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目下の日本は非常に危機的

2023 NOV 10 18:18:11 pm by 東 賢太郎

1980年代、米国は経済覇権を脅かした日本企業の底力に本気で焦った。といっても30代以下の人には信じられないだろうが僕は1982~84年にウォートンスクールにいて教室でそれを体感している。大谷翔平の二刀流は野球の神様ベーブ・ルースを凌駕してしまったが米国人が怒った話はあまり聞かない。しかし、国ごと抜かれそうな勢いとなると笑顔で済ませられる話ではないのであって、その後、米国は円ドルレート切り上げ(1985年、プラザ合意)で対日貿易赤字解消への強烈な反撃を仕掛け、円は対ドルで約6割も高くなってしまった。輸出は大打撃を被ったが、それは逆に日本企業の土地担保借入によるドル建て購買力を6割増幅したということでもあり、米国の象徴であったコロンビア・ピクチャーズ、ロックフェラーセンタービル(左)等を買収するに至り、ついに、1989年に、国家経済力の象徴である株式時価総額で日本国が米国を上回った時、ウォールストリートでは真珠湾に喩える怒りの声さえあった。冗談じゃない、こっちは実力勝負で勝っただけだ。人為的な為替操作の方がよほど汚い、そのしっぺ返しじゃないか、三菱地所、ソニー、よくやったという快哉を叫ぶ気分は尖兵の我々にはあった。しかし、もしも他国が札びらで富士山を買ったらどうか、やり過ぎではないかという一抹の不安もよぎったことはよく覚えている。

米国は本気で焦り、そして怒った。そこで貿易摩擦訴訟に加えてBIS規制による日本の会計の弱点を突いた金融機能締め上げという手が打たれ(父ブッシュ政権)、1997年にサッチャー革命を模した金融ビッグバンなる号砲のもと金融システム改革法制定が強行された。これはFree、Fair、Globalの改革3原則が掲げられたことからも根底から異質だった日本市場を腕づくでこじ開け、米国ルールに従わせ、日系証券(つまり野村)をスキャンダルで崩壊させて米系証券を民営化に関与させる目論見の米国民主党クリントン政権の主導だったことは明らかである。世界最強の野村證券の最前線の指令官のひとりであった僕は当時香港の社長であり、人生で日系他証券を敵と思ったことなど一度もないが、まして米系ゴールドマン、メリル、モルスタなぞ来るなら来い、なんぼのもんだねと歯牙にもかけてなかった。

1990年代の国内は資産バブルがはじけ、野放図な担保金融が逆スパイラルとなって信用破綻連鎖となり上場企業が軒並み倒産しかねないという未曽有の事態だった。長銀、山一が破綻し、橋本内閣は膨大な不良債権処理で実質債務超過の銀行を統合すべく独禁法改正で戦前の純粋持株会社(ホールディングカンパニー)を復活させ、グラス・スティーガル法に基づく銀行・証券の垣根は事実上消えた。この大蔵省(当時)の動きを僕はドイツ、スイス時代に3度来欧された田淵義久前社長から直に聞いて知っていた。1992~2000年という業界受難の時期に海外にいなければ事態の巨視的な視点もなく、7年後に銀行側に移る決断をすることはなかったかもしれないと複雑な気分でもある。野村を裏切る気はなかったが必要とされておらず、必要としてくれたところに行っただけだが。

独禁法改正は金融界のみならず経済界全般に大きな影響をもたらすことになる。ホールディングカンパニーという新たな上位レイヤーにより不良債権処理はもちろん異業種のグループ化、経営責任や信用リスクの分離、財務・人事の分離、M&Aによる合従連衡、営業譲渡、ノンコア切り出し(カーブアウト)など特定部門の利害にとらわれない戦略的決定ができるメリットがあった。ただ、その米国流の制度は資本と経営の分離を組織化したメリットと引き換えに、現場と経営が近い日本的経営の強みを削ぐデメリットもあったことは指摘されるべきだ。ここで日本に仕込まれたのが「株主資本主義」だ。投資家は資本効率を求め、毎期の配当を求める。企業は長期に育てた戦略子会社であれ、目先が不採算であればホールディングカンパニーにより切り捨てられ、口をあけて待っている米系に飲み込まれる素地ができてしまった。

