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バンクシーの落書き騒動

2019 FEB 22 0:00:41 am by 東 賢太郎

むかし何げなく書いたブログです。5年前(2014年)のものです。今や有名になって、世界各国で落書きがバンクシー作品じゃないかと騒ぎになってるが、5年前はほとんど知られてませんでしたね、このブログもあんまり人気はありませんでした。

Banksy’s Dismaland!(バンクシーのテーマパーク礼賛)

英語にsarcasticという形容詞があります。これがわからないとバンクシーもわかりません。皮肉って非難、冷笑するという感じですが、そう単純なものではなく「皮肉る」よりもっとスピンがきいて威力があります。英国人が得意というか、このマインドは英国人起源であることはほぼ間違いないと考えるし、英国人を良く知らないとたぶん理解が難しいとも思います。米国人が「It’s terrible!」と直球でけなすところを、あたかも褒めるかのような言葉で変化球でけなすのが英国なのです。

このDismalandなるテーマパークは仮想の「善」です。Disneylandのおちょくりだから、「米国がばらまいた偽善」と読み替えなくてはなりません。ファンタジー、英雄礼賛、退屈な日々からの脱却をうたってナイーブな愚民(idiot)をつくり、絶対勝てない的屋のゲームを競わせ、得体の知れないホットドッグを食わせ、借金でお困りでしょうと更に金利の高いローンを売りつける米国をテーマパークという「善」の象徴の風体を装って馬鹿にしている。しかし更に馬鹿にしているのはそれに気づかず騙されて生きている「あなた」という idiot (馬鹿)なんです、という強烈な毒味を効かせています。

You are so complex that you do not always respond to danger. は「あなたは複雑な人だ。複雑すぎて気がついてない危険なことがありますよ」と表向きでは言いながら「あなたみたいな単細胞の馬鹿はみたことない。日々騙されまくりの人生だね」と言っている。sarcasticというのは言いたいことの真逆を直言しておいて、実は相手を批判したりおちょくったりする変化球のことなのです。言われた方は裏の意味に気がつけば不快なのですが、「ほう、気がついたの?じゃそこまで馬鹿でもないんだね」というニュアンスがあって、それに対して真剣に怒ると今度は救われないという無言の圧力がある。

「このホットドッグ、何のお肉が入ってるか当ててごらん、当たった人は無料にするよ」。「ポーク」「ビーフ」→「はずれです、お金払って」、「いえいえ、実は**じゃないの?」→「当たりです!タダで持ってきな!」、さて、あなた、この**肉のホットドッグ食べますか?はずれ=馬鹿、あたり=賢い、でも食べられない。sarcasticは負けがないのです。常に優位にある。ご参考までに、アッパー(上流階級)の英国人はそうでもないが下のクラスの英国人インテリは「おいしいね」を delicious なんて絶対言わない。米国人の terrific なんて猿なみと思ってる。こう言うのです「Not too bad」。基準がお高い。私は(君たち)猿とは違う。いつも言外にそれを imply したいのです。

僕の仕事は6年間ロンドンで毎日英国人インテリたちと株の取引をすることでした。この「毎日」ってのが大変なことなんです。例えば高校時代は、毎日、昼休みに野球部員は部室に集合して200本のバットの素振りをさせられてました。3年間毎日。だから今でも同世代では体が強いかなと思っています。同じことで、毎日商売で英国人顧客にsarcasticな物言いで苦情を言われていじめられていると、それが伝染して僕自身がsarcasticな人間になってしまっているかもしれない。だから5年前に動画を見てビビッときて、心から気に入って、やっぱりそうかということに感動して、バンクシーなんか誰も知らないだろうけどお構いなく自画像としての「礼賛」のブログ執筆に至ったわけです。

僕は米国礼賛派ではありませんが、そうはいってもお世話になった米国だから、バンクシーの米国おちょくりが気に入ったわけではありません。英国人は judge(審判) になりたがる。それが妙に懐かしいなと、バットの素振りみたいにですね、懐古心がうずいたというところです。6年間英国のクラシック音楽専門誌Gramophoneを愛読し、あれで judge のなり方を心得ました。これで議論がうまくなって随分と得をしました。インテリしか読まない雑誌ですからね、上流階級の英語の単語から言い回しから何から勉強になった。上流は攻撃されないんです英国では。それを覚えたい人にはGramophone購読を強くお勧めしますよ。それで肌で分かったのです、terrific は確かに猿だな、差別だ何だ言っても仕方ないなということが。ただそれを表立って口にしてはいけません。お品がないし、そこでたたかれてしまう。

前に書いたことですが、僕が知る限りそれを最も elegant に intelligent に言いえた名言は、英国人指揮者サー・トーマス・ビーチャム(Sir Thomas Beecham、1879 – 1961)のこれです。これぞ最高傑作である。

Ravinia is the only railway station with a resident orchestra.ラヴィニアはレジデント・オーケストラを有する世界で唯一の駅である)

ビーチャム卿は怒っているのです。このワン・センテンスで、猿にエロイカはわからんと名誉あるラヴィニア音楽祭を完膚なきまでこき下ろして、呼ばれても二度と指揮に行かなかったのです。でもそう見えないでしょう? カッコいいでしょう? 将来の日本を背負って立つ若者のみなさんはぜひ、こういうことを学んでくださいね、学校の先生は絶対に教えてくれませんからね。

そのココロは、ここにございます。

プーランク大好き

sarcastic+witty である。これをRavinia駅長や音楽祭委員会が「侮辱だ!差別だ!」なんてやったらサマにもならない。みっともないし、それがそもそも民度で負けてるよねとなって思うつぼにはまってしまう。だからやらないし、この逸話をこじゃれたアネクドートとして音楽祭の栄えある歴史の一幕に組み込んでしまっています。もちろん米国のインテリもスマートなのです。

大英博物館にも似た事件がございますよ。バンクシーに展示品を装ってこんな「原始洞窟壁画」をこっそり置かれ、おちょくれらてしまったのです。博物館は3日それに気がつきませんでした。

しかし、不法侵入罪だなんて下種なことは大英博物館はいわないのですね。ツイッターでこう書いてしまうのです。

The hoax piece is going back on display – ‘officially’ this time – in our exhibition highlighting the history of dissent and protest around the world.

Listen to co-curator Ian Hislop talk about this piece today at 9.00 on :

(この展示品は偽物であり撤去いたしましたが、当博物館が現在展示しております「世界の反抗と抗議活動の歴史」において、このたび正式な展示品」として復活させる事に致しました。当館の共同館長であるイアン・ヒスロップが9時からBBC第4放送にて当作品につき解説いたします)

知性と教養とお品と格調を持って下種の悪戯をまじめな顔して返し技の悪戯で食ってしまう。日本国外務省と外交官はアジアの英国流でいくべきですね、できるのは日本だけだし、カッコいいから反撃できませんし、すれば猿の猿回しになって失笑買うだけですしね。

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Categories:自分について, 若者に教えたいこと

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