広島カープの9月大失速の原因
2024 OCT 14 12:12:21 pm by 東 賢太郎

今年のセリーグ順位の予想と結果はこうなった(今年のプロ野球予想)。
〖予想〗 〖結果〗
- 巨人 巨人
- 阪神 阪神
- DeNA DeNA
- 中日 広島
- 広島 ヤクルト
- ヤクルト 中日
中日を最下位にすれば全部当たりだった。巨人、阪神、DeNAはみな中日に大幅勝ちこしだが広島だけ大幅負けこしだ。去年に観に行ったナゴヤドームで森下があっけなく打たれて完敗し、中日>広島のイメージが焼きついて4位にしてしまったが、その強さは広島戦限定だったのだ。
セリーグ唯一の波乱はその広島が8月まで首位だったことだ。そこから9月に大失速して「何故だ?」という声があがっているが、戦力どおりの位置に回帰しただけだから不思議でも何でもない、広島の長打力不足は3月の予想時点で決定的だったから5位にしたのだ。波乱の要因はひとえに新井監督のマネジメント力である。長打なしで勝てる野球に徹し、投手陣の頑張りと矢野、小園の成長を引き出した。しかしそれにも限界はあった。ふたをあけてみればただでさえ4番不在なのに新外国人2人がクズ。結果としてチーム本塁打52本はDeNA、ヤクルトの半分という惨状で12球団最下位。大谷サンひとりの54本にも負けという想定以上のドツボ状態で、それでも波乱を生み出した新井の力と選手の気力には最大の賛辞を贈りたい。短打のみの貧打線で首位を走ったというのは、東京から大阪まで軽自動車で時速100キロ越えでぶっ飛ばすようなものであって、案の定、京都あたりでオーバーヒートして脱落ということだったのだ。
その脱落劇(9月の大失速)は並大抵のものでなく、5勝20敗の歴史的大敗(リーグタイ記録)であったのだからその原因も並のものでなかろうとするのが論理的思考というものだ。元野球選手である評論家の方々は「今年は暑かった。広島は屋外球場で不利だしビジターの移動距離も長く9月に疲れが出た」という。調べると今年8月の広島の平均気温は30.7度で観測史上最高だが、去年も30.0度と暑かったがカープは2位になっている。阪神の高校野球期間中の死のロードが京セラドーム使用で軽減して相対的に有利になった影響もいわれるが同球場のゲームは過去10年9試合で変化はなく、カープは阪神と12勝12敗の五分だからあまり関係はない。したがって、もっとはっきりした今年特有の理由があるはずだが、ネットで探すとそれと思われるものがあった。
プロ野球のホームランが少ない!チーム成績の推移から投高打低の原因を考察!
今季は飛ばないボールで前半(シーズンの2/3消化時点まで)は本塁打が1日平均6本だったが、残りの1/3では8.3本と38%増えている。同記事は「前半戦は”飛ばない”ボールが採用されホームラン数が減少し、世間からの反応を受けて後半戦は従来のボールに戻した可能性が高い」と述べているが同感である。
広島投手陣の防御率は8月までトップであり、これは先発、セットアッパー、クローザーの頭数、球速、制球などボールの反発係数に依存しないアドバンテージ(優位性)が広島投手陣にあったことを示す。シーズン2/3時点(7月末)まではボールの低反発性によって他球団も長打が出ないため投高打低の傾向となり、カープの低い得点力は守備力や小技で補える範囲にとどまり首位にいられたのだ。ところが8月あたりに飛ぶボールへの変更があると例年どおりの状態になり、打撃力の劣位が補いきれなくなって、結果として投手に心身ともに疲弊蓄積が進んだのだろう。
その蓄積が限界に来ていたことが、あたかも「ダムの決壊」のように一気に表に出てしまったのがこのゲームだ(9月11日、マツダスタジアム)。
この試合、2位広島は2ゲーム差で首位巨人を追っていた。今年ブレークした先発アドゥワが6回まで巨人打線を散発2安打と完璧に押さえこみ、救援のハーンが剛速球で7、8回を零封し、9回は方程式どおり守護神・栗林がマウンドに立つ。ここで広島が反撃の狼煙となる勝利をあげることを疑う者はいなかっただろう。
ところが、何があったのか、栗林は制球がままならず四球、四球、安打、死球、安打、四球で6人から一死も取れず3失点で逆転を許す。無死満塁で救援した森浦も安打、安打、遊ライナー、安打、三振でさらに4失点。すでにご臨終感が漂っていたここで救援した大道が今季たった5安打の増田に三塁打を喫してさらに2失点。合計9失点。もう点数の問題ではなかった。マツダスタジアムは凍りつき、さすがに僕も顔面蒼白になった。なぜ鉄壁のカープリリーフ陣がこんなことになってしまったのだろう?
