世にはゴルフという魔物が棲む(4)
2013 JUL 20 1:01:57 am by 東 賢太郎
いま全英オープンが開催されています。今年の主催地ミュアフィールドというと、ちょっとした思い出があります。
ロンドンに6年間住んで良かったと思う一つはやはりゴルフです。ちっとも上達はしなかったですが、うまくならない故に入れ込んでいた時期があってイングランド、スコットランド、ウエールズ、アイルランド各地の名門コースはいろいろプレーさせてもらいました。しかし、いくら事前に申し込んでもメンバー同伴でないとできないのが2つ、サニングデールとこのミュアフィールドでした。
88年だったように記憶してますが、1歳の長女と妻とでスコットランドのグレンイーグルス・ホテル(右)に泊まりました。もちろん目的はそこの名門コースでプレーすること。家内にはホテルのショッピングアーケードで買い物をしていてもらい、僕は一人でコースへ。すると同じような独り者か夫婦のプレーヤーと組まされ、フォーサムで回れるのです。当時はひどいフック病で名門コースにてこずりました。独り物のアメリカ人が親切にその矯正方法を教えてくれましたっけ。こういうゴルフはとてもいいものです。
さて翌日です。できないと聞いていたミュアフィールドに未練があり、フロントのお姉さんに電話してもらうとやはり答えはNOでした。世の中そう甘くないんです。しかしダメもとでチャレンジはしてみるもので、隣にガレンというこれも名門コースがありそこなら予約を取ってあげますよと言われたのです。断る理由などありません。すぐにお願いし、さっそく(これも女房子供はホテルにおいて)車でガレンへ向かったのでした。思えばひどい父親でございました。エジンバラを超える道のりはけっこう遠かったです。吹きっ晒しのリンクスで、確かにミュアフィールドのお隣のコースだから雰囲気も似ている感じでした。風景はあまり覚えてませんがどうやらこういうところだったようです。
ここでは独り者プレーヤーは僕だけのようでした。気のおけない同志のメンバーがのんびりプレーしている雰囲気で、本当に一人でティーオフしていいの?とスターターのオジサンに眼で尋ねると、ぜんぜんOK早くいけいけ、と手で答える。優雅なもんでした。たしか3番あたりでパー3だったのか前がつかえていて、一人の僕は前3人組に追いついてしまいました。すると3人がそろって手招きで来い来いをします。一緒にやろうやということです。男2人、女1人で40代後半ぐらいだったですか。当時こっちは33ですからえらい年上に見えました。なにせ「地主」ですからアドバイスはいちいち適確で、ラフに打ち込むと3人が延々と真剣に僕のボールを探してくれます。後ろが来ているからもういいと言うとおじさんが後方を一瞥。「ああ、あいつらはトモダチさ。30分待たしときゃいいんだよ」などと泣かせることを言ってくれます。
「ジャパニーズはゴルフが好きだな、いっぱい知ってるよ、ゴルフはスコットランドの誇りだ、うれしいね」おじさんもおばさんも大歓迎してくれているんです。スコットランドのアクセントはわかりにくいのですが誠意に応えてこちらも真剣に聴きとって答えます。「いえ、実はミュアフィールでやりたかったんですがダメでここならできると言われて・・・・」つい正直に言ってしまい気を悪くされたか、と思いきや「あんたはラッキーだね、ガレンのが古くて歴史があるんだよ」と誇りと威厳をこめてひとこと。たしかに伝統を感じるすばらしいリンクスでした。
和気あいあいで最後のホールに近づいたとき「ところであんた家はどこ、トーキョーか?」ときました。ここで「いえロンドンです。今はホリデーなんです。」と気軽に答えた僕は、トラの尾を踏んでいることに全然気づいてもいませんでした。3人の態度がどうも冷たくなり、このホールは右がOBで・・・の親身のガイドは消え、ボールも探してくれません。いったいどうしたんだと戸惑っていると、
Holiday? We call it VACATION here.
