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ものすごく強かった阪神タイガース

2023 NOV 7 18:18:56 pm by 東 賢太郎

今年はディナー等であまり日本シリーズを見られず、見た日も疲れて半分居眠りであんまり記憶なし。仕事がいかに忙しかったか、きっと何年かしてそういう風に思い出すんだろうが、いい試合ばかりでもったいなかった。

どっちのファンでもないが、カープはこんな強い阪神とCSであそこまでよく競ったと思う。オリックスは個人的に世話になってるし中島監督のファンでもあるので勝って欲しかった。第6戦、これが見納めの山本由伸は目を皿にして見た。14奪三振。特にうるさい近本、中野、森下、大山の1~4番から7三振はモノが違うからきっとメジャーでも大成してくれるだろう。第7戦はもちろんしっかり見た。見るというのは僕は習性からピッチャー目線なんで配球とバッターの反応を無意識に見ているように思う。

宮城と青柳。まず青柳はサイドで球威満点だが荒れ球でパリーグにいない。最後にとっておいたことになるが目先を狂わせて3、4回ぐらいで伊藤将、これは素人でも分かった。岡田監督は青柳にこの球場でお前で今年が始まった、だから締めはお前だと伝えたらしいがうまいこと言う。そりゃやる気になる(第7戦はなかったかもしれないんだけどね、いい経営者だ)。で、彼が投げてるうちにノイジーの一発で3点入った。もうこれで安定した伊藤将で思うつぼ。オリックスは焦ったろう。宮城は次の回ゲッツーで終えたかと思ったがリクエストでセーフにひっくり返って森下。前打席で打たれており、一度ほっとしてるので危ないと見たか中島監督はそこで比嘉に替えた。これが森下、大山、ノイジーに打たれて珍しい作戦失敗で万事休す。結果は想定外のワンサイドで7-1だった。

阪神は強かった。去年岡田監督就任のニュースをきいたとき、オリ監督時代のイメージがあってなんとなく愚将っぽく、ああこりゃだめだまた昭和の野球に戻って阪神もアウトだなと舐めていた。

蓋を開けると彼はしたたかな知将だった。ああいうタイプの人は東京人にはそう見えないんだが、いやいやあれが大阪の怖さなんだ。

宮城は予想通り危なげなく立ち上がったが4回、打順二回り目にちょっとした場面があった。3番森下が宮城の絶対の決め球、右打者のインローのクロスファイヤを完璧なミートで三遊間突破。ヤマ張られた感があった。それでだろうか審判がやや広めだったせいか、4番大山は厳しめにいってぶつけてしまう。宮城にあるまじきミスで動揺を感じた。そこで5番ノイジ―。きのう山本の外角高め速球を流してホームラン。あそこは危ない。それを読んで決め球クロスファイヤに張ってるかもしれん。だからそこからスライダーを落とせばボテボテか三振と思った。森捕手がそう読んだかどうか、それが来た。失投でないとても低い球をノイジーはタイミングばっちりでレフトスタンドに。僕には「いらっしゃい」に見えた。事実上これで勝負あった。蟻の一穴は森下の痛烈な三遊間が宮城に与えたショックだったと僕は思う。第2戦でやられていたあの球を狙った阪神の勝ちだ。

このシリーズの岡田采配は森下あってのものだ。この男と最終戦に抜擢した青柳をノセたのが、もし岡田マジックがあるとすればそれだ。彼は言葉を選んでる。凄く重いだろう。データを見ると、森下は公式戦はプロの壁にあたってOPS.691だがシリーズのイメージは0.9ぐらいの感じだった。これとシーズン.859の大山が並ぶ3,4番は、両方1.0代だった3連覇中のカープの丸・鈴木誠也ぐらいの圧が相手投手にかかるだろうと思う。ところが5番ノイジーは.623だからプレッシャーが切れちまう。.837のサトテル5番でいいようなものだしそうした試合もあるし、何より第2戦の宮城にはサトテル5番(1安打)、6番ノイジー(無安打)で正解だった。なんで第7戦はノイジーだったんだろう。何かあったんだろう。そいつが打っちまうんだから岡田マジックだ。

