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モーツァルト交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551

2014 MAY 26 1:01:51 am by 東 賢太郎

 

ザロモンがハ長調交響曲にジュピターと名付けたくなったのはわかります。この曲の偉容はまさに男性的であり、音楽の王者の風格ありです。曲の概要についてはwikiでも見ていただくとして、僕はこの曲でモーツァルトが何気なく書いている和声の驚くべきスペクタクルでも書いておきましょう。まずは第2楽章です。

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特に色枠の三拍目のb♭、d♭、a 、c が凄い。ここのコード進行の規則性で機械的に出てしまう不協和音ですがそれがGmに解決するのも本当に凄い。次は第3楽章のトリオに出てくるオーボエ2本とファゴットです。

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この譜面が古典派の人のものとはとても信じ難い。しかし彼はフィガロあたりからすでに別世界の和声領域に踏みこんでいます。次に終楽章の恐るべきこれです。このピアノスコアを見るまで僕にはここの和声進行が謎でした。

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9小節目から。F、E6、E7、B♭7、A6、A7、E♭7、D6、D7、A♭7、G6、G7、D♭7、C6、C7となります。増4度飛ぶバスが凄すぎます。モーツァルトがただ綺麗でかわいい曲を書いただのと思ったら大間違い。機能和声の範疇ではロマン派もぶっとばして前衛的ですらあり、感覚的には転調の竜巻か嵐かという感じです。

こういうところはベートーベンよりもむしろワーグナーに引き継がれているように思います。ピアノで弾いてみて、こういう指の動きがトリスタン和音に向かっていく感覚があります。そして、ハ長調のあらゆる可能性を汲みつくした音の運動はマイスタージンガー第1幕前奏曲の対位法に向かい、終楽章のフーガ風(厳密にはフーガではない)のコーダにあの前奏曲の全主題の絡み合うクライマックスの原型を見るのです。

 

ここから、僕の大好きなCDをご紹介します。 まず、何といってもボールト盤が筆頭です。これぞジュピターの最高の演奏であります。最近この曲は遠ざかっていましたがこの稿を書こうと久しぶりにボールトを聴きかえし、忘れていた41番ジュピターへの愛と歓喜が再び沸き起こって体の芯から熱くなるという数奇な体験をいたしました。

 

エードリアン・ボールト / ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

659それがこれです。僕の持っているCDは右のジャケットではなく、昔ロンドンで買ったRoyal Classics盤と去年タワレコで買ったBoult from Bach to Wagnerです。第1楽章のまったく素晴らしいテンポ!全曲にわたって繰り返しは全部行う徹底ぶりは、ボールトがこの曲を愛し一切をないがしろにしないという決意でしょう。その意志の徹底は決してオケを神経質にさせず、むしろ天真爛漫にモーツァルトを演奏する喜びに浸らせています。ドイツ風の重心の低い芳醇な響き、対抗配置で理想的に鳴る弦、祝典的に響くティンパニ、弦に溶け込んで乗っかるフルートの喜び、飛び出さないトランペット、僕の欲しいものがすべてあり、それがボールトの思いへの奉仕になっていてぐいぐい心に入りこんできます。彼の漲るパッションは表には見えませんが、堂々たる地に根を張った男らしい音作り、ゆるぎない構築感、リズムの躍動感を通じてテレパシーのように聴き手に伝わり、全てが自然体ながら曲のあるままに高揚感へ登りつめるという天下の名人芸に酔いしれることになります。EMIアビイ・ロードのスタジオ1なのに第2楽章は教会のように響きます。第3楽章の存在感あるティンパニに微妙な強弱をつけるなど、そう聞こえませんが細部にもこだわりがあり、やや遅めのテンポで入念に声部を描き分ける終楽章は圧巻です。圧倒的なフーガが現れ、堂々たるリタルダンドで音楽が終わるや僕は感動のあまり手を合わせて拝むしかありません。この演奏がぜひ広く聴かれ、この交響曲の真価、神髄を知る方が増えることを祈ってやみません。

