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カテゴリー: ______プロコフィエフ

N響 フェドセーエフ指揮アンナ・ヴィニツカヤの名演!

2015 APR 19 3:03:49 am by 東 賢太郎

仕事が立て込んで寝不足気味であり、あんまり気が乗らずに3時にNHKホールへ向かった。先日、券を買ってあった読響は忘れてて行かなかったりと、このところ忙しさも尋常じゃないが記憶もおかしい。

定期演奏会はプログラムを見ないことにしている。というのは行く気のなくなる出し物の場合、昔から僕の得意技で頭からメモリーが消去されてまさに行くのを忘れてしまったりするからだ。はて、今回はその最たるものだったことがプログラムを開いて判明したではないか。

ラフマニノフ・ヴォカリース、ピアノ協奏曲2番、R・コルサコフのシェラザード?なんと、TVでは2時から黒田先発の広島・中日戦があったんだよ!ああ、ちっくしょう、知ってたら絶対来なかったなあ。お子様ランチじゃねえか、もうなん百回聴いたかわからんよ、そんなの。

というわけでヴォカリースは耳が開いておらず石のまま終わった。弦の音も固い。申しわけない、拍手する気なし。さて、ロシアのお嬢さんが出てきて2番だ。誰だこれ、きいたことねーな、悪いがこちとらロシアめしの気分じゃない、ぜんぜん。はよやって終わってくれんかい・・・・。

51BczfxEyAL__SX450_こういう心が荒んだ状態だったオヤジに帰り道CD買わせたアンナ・ヴィニツカヤさん、あんたタダモンでありませんな。ホンマ、この2番、トップクラスの名演でござんした。こう見えて、オヤジこの曲うるさいんですよ、サワリ弾いちゃうほどハンパなく。何がいいって?音ですね、オト。キンキンキラキラもケバケバもなし、グレーの地味目な音ですよ。アンコールのバッハ(ジロティ)前奏曲ロ短調のくすんだビロードのような音。そんなので2番を弾こうという人はあんまりいないんです。フツーはド派手、ドケバのオンパレで。前回のベレゾフスキーくん、天下無双の体育会系剛腕ですごいもんで、ヨイショ、ズドンの巨人軍澤村投手と双璧でしたな。途中で退席を考えたけどね、迷惑なんでやめときましたが。フェドセーエフ氏の伴奏、これまた一流でござんした。第2楽章、3プルトのヴィオラの活かし方ききほれましたわ。終楽章、再現部の第2主題でぐぐっとテンポ落して歌っておいてコーダに入ると毅然と速めのテンポでね。うまいねえ!しかしアンナさん、それにあんたのタッチは千変万化してついていくのね、それってものすごいことですよ。ダルビッシュみたい10種の変化球だね。それとテンポがいい!もうこれしかないってやつですな。これ、意外にノーミスで弾ききるの少ないんだよ、1か所だけ、すごくマイナーなのしかなかった。ウデも凄くたちますね。でも、それがオモテに出ないことですよ、あなたの美質は。いやいや、一気に好きになりました。この録音、あればもう一回聴きたいよ、オヤジは。大拍手!!

最後はシェラザード!もうこんなの何年もきいてないね。実演はこれが人生5回目か、券かってまで来ようっていう曲じゃない、はっきりいって。下手なオケだとおしまいの方はチンドン屋みたいになっちゃう。だから今や僕にはどっちかっていうとピアノ曲だ。弾くのは好きでこれの第1楽章を大音量でグランドピアノでやると気持ちいいんだ。第3楽章もいい、すごくいい和音がついてて。

ということでこっちも期待なしだったがこれまた裏切られて、今日は何だったんだってことに。第1楽章は遅いテンポもフレージングもねっとりしてて濃厚ポタージュスープみたいだ。ティンパニのトントンがわずかに速くてねっとり感が倍加する、意図的だろうか?とにかくオケが巨魁な生命体みたいに粘着性を持っている、こんなのはきいたことがない。休みなく第2楽章のVnソロに入る。絶対音楽的で物語性が希薄なアンセルメしかきいてないのでストーリーに想いが行く。

第3楽章はエレガントだ。それにしても今日の第1クラリネットの方はうまかった。木質で音楽性も抜群であり絶美のピアニッシモ、とろけるようなレガート、指揮者のコンセプトにぴったりで最高でございました。オケ全体も、特にヴァイオリン群がシェラザードに至っては別なオケみたいに粘着性と湿度を含んだ音に変わっており驚いた。終楽章は僕はチェリビダッケが一番と思っているが、それに匹敵するすばらしさで言葉なし。フェドセーエフ節満載の音画は音楽性も満点で、第1楽章主題が回帰する寂しさ、独奏Vnのハーモニクス、すべてうまくいったぜ。ブラヴォー!!