いまビデオを見返してみたが、栗林の球に特に異変があったようには見えない。ただ、今年は新人のころ全員が空振りだったフォークを投げない。落ちが悪く長打されるケースが増えたからと思われ、152キロの速球はファールされているのでクローザーに必須の空振りが取れない。捕手石原が釣り球で取りに行った吉川への高め速球を指にひっかけて死球とし(これはショックだ)、替わりの落ち玉であるカーブを岡本に三遊間に痛打されて(大きなショック)ウイニングショットがなくなったと思う。左足の着地点とボール交換に神経質なのは2点差ゆえのコントロールミスによる被弾を恐れたと思われ、自信なさそうに見えるから相手打者は勢いづいてしまう。そうしてイケイケになった巨人打線の「圧」に耐えきれなかったゆえの四死球に思える。栗林はこんなピッチャーではない。彼の心理の中で何かが起きたと思うしかない。
思い出すのは7年前の7月7日。息子と神宮球場で目撃したヤクルト戦。ここでもクローザーに転向初戦であったエース小川に何が起きたかという異変があった。5点ビハインドだった広島が9回にバティスタ、菊池、新井の本塁打で6点取って逆転勝ちし、いわゆる「七夕の奇跡」をおこしたのだ。カープ側スタンドはいけいけの嵐となり、ヤクルト側で観ていた我々もその渦に巻き込まれていた。
しかもあれは+6点、今度のカープは-9点でマグニチュードは1.5倍。選手の気持ちが切れたとは思わないが、チーム競技には潜在的な集団心理が「空気」になって働くものだ。4番が三球三振してこのピッチャー打てないなとなると全員が打てなくなる。元気印が二盗、三盗に成功したりすると打線に火がついて大勝したりもする。絶対的守護神がついに崩壊したこの試合、カープベンチの集団心理がぽきっと折れてしまったかどうか、そうであっても不思議でないし、集団心理は個々人は得てして気がついてないものである。新井監督は7年前の7月7日に自分のホームランでそれを引き起こし、効果を知っている。それをポジティブに向けるように懸命にマネージして8月まで大成功だったが、この敗戦はどうしようもないものだったろう。
そうしたらきのうのパリーグのCS第2戦(ロッテ対日ハム)でまたまた強烈なものを見た。初戦は佐々木朗希に押さえられた日ハムはこの日も2-1とビハインドで9回を迎える。守護神の益田がマウンドに立ち、2安打している4番レイエスを三振に取った所でロッテのファイナルステージ進出は見えた。ところがそうではなかった。そこで出た5番万波の起死回生のホームラン、これはメジャーも入れてかつて目撃したベスト5にはいる凄まじい一撃で、ライナーで左翼中段に突き刺さり、当たり前のような顔をしている万波の表情も含めてロッテベンチの度肝を抜いて集団心理に果てしない恐怖感を与えたと想像する(「七夕の奇跡」のバティスタの一発のように)。絶体絶命のあの場面で集中して平然とあの当たりを打てる万波の資質は破格で、そういうものは持って生まれるものであって練習を積んでもできないから相手にそういう選手がいると気持ちで押される。そして延長10回、ロッテがマウンドに送った澤村は2三振を取るが松本がしぶとく四球をもぎとるとスタンドは押せ押せで沸く。ここで出てくる当たればホームランの清宮は怖い。澤村は長打が出ないコースでヒットにとどめたが、1,3塁で迎えた淺間は力でねじ伏せにいったのだろうか外角高めのくそボールを痛打されサヨナラだ。
以上、「ここぞ」で吉と出るか凶と出るかの人間ドラマである。公衆の凝視する面前で一瞬でそれがおきる野球は5秒前までぴんぴんしていた敗者には残酷だが見物人にはこんな面白いものはない。パンとサーカス。ローマはこれをライオンと奴隷の戦闘としてコロッセウムで大衆に見せた。治世の道具として始まったコンセプトは今も生き、その目的で我が国にGHQが置いて行ったこの競技の面白さには抗し難い。保守だと言ってる人間でこのアンビバレントな気持ちを分かる者はどれだけいるんだろう。
ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。
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3 comments already | Leave your own comment
中島龍之
10/15/2024 | 10:54 AM Permalink
東さん、順位予想さすがですね。上位3チームを当てるとは。私の場合、2チーム当たればヨシ、というのが実態です。さらに、Bクラスも中日を間違わなければ、全正解でしたね。広島については、首位を走っているときは優勝するのではと思いましたが、総合力では厳しかったですね。チームホームランが、大谷一人より少ないのは、チーム編成の問題が大きく、新井監督は可哀そうでしたね。よく采配したということでしょう。来年期待しましょう。
東 賢太郎
10/15/2024 | 3:41 PM Permalink
中島さん、まぐれです、パリーグは大外れでしたし(笑)。オリックスは山本、山﨑 福也が大きかったんですね、カープからFAの西川龍馬も打率.258、OPS.621でさっぱりでした。大本命ホークスの首位は盤石でしたね。
中島龍之
10/16/2024 | 3:46 PM Permalink
オリックスの低迷は、失った投手力を考えたら当然かもしれませんが、中嶋監督に期待しすぎだったかもしれません。ホークスはやはり総合力ですね。抑えのオスナがいない間、松本裕が抑えを果たしたり、誰か出てくるところは強みです。柳田が居なくてもらくらく優勝でした。ところで。順位予想、ご家族の予想は如何でしたか?楽しめましたか?順位を予想すると、気になるチームを細かくチェックして楽しめますよね。