ツァグロゼクのブルックナー7番(読響定期)を聴く
2019 FEB 23 1:01:30 am by 東 賢太郎

指揮=ローター・ツァグロゼク
リーム:Ins Offene…(第2稿/日本初演)
ブルックナー:交響曲 第7番 ホ長調 WAB.107
リーム作品は正直のところ僕にはよくわからなかった。リズム感覚が希薄であり音色勝負の曲なのだろうとは思ったのだが、アンティーク・シンバル(客席を含む各所の楽器群に配置され弓で弾かれていたらしい)の高いピーピーいう音自体が生理的に苦手なうえにピッチのずれもあってどうも心地よくない。ツァグロゼクは名前も知らなかったが、この手の音楽に熱心なんだと感心。
ブルックナーもあまり期待しなかったが、冒頭の弦の音に耳が吸い寄せられる。Vaの前あたり5列目で良い席ではなかったが、そこで良く聞こえるVa、Vcのユニゾンが素晴らしくいいではないか。1stVnの高音もいつにない音だ。ホルンとのブレンドも最高。サントリーホールで聴いた弦の音でこれがベストじゃないか?良い時のドレスデン・シュターツカペッレ、バンベルグSOを彷彿。去年のチェコ・フィルやクリーヴランド管の弦なんかよりぜんぜんいいぞ。指揮者とコンマス!Vaセクションは特に見事。
ツァグロゼクは暗譜で振っていたが全部の音の摂理を知り尽くしていること歴然の指揮。知らなかった、こんな指揮者がまだいてくれたのか!アンサンブルは整然だが第2楽章など音楽のパッションとともに内側から熱くなる。こんな演奏はここ10年以上ついぞ耳にしたことがない。Va、Vcの内声が常にモノを言っていて、型を崩さずに内燃するという欧州のドイツ音楽正統派オケの必須の姿である。こういう本格派オーケストラ演奏を聴けたのは幸運としか言いようもない、欧州時代を思い起こしてもカルロ・マリア・ジュリーニ以来のことである。ツァグロゼクは何才なんだろうか、僕がロンドンでジュリーニを聴いていたのは彼の70代後半だった。指揮者は何ら奇天烈なことをせずとも、やるべき大事なことがあるということだ。
かつてライヴで聴いた7番でベスト。本当に素晴らしい。読響も最高の演奏で指揮に応えたことを特筆したい。録音していたならぜひCDにしてほしい。ツァグロゼクに読響を年4、5回振ってもらうことはできないだろうか、ブルックナーを全曲やってもらうことはないものねだりだろうか。
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Categories:______ブルックナー, ______演奏会の感想

Keitaro Mori
4/21/2019 | 11:03 PM Permalink
ローター・ツァグロセク氏の名前は私にとってはすごく懐かしく感じられます。かつて NHK FM 「海外の音楽」で現代音楽が紹介される際に指揮者として しばしば登場していたので、その種の曲の専門家、もとい、そのような曲をも得意とする指揮者との認識でした。それからおよそ 40 年、氏の指揮による演奏を実際に耳にする機会が与えられるとは思ってもいませんでした。
今回の演奏会に関しては、やはりというべきか現代曲が置かれているものの、主たる演目はブルックナー。どのような演奏が聴かれるのか、期待と怖れとが入り混じる中、会場に。
1 曲目の Wolfgang Rihm の曲は現代曲にしばしばある形態ですが、ステージ上の楽団に加えて会場の数か所に置かれた楽器群の「呼び交わし」とも言うべき構成の曲であり、それがなかなか良い響きを作り出していたので、実演ならではの音響空間を体験することができました (「響き」を意識させることで次のブルックナーに繋げるという意図があるのでしょうか) 。
で、ブルックナーの第 7 番。冒頭部分、弦楽器が弱音で始まり、低弦が重なっていく中、このオーケストラにかねがね感じていた楽器音の美しさが際立って聞こえてきました。弦から出た音だけでなく、各弦楽器の木製の胴部分から出される音が、目の前に現れるかのよう。これだけで曲にすっかり引き込まれてしまいました。もしかすると砂を噛むような演奏を聴かされるのではないかといった懸念は見事に払拭されてしまいました。やはりこの人もヨーロッパの良き伝統の中で歩んできた人なのでしょう。
1, 2 楽章に比べて 3, 4 楽章は早目のテンポに移ったように思ったが、その結果としてもたれることなく、明るい曲想を際立たせた演奏とすることに成功していたのではないでしょうか。
ともあれ、これ程の演奏が聴けるとは正直思っていませんでした。是非別の曲も、できればやはりブルックナーで、5 番辺りを聴いてみたいというと欲張りに過ぎるでしょうか。