この言葉、ガツンと脳天に衝撃でした。ついに入試で世界史を選択しなかった僕でも状況を悟りました。そう、イングランドは敵国、大嫌いなんですね。僕はゴルフ好きの無害な日本人ツーリストと思われていたのです。この経験は痛烈でした。だからミュアフィールドと聞くとこの一件がついつい頭に浮かんでしまいます。後に野村香港の社長として僕はスコットランド人で年上の大物株式営業ヘッドを雇いましたが、すぐにこの話は彼お気に入りのジョークネタになりました。
これで思い出したのが大阪は野村證券梅田支店時代、同じぐらい衝撃的だったこの言葉です。
にいちゃん、それ 「きつねそば」 ちゃうで、うちら 「たぬき」 いいまんねん
きつねが出てきて文句を言ったら横から大声で教えてくれた大阪のオッチャン。これはとても奥の深いグローバルな教えだったんですね。
(こちらへどうぞ)
阿曾 靖子
7/21/2013 | 12:29 AM Permalink
最後の写真、驚きました・・・!「きつねそば」
関西圏では「総つっこみ」が入りそうな商品ですね。
学生時代に、上京して、まもなく驚愕した食文化の違いは
・肉まんの中身・あるいは肉じゃがなどが豚肉だった、
(関西では肉=牛、だから「豚まん」といいます)
・ところてんを酢で食べる(黒蜜が基本)
・関東煮(かんとだき)が「おでん」(中身も一部異なる)
・ぜんざいとお汁粉の定義が違う
お汁粉は小豆と砂糖を煮た汁に白玉
善哉はお汁粉に小豆の粒が入っていて丸餅
東京では全てお汁粉で(上が御膳汁粉、下が田舎汁粉)
善哉は粟餅や、白玉餅に濃い餡のペーストがのっていて
関西では「かめやま」といいます。
・濃口しょうゆしか置いていないお店が多い
・西では天かす(揚げ玉)や葱は御自由に、というお店も一部にあり
すうどん(かけうどん)をたのめば、関東の「たぬき」に。
おでん、鰻、すきやき、お雑煮等等、レシピも味付けもやや違いますし
出汁に昆布を多様するなど、すべて歴史的地理的風俗的な理由が
あって食はやはり文化です。
(ゴルフと関係ないコメントになってしまいました・・)
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/21/2013 | 9:13 AM Permalink
安曾さん、関西の食文化のお話、有り難うございました。最近は関西方面への出張が、めっきり少なくなり残念なのですが、私は、基本は関東圏の人間ですので、関西の食文化に触れるたびに、良い意味で、心地良いカルチャーショックを受けておりました。花崎洋
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/21/2013 | 9:19 AM Permalink
東さん、イングランドとスコットランドとの確執、熟知している日本人は、意外に少ないかもしれませんね。私も高校生の時、世界史も熱心に勉強しませんでした。当時は千葉市に住んでいて、英会話の実習にと友人と二人で、わざわざ日比谷公園に出かけ、英国人女性に話し掛け、ロンドン出身と聞いていたのに、私が不覚にも「ネス湖」の話題に振ったところ、「あれは、スコットランドにある湖でしょ! 私の国とは関係ないわ。」と不機嫌になってしまったのを思い出しました。花崎洋
中村 順一
7/21/2013 | 4:30 PM Permalink
ガレンは私も1986年にプレイしたことがあります。
東さんと似ていて、ロンドン駐在中に,翌年の1987年に全英オープンが開催されることになっていたミュアフィールドでのプレイを狙ったのですが、なかなか難しく断念。代替コースとして、ミュアフィールドの傍にあり,翌年の全英オープンの最終予選が行われることになっていた、ガレンに行ったのです。でもガレンも素晴らしいリンクスでした。英国およびアイルランド全体のベスト100コースに度々選ばれています。坂が多く、高台からの見晴しが良く、風が強くものすごく難しかったのを覚えています。
全英オープンの開催コースはいくつかあるのですが、私の記憶では比較的プレイしやすいのは、セント・アンドリュース、カーヌスティ、ターンベリー(スコットランド)、ロイヤル・ポートラッシュ(北アイルランド)、ロイヤル・バークデール(イングランド)あたりでしょう。もちろん、どの
コースも素晴らしく、こんなコースでプレイできるなんて、何という幸せ者、といつも思っておりましたが、私が一番好きなのは、ロイヤル・ポートラッシュでしょうか。
逆になかなかプレイさせてもらえないのは、ミュアフィールドとロイヤル・トルーン(共にスコットランド)あたりでしょう。