 

カール・ベーム / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

41DCHZ229HL__SL500_AA300_なかなかない重さと華やかさが両立したオーケストラ。出だしからああこれもいいなあと思わせます。これぞウィーンフィルの魅力です。ピッチが微妙に高いため音の持つ温度とテンションが微妙に高く聴こえていますが、ベームのリズムが素晴らしい。そのオケの音に合っているからです。この演奏の白眉は第2楽章です。まず音がオケの美をひけらかすだけのきれいごとではない。このオケに位負けする指揮者だと白痴美になりがちですがここではあえて霞がかかった感じであり、ハ短調になるとテンポがbohmやや速めになって緊張感を増します。これはさすがです。第3楽章が遅すぎるのが唯一の欠点ですが、楽譜を示したオーボエ、ファゴットのフレーズはゆっくりと和声が味わえます。終楽章、弦の内声部まで強いテンションで鳴り切っているのに感服です。音楽が内部から加熱し巨人の歩みのように進み、聴く側もエネルギーを要する大交響曲演奏であります。余談ですがこのCD(上が直近に売られているもの)を僕はEVNというオーストリアの大手電力会社の社長さんから来日のおみやげとしていただきました(右)。91年のことです。ベームのモーツァルトはお国の誇りであったのですね。

 

オトマール・スイトナー / ドレスデン国立歌劇場管弦楽団

51Ct1hoL72L__SL500_AA300_大学時代にLPで愛聴した演奏です。第1楽章はこのコンビの特色であるきびきびした速めのテンポでです。ルカ教会のやや遠めにまとまった音響でティンパニがやや不明瞭で低音の定位がいま一つなのが欠点ですが、弦と木管の美しさは何とも抗しがたく、特に第2楽章はこの曲のための特別な練り薬で溶いたかのような蠱惑的な音色に耳がくぎづけになります。第3楽章はとても速い。このテンポだとトリオがド・レ・ファ・ミの終楽章テーマであることがよくわかります。終楽章は提示部を繰り返します。内声部のハモリや木管(特にフルート)のさえずりに独特の美意識を感じ、終結もほとんどリタルダンドなし。強い表現意欲ですが、上記2つの大人の芸と比べると説得力はいま一つかもしれません。

第1楽章

 

(補遺、21 June17)

フェレンツ・フリッチャイ / ウィーン交響楽団

これは大学に入ってすぐ、五月病のころ大学の生協で買った人生初めてのジュピターです。このやや遅めの演奏の醍醐味を味わう知識も耳も当時はなくて、翌年に買った上記のスイトナー盤のテンポの方が音楽的快感が得られ関心が移ってしまいました。各セクションのフレージングが克明で活気と表現意欲にあふれ、全体をフリッチャイが揺るぎない造詣と立体感でどっしりと括りあげた、誠に玄人向けの名演であります。

 

ヨゼフ・カイルベルト / バンベルク交響楽団

この演奏を知ったのはCD時代になって右の写真のものですが、何とも言えぬ抗いがたい魅力があるのです。プラハ・ドイツ・フィルハーモニーを前身とするこのオケの鄙びた東欧の音色は一切華美に傾かず、弦は地味で木質だが黒光りするような独特の美を誇り、カイルベルトの指揮もその木曾檜のごとき素材を知り尽くして正攻法のジュピターをやっている。何の変哲もない姿ですが、簡素で古雅な味わいは我が国で例えるなら大和古仏の味わいでしょうか。こういう音はもはや地球上から消えており、こよなく愛する僕としてはかような古い録音を文化遺産の如く珍重するしかございません。

 

(こちらもどうぞ)

モーツァルト「ジュピター第1楽章」の解題

モーツァルト 交響曲第1番変ホ長調 k.16

モーツァルト交響曲第39番変ホ長調 K.543

モーツァルト 交響曲第40番ト短調 K.550

モーツァルト 交響曲第38番ニ長調 「プラハ」K.504

 

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