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ヴィヴァルディ 「四季」

2014 JUN 29 23:23:48 pm by 東 賢太郎

僕はバロック音楽にコンプレックスがあります。

どうしてかというと、簡単です。まずFMで時折聞いてもちっとも面白いと思わなかった。ところがです。当時メッカであった石丸電気へ行くとそれなりのバロック・コーナーがあったのです。エラート(仏)、ハルモニア・ムンディ(仏)、オワゾ・リール(英)、アルヒーフ(独)など欧州レーベルの輸入盤LPがどっさりあった。手に取ると重厚な装丁でどっしりとした芸術品という感じです。このプレミア感には惹かれましたがなにせ金のない学生の身。ネットでいくらでも試し聞きできる今とちがい、聴いたことのない曲の高価なレコードを購入するのはリスクが高くて手が出なかったのです。

基本的に宗教音楽が主流であるバロックはディープなヨーロピアンの世界です。米国レーベルではCBSやRCAのバロック録音というとJSバッハですらストコフスキーの管弦楽編曲が思い浮かぶ程度で、当時の我が国のコアなクラシックファンはそういうものを心底、小馬鹿にしていたのです。さらにLPの盤質は欧州が優秀で音が良く、米国は安手で粗悪、音はドンシャリというのが常識でした。バロック・コーナーにはチープな米国盤がないというのがこれまたプレミア感があったんですね。

客層もどことなく知的で裕福そうな中年が多く、レジでそういう人が4-5枚の大人買いをしているわきから、「お次の方どうぞ」と呼ばれて1枚だけチャイコフスキーなんかをさし出すのは恥ずかしかったですね。ところがそうこうするうちに人間は困ったもので、買えない自分が悪いのにバロックを「酸っぱいぶどう」にしてしまう(認知的不協和の解消ですね)。ロマン派や近現代音楽の方が進んだ音楽なんだということにしてしまっていて聞かなくていい理由にしていた気がします。

250px-Antonio_Vivaldi

 

とくにヴィヴァルディの四季はくだらないお子様向けのデザートと思っていました。これを十八番にしているイ・ムジチというイタリアの楽団も、日本人だけがお得意さんの末期のベンチャーズみたいなものかと。しかしイ・ムジチの演奏力と音楽性は香港でこの曲のライブを聴いて確認しました。今の僕はこの曲を高く評価しています。赤毛の司祭ヴィヴァルディ(右)はただ者ではない。なにせあのJ.S.バッハがお手本にしてアレンジしているほどの人なのです。

 

四季(四季 (ヴィヴァルディ) – Wikipedia)はヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の 試み』作品8の第1-4曲であり、その名のとおりそのコードプログレッションは当時としては創意に満ちています。我が国でいうと江戸時代中期、1725年頃の作品ですが現在のポップスの和声の基礎がほとんどここにあるといって過言でありません。増4度減5度はほとんどなく全音階的で対位法もなく旋律と伴奏和声という単純な構造なのですが、その和声が短2度でぶつかったりバスがセブンスに落ちたり決して陳腐ではなく今の耳にも刺激とウィットに富んでいます。

最近CMでよくかかっている冬の第1楽章の「寒さで歯がガチガチ」なんて、あのなだれ込むようにかき鳴らされる和音は本当にいい。実に格好いいですね。ドイツの一級品は重み、深み、フランスのは繊細さ華やかさを感じますが、イタリアの場合はスタイリッシュで格好いい、ダンディ。まさにそういう感じです。これのピアノソロ譜を買ってきてあそこを弾いてますが、病みつきです。簡単ですが気持ちがいい。それが名曲の証しですね。ピアノで面白いというのは構造がしっかりしているという事で、それがヴァイオリン協奏曲という形で弦の魅力に置き換えられています。

春ばかり有名ですが、全曲いろいろと面白い。夏が3楽章とも短調というのが現代人とは違和感がありますね。穀物の収穫は秋であり夏には食料は底をつきます。しかも冷蔵庫がない。エアコンもない。だから照りつける過酷な太陽はマイナーキーになるのでしょうか。夏がバカンスで楽しい季節となったのは比較的最近のことかもしれません。その分、秋の音楽は活気と喜びに満ちています。しかし僕が気に入っているのは断然、冬なんです。

難しいことはぬきにしましょう。まずフルオーケストラ版です。香港時代(99年)にシトコヴェスキー / アルスター管弦楽団が来てやったのがとても良かったので、それと同系統の演奏を。カルロ・マリア・ジュリーニがフィルハーモニア管弦楽団を振ったものです。これも名演です。

もうひとつは全然違うモダンなタイプの合奏です。ユリア・フィッシャーの見事なソロ、アカデミー室内管弦楽団のスタイリッシュな伴奏も爽快です。ユリアはインタビューで四季の好きな楽章はと聞かれ「なんったって冬の第二楽章よ」と答えてます。

 

家で聴くのはこれが好きです。

オットー・ビュヒナー(Vn) /  クルト・レーデル / ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団

sikiLPです。なぜ買ったかというと安いから(¥1200)。大学時代に一枚ぐらいは持っていようかという事で何の気なく買いました。ドイツ人らしいきっちりした生真面目な演奏で、なんら過激な試みも時代考証の跡もなし。秋の第2楽章にソロが一般と違う装飾的なメロディーを奏でるなど精一杯の努力はしているが今となってはレゾンデートルに欠けるきらいはあります。しかし、なんといっても音楽として心地よいのだから仕方ありません。僕の装置で聴くとエラート・レーベル独特の中音につやのある弦の音が素晴らしく、アナログ録音の最も魅力的な音が聴ける掘り出し物という意味でLPコレクションの中でも大事なもののひとつになりました。こちらがそのLPからの録音です。

 

(こちらをどうぞ)

 J.S.バッハ ブランデンブルグ協奏曲全曲

 J.S.バッハ「ブランデンブルグ協奏曲」BWV1046-1051

 J.S.バッハ 「ゴールドベルク変奏曲」

 

 

 

 

 

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