私もロンドン駐在の6年半の間、ゴルフばかりやっていて、家族にはずいぶん迷惑を掛けました(いや本当に)。
東さん、お互い家族には、あまり期待されない年代になっております。是非近々英国に行って一緒にゴルフをしましょう。
東 賢太郎
7/21/2013 | 8:27 PM Permalink
阿曽さん、ご説の通り。食は文化ですね。強烈な大阪文化にたくさんの衝撃を受けてから留学に行ったので、アメリカではもう充分な免疫ができておりました。
花﨑さん、それは逆のケースですね。そっちはまだいいと思います。東京人がこういうことに割と鈍感でいられるのと同じで。
中村さん、同じ経緯でガレンをプレーされたとは同志のきずなを感じるじゃないですか。ぜひ行きましょう。個人的にはプレストウィックにもう一回チャレンジしたいですね。
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/22/2013 | 6:57 AM Permalink
はい、そうですね。比較的、相手が感じる不愉快さは少なくて済んだように思います。後年、石油会社勤務時代に、イギリス人とも仕事上の付き合いがありましたが、この体験のお陰で、この種の失敗をしないで済みました。花崎洋
東 賢太郎
7/22/2013 | 11:50 AM Permalink
教科書で教わってもそういう応用はなかなかできませんから失敗は成功の母ですね。
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/23/2013 | 7:06 AM Permalink
はい、有り難うございます。教科書で学ぶより、まさに実地での体験ですね。以前、東さんがご投稿の「習」の前に「攻」を思い出します。まずは、実践の場で、攻めの姿勢で5感を総動員して深く体験すればするほどに、その後の「習」、つまり学びの中身が濃くなる。大切な心すべきことと、改めて思いました。
東 賢太郎
7/23/2013 | 12:57 PM Permalink
はい、今は習から入る風潮です。習うならまだしもマニュアルや攻略本の丸暗記で。ああいうものはアメリカ人がワーカーの生産性を簡易に上げるため考えたわけです。マックの店頭なんかで。若者がそれをコピペするのは支配される側を目ざして大学に行っているようなものです。まず行動して経験して失敗でもいいから自分の頭で考えないとだめですね。僕はスポーツはいいと思いました。一寸先は闇でコピペしようがないですから。
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/24/2013 | 7:27 AM Permalink
おっしゃる通り、スポーツはいいですね。学生時代にスポーツに打ち込み、良い成果を上げていた新入社員は、とても良い「感性」を持っています。東さんも野球を極めていらっしゃいましたね。
東 賢太郎
7/24/2013 | 9:26 AM Permalink
スポーツをちゃんとやった人はわかります。種目は何であれ結果に対して全責任、問答無用なので、つべこべ言い訳して逃げない人が多いです。僕の野球なぞは高2で肩を壊してからは悔しい思い出のほうが多いです。でも子供のうちにささやかながら天国と地獄を見たのは今ふりかえるとよかったです。
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/27/2013 | 2:11 PM Permalink
水曜から出張しており、このお返事、今、拝見いたしました。(目の前のお客様に対して、全力投球するという大義名分で、私は出張にモバイル端末を持って行きませんので) 言い訳しないことは、人間として大切なことと思います。若い時に天国だけでなく、地獄を見るのも、大切な勉強ですね。
東 賢太郎
7/27/2013 | 9:20 PM Permalink
花﨑さんの全力投球、言い訳はしないというご姿勢は教壇に立たれるかたの鑑ではないでしょうか。それをお客様が感じ取って益々ご多忙になられるというのは必然のこととと拝察いたします。
花崎 洋 / 花崎 朋子
7/28/2013 | 8:08 AM Permalink
お褒めいただき、有り難うございます。ご受講される皆様は、本当に鋭い方々ばかりですので、「技法」も勿論、大切ですが、特に「心の姿勢」は、常に真剣、真摯でないと、すぐに悪評に直結してしまうと、感じております。