ほんとに今日は来てもうけものだった。黒田はまた極貧打で負けちゃったし・・・。

MI0003234980アンナさんのCD、買ったのはこれだ。プロコフィエフ、有名な3番ではなく僕が5曲のうち一番いいと思ってる2番を弾いてるなんてますますタダモノじゃない。さっそく聴いてみる。そうそうこの音だ。ピアノの部分は水墨画のグレーを思わせるんだがフォルテになると内部から光を放射するんだ。第1楽章はオケともども暗めで神秘的な雰囲気が支配、この曲はこうでなくちゃ。スケルツォはすばらしい指の回りと黒光りするタッチがプロコフィエフにぴったりだが、メカニックが鼻につかず知的な抑制すら感じる。ちょっとぶっ飛んだ感じと野蛮さには欠けるが非常にスタイリッシュに洗練された2番。オケは、はっきいってうまい。ティボール・ヴァルガの息子ギルバート・ヴァルガの指揮は素晴らしい運動神経を感じさせリズムのエッジが立つが、それに一糸乱れずかけ合うアンナのそれも凄い。そしてラヴェルのト長調。これもケバさのない中間色。アダージョは実にお品がよろしい。まさにベルリン・ドイツ交響楽団だね、彼女の合せになるのは、パリ管じゃない。

(こちらにどうぞ)

リムスキー・コルサコフ 交響組曲「シェラザード」 作品35

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18

______演奏会の感想 (46)
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プロコフィエフ 交響曲第3番ハ短調 作品44

2014 APR 27 12:12:29 pm by 東 賢太郎

プロコフィエフのシンフォニーで1,5番でなくこれが好きという方はいらっしゃるだろうか?もしそうなら音楽的嗜好が近く、すぐお友達になれるだろう。僕は3番が大好きであり大学時代にアバド盤の第4楽章をカセットに入れて本郷の下宿で毎日聴いていたのが懐かしいが、斉藤さんが来られた時お聞かせしたかどうかは記憶にない。

この曲は元々交響曲ではなくオペラ「炎の天使」として作曲されたが、全曲の初演見通しが立たないためその素材を使って交響曲にしたという変わり種であり、実は本来はこの名曲である「炎の天使」の方を聞いていただきたいのだ。

http://youtu.be/_lHsNmU92eY

http://youtu.be/vqmD2cveJJE

プロコフィエフという人はセレナーデを交響曲にしてしまった(第35番)モーツァルトに似て何でも作れる職人中の職人だったが、そういう出自はともかくこの第3番は傑作であり、僕は彼の全作品中ベスト3に入れる。これのスコアは「春の祭典」に匹敵する面白さで、暇ができたらシンセでMIDI録音したい魅惑とワクワク感に満ちている。例えばこの第3楽章だ。13パートで分奏する弦がハーモニクスのグリッサンドでヒューヒュー不気味な音を立てて疾走する様は「火の鳥」、「惑星」(水星)、「弦チェレ」、リズムは「春の祭典」を、最後は「惑星」(火星)を想起させるが、そのどれよりもマジカルで創意に満ちている。ちなみにライバルだったストラヴィンスキーがこの曲は誉めた。

プロコ3番

 

 

 

 

 

 

 

第1楽章の終わりの数ページ、第2楽章の中間部、そうして第3楽章の中間部のこのページから!何という不思議な和音に導かれた氷のように冷たい世界だろう。それがシベリウスのように人間離れしたものではなく、湖に現れた妖女の誘いのように感じる。3の2プロコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名曲ゆえ名演がいくつかある。僕はアバド/ ロンドン交響楽団で覚えたが第1楽章のどっしりしたテンポは好きだが妖しさにやや不足するのでファースト・チョイスにはおすすめできない。しかしアバドが振ったプロコが1番と3番というのは彼の趣味が伺えとても共感を覚える。

 

ジャン・マルティノン / フランス国立放送管弦楽団

CDX-5054最高に素晴らしい名盤である。このオケはムラがあるがマルティノンが振るとこんなに良いピッチと音色で鳴る。録音は適度な潤いがありフランスの管と曲のマッチングが良く、複雑なスコアが明快に解きほぐされる。価値がよくわかっていないレコード会社がこういう名盤をどんどん安物コンテンツの仲間入りさせて廉価盤に落としてくれる。実に馬鹿な話だが消費者としては有難い。マルティノンは全曲揃えてよい。

