかどうかが基準なのです。

クラシックは楽曲の新規供給が実質的にはなくなってしまい、ポップスではなく伝統芸能になりました。そうではあってもお高くとまっては衰退します。芸能である以上聴衆がいなくてはいけませんが、そこには伝統と大衆人気のバランスという問題が横たわっています。それこそ日本の歌舞伎界が懸命の努力をしているところで、両立すれば理想ですが、伝統は日々ぬりかわるものなら大衆人気はその原動力ですから無視できず、さらにはどういうプロセスで大衆人気が形成されるかも時代の流れで変わることに注目すべきです。

ショパンコンクール優勝は何より名誉だし、売れちゃえば勝ちという人気商売でもあるから成功へのパスポートになることは確実です。しかし、ここが重要ですが、「スター誕生」であるなら欧米のマネジメントがあえて日本人を選ぶだろうか?今年はぜひ選ばれてほしいが、ショパン弾きとして伝統にかない、欧米のコンサートホールで満場をわかせる何かが飛びぬけていなければ、うまいだけでは商業的には弱いですね。歌舞伎役者に外人が挑戦するようなものでとても狭き門だと思います。

またショパンコンクール優勝者は発足以来ロシアと東欧(もちろんポーランド)が常連でアメリカ、イタリアはあってドイツ、フランスは未だなし。東洋人は80年のダン・タイ・ソン(ベトナム)が初めてですが彼はモスクワ音楽院のロシアスクール、ちなみに70年2位の内田光子はウィーン音楽院で学び日本の音大は出ていません。2000年優勝者、中国人のユンディ・リが欧米の音楽院以外(中国)で学んだ初めてのケースと思われますが、五輪の開催地決定と似てどこか政治的なにおいを感じないでもありません。

僕はH.J.リムというお嬢さんはパイオニアであって、彼女の方法論は画期的と思うのです。簡単でありコストはゼロです。コンクールで箔をつけてプレミア感でチケットを高く売ろうという戦略は、もう古いとはいわないし王道ではあるのですが、紙媒体メディアと電子媒体メディアの戦いは時間の問題で後者が必ず勝つことを知るべきです。そうやって大衆に接する媒体の方が変化すれば大衆人気を勝ち取る方法も変化するのです。渋谷、池袋、青山で大手書店が消えているのを見れば誰でもわかる。別にショパンコンクールに出なくても、優勝者を負かす方法がでてきたのです。ユジャ・ワンやカティア・ブニアティシヴィリはメジャーなコンクールは出てないでしょう?

 

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