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歌舞伎とオペラ

2015 SEP 28 12:12:41 pm by 東 賢太郎

歌舞伎とオペラ。このところ偶然たてつづけに観ることになりましたが、違和感がないのが意外です。

僕の場合、オペラというものはあくまでクラシック音楽の延長でレコード屋に行くと同じ売り場にオペラもあるなと、そんな入り方ですからまず耳だけで聴くもの、音楽ありきの存在だったんですね。劇という側面からオペラに関心を持ったことはありません。

そもそも、その劇や芝居はからっきし圏外でした。無縁だったかというとそうでもなく、成城学園初等科では「劇」や「舞踊」という時間がありました。担任の先生が脚本家で、お嬢さんが同じクラスだった芥川也寸志さんが音楽を書いてくださったり、黒沢明さんのお嬢さんや三船敏郎さんのご子息もおられたりで、学校劇は観たり創作したりが空気みたいにある環境だったし思えば舞台も出ました。

ところが「音楽」の時間といっしょで、大嫌いだったんです。女のやるものと思いこんでたんですね、じゃあどうして女のやるものがいけないのかというとそこがよくわからないのですが、母が大好きでしたが親父は下に見ていたのでしょう。昭和30年代というとまだ終戦から10年ちょっとの世の中で敗戦国の男には複雑なものがあったと思います。

ところがその親父も洋モノの音楽は好きでレコードがたくさんあり、どうもそれだけじゃないですね。世の東西ということよりも、歌ったり踊ったりは芸事であって男の立身出世に関係ないというのがあった。だから勉強していれば機嫌が良かったし、野球をやるのは(それだって立派な洋モノなんですが)軍隊の教練ぐらいに思ってたでしょうが、音楽など遊興であって聞くだけのもの、音大に入りたいなんていえば大反対だったでしょう。

そうこうして音楽については呪縛の氷がだんだん解凍されて、特にベンチャーズが音楽は男がやるもんだというところをビシッと見せてくれて、持って産まれたテーストに正直に従ってここまで生きてきました。しかし劇、舞踊のほうは女の芸事という厚い氷に閉ざされたままだったのです。

こういう男がクラシック好きになると、劇、舞踊でもあるオペラというのは色モノなんです。特に三国同盟を真っ先に脱落したイタリアを親父は完全に「蔑視」していて僕もイタ公と呼んでたし、さらにまずいことに痴情にかまけた色恋沙汰ストーリーが多くて色モノ性が倍加され、イタリアオペラは僕の頭の中で最下等のどうでもいいものでした。

モーツァルト、ワーグナーもややそちらよりに見ていたしベートーベンがたった1つとはいえオペラを書いたというのは堕落に感じていたし、書かなかったブラームス、ブルックナーはさすがだ、偉いなと思ってました。イタリアものについてはラ・ボエームがなかったら今でもそうだったでしょう。

こういう男が歌舞伎を観るというのはだから定義矛盾である。女の芸事を男がやる、音楽もないというだけでもうオペラ未満であり、接する気もしないものでした。

その気が変わったのは、早野さん阿曾さんに呼んでもらってご出演の劇を観て面白かったこと、そして京都宮川町でまさに女の芸事の粋を観て世界観がコペルニクス的に逆転したからです。持って産まれたテーストに正直に従うべきものが、ここにもあった。そういうものをこのトシになって見つけられたのは僥倖であり感謝するしかありません。

オペラと歌舞伎は対比してみたいものがいろいろありそうで楽しみです。僕のオペラのレパートリーは偏りがあるし歌舞伎はまだゼロですが、共通するのは劇ということでいままでとは別な角度からオペラを見る楽しみもありそうです。特に世界であれだけ人気のあるヴェルディですが、音楽として興味がないのはわかったことですが劇という魅力はまったく見落としていたかもしれず、もういちど努力してみようかなという気になりつつあります。

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宵越しの金をもたねぇのが江戸っ子ってもんで、、、

 

 

 

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