 

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー / モスクワ放送交響楽団

この指揮者の読譜力、解析力とオケへのその伝達力はプロとしても群を抜いている。読響を振った火の鳥、春の祭典でそれを確信した。こちらで全曲お聴きいただきたい。http://youtu.be/MlvStcZvqrs                                                                                              第3楽章のオケのうまさは鳥肌物だが第4楽章は弦がやや粗い。韓国のイエダンというレーベル(YCC-0044)から1961年1月6日録音で同じ指揮者がソヴィエト国立SOを振ったライブが出ており、そっちの方がさらに凄い圧倒的名演である。それをYoutubeにアップロードしたのでどうぞ。

 

キリル・コンドラシン / アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

プロコunnamedコンドラシン最晩年のACOライブ録音で、僕はロンドン滞在中に、たしか85,6年にHMVで買って以来ずっと大事にして愛聴しているLPである。5.99ポンドだった。CDはショスタコ9番と組んで出たが音はLPの方が格段に良い。これは廃盤のようでこれまた業者の見る目のなさを嘆くしかない。演奏の素晴らしさは言葉がなく、当曲の真の愛好家は探し出して所有するべきである。

 

ヴァレリー・ゲルギエフ / ロンドン交響楽団

540曲をつかみきった名演。この指揮者は音楽を大づかみにとらえメリハリをつけて表現するタイプであり、それがツボにはまった時は実にいい演奏になる。2003年に東京で聴いたベルリオーズのレクイエムは退屈だったが、95年にチューリヒで聴いたキロフ管弦楽団との「火の鳥」がそうで感銘を受けた。この全集はロンドンSOの重心の低い音を使ってライブのような活力のある音楽となっており、3番は非常に素晴らしい。

 

ネーメ・ヤルヴィ指揮N響のプロコフィエフ6番を聴く

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クラシック徒然草-ユリア・フィッシャーのCD試聴記-

2013 NOV 29 23:23:16 pm by 東 賢太郎

ハチャトリアンのヴァイオリン協奏曲は高校時代にダヴィッド・オイストラフと作曲者の指揮によるLPをすり切れるほど聴きました。いつぞや書いた「遺伝子の記憶」だったのかどういうわけだったのか、初めて聴いた時からこの曲にはゾクゾクして魅かれるものがあり、コーガン、シェリング、ヘンデル、エルマンなども愛聴してきました。アラム・ハチャトリアンはアルメニア人です。つい先日のブログに書きましたがいま僕は仕事で旧ソ連CIS(Commonwealth of Independent States、独立国家共同体)を調べています。アルメニアはCIS加盟国であり、たまたま、しばらくご無沙汰だったこのコンチェルトが気になり始めていたところでした。

先日N響で聴いたトゥガン・ソヒエフはチェチェン共和国も含まれる北カフカース連邦管区の北オセチア出身で、CISではないが地域的にはしごく近い。カフカースとはいわゆるコーカサスのことであり、アルメニアは南コーカサスである。僕がクラシックに入った曲がそのコーカサスを描いた「中央アジアの草原にて」だったことはブログに何度も書きました。そうしたら、不勉強で申し訳ないが最近気にいっているユリアのCDデビュー曲がそのハチャトリアンだったことを知りました。彼女は11歳でこれを聴いて好きになったそうです。このコンチェルトを指揮者クライツベルグとやった演奏会がすばらしくて、そのことが録音のきっかけとなったそうです。その演奏会の場所がフィラデルフィアであったそうで、これまた僕の留学先です。どうも縁を感じてしまいます。

ブルッフというわけで彼女のCDを2枚買って聴きました。まずは新しいブルッフとドヴォルザークです。期待しましたが、どうも音が奥に引っ込んで散漫な感じがする。このチューリヒ・トーンハレというホールで僕はこの管弦楽団を2年半聴きました。そのこけら落としだったでしょうかブラームスが来て自作を振ったそうで、その100周年のブラームスシリーズもここで聴きましたし、感動的だったショルティの最後の演奏会もここでこのオケでマーラーの5番でした。当時小学生でチューリヒ日本人学校にいた長女がここの舞台で和太鼓を叩いたりもして、けっこう思い出の深いホールなのです。