森下というとたしか2020年だったか、こいつ凄いかもと思う事件があった。練習試合で中央大学が巨人の二軍に20-7で爆勝ちして、たまにアマが勝つぐらいはあるがこの点差は目を疑った。打線が半端ないということだ。そのスタメンの4番がDeNAの牧、2番が日ハムの五十幡だったのだが、3番が森下だったのである。その時ボコボコにされた二軍監督は阿部で、彼も中大だ。去年のドラフトは森下とりたかったんじゃないか。

そう、その去年のドラフト。ご記憶にある方も多いと思うが、一番人気は高校生の浅野翔吾(高松商)だった。1位指名は巨人・阪神が激突して原と岡田が壇上にあがって全国的に盛り上がり、原が派手なガッツポーズで雄叫びをあげたのである。そこでやむなく阪神が外れ1位で取ったのが森下だ。その男が日本シリーズで打ちまくって新人最多打点記録でその原辰徳をぬくというおまけ付きだ。大阪の皆さん、災い転じて福となした1年がかりの大逆転劇は痛快だっただろう。世の中こんなもんであり、ちょっと勝ちゃあいいってもんじゃない。若い皆さん、最後に笑った者が勝ちだよ、人生1度や2度負けたり失敗したぐらいでがっくりしちゃあいけないよ。

あの近本だってそうなんだ。根尾、藤原、小園で甲子園が湧いたあの年のドラフト。阪神は1位指名で藤原、次いで辰巳をはずしてがっくり、破れかぶれ感満載ではずれはずれの近本(大阪ガス)を取ったように見えた。TVで見ていた僕もそんな優れた選手と思わなかったし、なにせ会場の球団幹部は明らかに熱量が落ちていて、それをよそに近本が地元で胴上げされてたのが気の毒に見えてしまった。辰巳は楽天に決まったが社高校の2年後輩だ。近本が燃えたことは想像に難くない。あっぱれだ。

まだある。大山もそうだ。2016年は好投手が目白押し。田中正義が1位で5球団、さらには佐々木千隼がはずれ1位の5球団競合と異例の事態になったが、ふたを開けてみるとその2人が同年ドラフトの2大期待ハズレであり、かたや、阪神が金本の英断で1位指名したのは大山(白鷗大)だった。ところが足りてなかったピッチャーを当然指名すると思いこんでいた会場の阪神ファンから失望の声が響き渡った。悔しかった大山は今年リーグ優勝で涙した。

阪神が強かったのは投手陣といわれるが、現役ドラフトで儲けものの大竹が12勝もしたなんてフロックもある。決定的な作戦成功は後ろを固める近本がセンターで、ショートだった中野をセカンドに回し、ショートに木浪を固定して当たったことだと僕は思っている。この鉄壁のセンターライン・トライアングルはカープ3連覇時代のタナキクマルに近づきつつある。ただ要になる捕手が弱い。カープはOPS.893で恐怖の8番打者曾澤がいた。阪神は1年秋から履正社の正捕手だった坂本誠志郎がまだOPS.543で二軍並だが、化けると連覇の可能性が出てくる。

誰も触れないが、讃えたいのは最終回、岡田監督が功労賞の花道を用意して2死から登場させたクローザーの岩崎、ではない。その初球ストレートを狙いすまして、僕が見た右打者のホームランとして最上位かもしれない凄まじい音とミサイルみたいな弾道の一発を左翼5階席に突き刺したオリックスの4番、頓宮選手である。素晴らしい。これぞ男だ。いいものを2023年プロ野球の最後の最後に見せてくれてありがとう!

岡田監督、お見事でございます。訥々とした優勝監督インタビュー、良かったね。感動しました。「いやオリックスは強かったですよ」、この言葉、僕には腹にずっしりと重たく響いた。そして思った。これを岸田総理が言ったらどうだろう? 0.1秒後には吹かなくても飛んで虚空に消えてただろう。

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