さらに、資本家ではないのだから支配者ではないホールディングカンパニーが、日本的人事風土の中に置かれることにより、配属される役職員の上下関係の色に容易に染まってしまった。現場と離れてニュートラルな判断を可能にする本来のメリットが、現場を知らない者が全社的経営判断を司る場という神棚に祭り上がり、そこのトップが全グループのCEOで、そこへの配属される者がエリートと見做され、必然的に人事・社内政治の達人と学校秀才の巣窟となって現場とは完全に乖離してしまう。これは明治憲法下で陸海軍の最高統帥機関となったあの「大本営」とそっくりで、統帥権のある天皇を資本家(株主総会)に置きかえたに等しい。

このホールディングカンパニーに米国ネオコンが資本を入れ、あるいは経営コンサルをし、それを通して指示、ルールに従わせるためのstrong manとして機能させた。そうすれば日本を代表する大企業グループを簡単に買収したり、民営化させたり、内部からコントロールすることが可能になる。strong manは英国の植民地支配の図式における現地の統治を委ねる現地人の怪力男の意味で、終戦後のCIAによる岸信介(自民党)、正力松太郎(読売新聞)がそれ。ゼレンスキー(ウクライナ)、ネタニエフ(イスラエル)もそれだ。strongの形容は稚拙に見えるが米国とディールして貢献するとThank you for strong support ! なんてくる。お前は俺の怪力男だ、頼むぜと誉めており、評価してカネもくれる。標的の大企業グループにそれを配し、宿主の脳を操る寄生生物のようにコントロールするわけである。構造改革でホールディングカンパニーを「脳」に仕立てれば一ヶ所に寄生すればいいから支配ツールとして最適だった。

かくして、支配される側から見れば、ホールディングカンパニーという箱は仕事は全くできないが社内政治だけうまい人事屋にとって米国ルール(株主資本主義など)を振りかざせば時流に合ったもっともらしい支配権と権威を得られる格好の装置となる。仕事の業績、人望、リーダーシップなど微塵もなく、バブル処理の空気に乗って過去を否定する者、つまり旧来基準における仕事のできない者がわざわざ選ばれるのは、元々出世しそうもない奴の方がコントロールが容易だからだ。人事権を振り回すだけがそういう悲しい者の唯一の権力のよりどころだから、今度はそれに取り入る特技のあるヨイショ野郎が大量にはびこるようになる。寄生虫の寄生虫みたいなものだ。そいつもまた悲しいほど無能なのだが次期社長になって同じことが連綿と続く。現場のまともで仕事ができる者たちはあほらしくてやる気が失せ、リーダーも士気を失って排除され、日本企業を確実に内側から弱体化する巧妙な時限装置がそうして仕掛けられ、作動を始めたのである。各社に激増したそういう無能な社長がどれだけ平成時代の大企業を没落させて米国資本の餌食になってきたか、サラリーマンだった方はお心当たりがあるのではないだろうか。

政治はどうか。経済だけは一流であった日本はバブルの後始末で無為の10年を浪費したとはいえ企業の底力が衰えたわけではなく、政治次第で復活の余地はまだ十分あった。ところが、もとより三流で社会党連立政権まで出現させた政治は頼りになるどころか経済にも増してダッチロールの末に米国の支配下に入り、政治家でないから想像にはなるが、首相官邸がまさしく企業におけるホールディングカンパニーと化したと仮定すると説明力のある展開を見せた。米国が都合の良い総理をコントロールして支配する策略がほぼ定着した、つまり、現在もまったくその延長線上である “ジャパン・ハンドリング” の原型は平成の初頭から橋本政権あたりにかけて、恐らく民主党のクリントン政権(1993~2001年)時代に成立したと思われる。日本国は頭のてっぺんからヨイショ野郎の巣窟と化してめめしく弱っちくなり、じっくり30年かけて茹でガエルにされることで普通の国になり下がったのである。これが政財界を蝕んだ「失われた30年」の正体だ。

9月2日の稿に、こう書いた。

(バイデン政権の支持がバックボーンである)岸田総理は米国のためにいい仕事をすればするほど日本国民のためにはならず、したがって、事の必然として政権支持率が下がる(注・時間と共に、予定調和的に、そうなっていることにどなたもお気づきだろう)。(中略)国民に何を言われようとバイデンからの評価は上がるのだから岸田政権は安泰だ。極論すれば支持率0%になっても選挙まではもつから、総理が再選を諦めれば怖いものはない。あと1年であらん限りの利権を固めれば人生の帳尻は十分すぎるほど合うだろう。