しかし、どうも見かけほどは音がよくない。音が拡散気味でコクがない。コンセルトヘボウやムジークフェラインとは比ぶるべくもなし、オケもそこの2つのオケとは比ぶるべくもなし。大吟醸と清酒ぐらいの差。ジンマンという指揮者は器用でうまいが好みではなく、自然とやや足が遠のきました。チューリヒ湖畔で会社から歩いてたった10分の所だったのですが・・・・。このCDは忠実にあの音ですね、残念ながら。ホールトーンを多めに独奥系の音を狙って遠目のフォーカスにしたかもしれないが、あの音を2階席奥から聴く感じです。ブルッフは特にオケが重要な音楽です。

これが老舗の名門Deccaの音だと主張されるならそれはそれで構わないが、平板でつまらないものは正直に仕方ない。ブックレットのクオリティも含めてどうも感心しない。クラシックレーベルの経営が楽でないことは重々承知だが安易な感じがします。灘の剣菱という赤穂浪士が討ち入り前に飲んだという清酒の老舗が商業化して味が落ちたことがある。ああいうことにはなってほしくない。マイナーレーベルのPentaToneは大事に作っていたが、ユリアもFA移籍で読売ジャイアンツに行った大物選手みたいにならないように切にお願いしたい。

ユリアの演奏は彼女らしい張りと緊張感があります。しかしこの遠い位置の録音だと彼女の室内楽的なオケとの交歓がよく察知できない。ライブは確かにこう聞こえるが視覚情報がない録音ではもっと聞こえてほしいものがたくさんあります。このCDはユリアよりも全体ポリシーが勝ったもので、ソリストは彼女でなくてもいいという性質のもの。それにしてもブルッフの第2楽章の高音は音楽に没入して彼女にしては珍しくやや甘い。ライブならこれでもいいが・・・。ブラームスの第1楽章コーダもそうですが、そういう部分を彼女は重視していて(それは大賛成だが)、知情意のバランスが動く。基本的にそのバランスがきっちりしている人だけに、そういう部分では若さが顔を出すように思われます。

ロシア41CP9FNWEEL._SL500_AA300_次にいよいよハチャトリアンです。これは良かった。この曲の最高級の演奏と太鼓判を押します。オイストラフに比べるとローカル臭は希薄であり、エルマンの訛り(なまり)もヘンデルの色香もなく、中央アジアの草原をスポーツカーで走る観なきにしも非ずですが、こういう方向の演奏でこれほどの完成度のものはなかったでしょう。ロシア国立管弦楽団が小味で繊細な音を出しており、クライツベルグは非常に良くつけています。この曲の伴奏としてトップクラスの名演です。彼は11年に51歳で癌で亡くなりましたがユリアとは実に音楽的気質が合っていたことがこのCDで分かりました。

プロコフィエフの1番。第2楽章はN響ライブで聴いたイザベル・ファウストと双璧の名演です。透明な叙情がいくばくかの妖しさを秘めた和音が印象的な第3楽章には彼女の感情移入を感じます。よく聴かないとわかりませんが。そうした密やかなエモーションがクールな知性と細部まで神経の通った研ぎ澄まされた技巧でラップされているのが彼女の演奏の個性で、ここでは成功していますし、ハチャトリアンでもそれは一貫しています。これと2番とどっちを弾くかで性格が分かりますがユリアがこっちを採ったのはわかる気がします。僕はどっちも好みなので、いずれ2番もお願いしたいですが・・・。

PentaToneの録音につき一言。SACDの効能はオーディオ通ではないのでわかりませんが、よろしいですね。情報量、クリアネス、弦の質感ともいい。これはモスクワのスタジオのホールトーンとオケの優秀さにかなり由来していますが技術者の耳の良さ、音楽性、良心も感じます。この会社は旧PhilipsのエンジニアらがMBOして設立したそうで、少なくともこのCDは僕の好きだったPhilips系のオケの音がします。この業界のMBOではおそらくキャッシュフローが楽ではないはず。看板のクライツベルグがいなくなったのも不運です。頑張ってもらいたい会社です。

グラズーノフ、これはロマン派の残り香がある名曲ですがあまり演奏されなのが不思議です。是非広く聴かれるようになってほしい。ハイフェッツ、オイストラフの名演がありますが、ユリアは彼女の個性で大家に対抗できていますね。G線の色香もなかなかで、彼女はけっして音程が良くて、左手が動いて、清楚なだけのヴァイオリニストではない。こういう表現は若くないと、逆に大家ではできないでしょう。クライツベルグのオケがここでもよく支えています。9年前の録音ですが、いやはや凄い才能を再確認いたしました。

 

ハチャトリアン ヴァイオリン協奏曲ニ短調

 

ユリア・フィッシャー演奏会を聴く

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