この稿は想像で書いたが、ほぼ事実であるように思える。なぜなら、その後2か月間に反証が何一つ出てこないからだ。

さらに想像をたくましくしよう。こんなものかもしれない。

世界の覇権国アメリカを維持するコストは膨大だ。「温暖化、SDGs? おい、お前馬鹿か?そんなもんじゃ目先のキャッシュ回らねえぞ。いくら赤字だと思ってんだボケ。もっと劇薬打てよ」。「了解しました。しょうがねえな、また戦争やれや。犬猿の仲の国や革命軍そそのかして仕掛けさせろ、そいつらにカネ貸して恩きせて武器を売れ、薬もワクチンもだ」。

まあこんなもんだろう。

予算上限にきてる米国はもう金は出ない。ウクライナもイスラエルも座礁し、ネオコンの覇権保持がかかる大統領選挙まであと1年。なりふり構わず不正選挙でも何でもやるっきゃない。日本には国民感情などお構いなしでLGBT法案みたいな噴飯物を押しつけてくる。「ちょっと待て、こんなの強引に国会通したら支持率暴落だぞ、へたしたら保守新党ができて自民は左翼扱いされちまうぞ」。「総理、お忘れですか、大丈夫なんです、ほら、伝家の宝刀を通したじゃないですか、ワタシの力で。LGBTの “T” ですよ!「ワタシ女性よ」でおっさんが女風呂オッケーなんです。世の中は言ったもん勝ちになったんです。だから『ワタシこそ保守よ』っていいまくります!」。

「おお、そうか、素晴らしく高度な理論だ!さすが弁護士の稲田くんだな、バイデンさんのお手伝いをすることが我が政権の生命維持装置だからな、もちろん君は将来の総理候補だって言っとくよ」。やれやれ、たまんないよ、長くやりたいんだけどね、長引けば長引くほど支持率ばんばん下がるだけじゃないか。木原くんの秘策で減税やってやるのに「減税クソメガネ」になってるじゃないか。いったいどうなってんだこの国は。

総裁選は来年9月だ、このまんま座して死を待つのも阿保らしい、自爆覚悟で解散するか。でも、どっちであれ、来年9月までに俺の政権が終わると劣勢のバイデンはまずいよな、次の総理が増税もウクライナ支援もいたしません!なんて言ったら絶対怒るよな。みんな40議席も減る選挙なんてまっぴらだ。俺の再選を握ってくれたら増税メガネはひきうけるぞ。こっちも続投でバイデンも勝って長期政権は確定だ、俺の十八番の人事戦略をくり出せば支持率なんかまた上がるよ。

その人事戦略で任命したんだろあいつ、名前も忘れたよ、税金滞納して4回も差し押さえ食ってるあれ、よりによって財務副大臣?こいつが俺から税金取ってるわけ?税金でメシ食ってんだろ、こいつ?なんか泥棒に追い銭してる気分になってくるわな、俺がいくら払ってると思ってんだよ、ふざけんな。こんなの任命しちゃう総理もね、もうちょっと頭のいい人にしてくんないかね。世界最強だった日本企業をぼろぼろにしたホールディングカンパニーとおんなじじゃないかこの政権は。

ここまで政治家が腐ると、国会という場は、「やってます」の迫真の演技が売りの役者衆による歌舞伎座みたいなものになる。「実は前からそうだったのがバレましたね、まあ我が国はずっと米国の準州みたいなもんだったんですが、このたびは改めてそれを自認したまでなんです」。「閣僚が賃上げ分を自主返納って、どうせ口だけだろ?」「口だけも何も台本ですからね、読んでるだけだろってご批判されましてもですね」「買春やるわ、収賄やるわ、秘書殴るわ、税金払わんわ」「ええ、たしかに、おっしゃるとおりでございます。ただ、かたき役って申しましてね、悪人が登場しないと舞台が盛りあがりませんもんでね、えっ、世襲議員はいかん?いやいや世襲は当然でございましょう、歌舞伎なんですから」。

 

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Categories:政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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