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良い円安はない

2014 OCT 20 19:19:37 pm by 東 賢太郎

「もし増税で経済が成長軌道を外れたり、減速してしまったりすれば税収が増えず、全てが無意味になってしまう」

安倍首相が英経済紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューでこう述べたことを聞き、少し安心している。もちろん消費税を10%にするか否かの話である。

これは非常にデリケートな話になりつつある。社会保障財源を確保することが目的かどうかは論点ではない。国家財政の見通しと円安傾向のリンクの有無が問題なのだ。英国の投資家にきくと日本国債のクレジットに欧米で注目が集まっているそうだ。

それと直接の関係はないが米国株のS&P500を対象としたオプションの価格の振れの大きさ(ボラティリティと呼ぶ)を示す「VIX指数」というものがあり、シカゴ・オプション取引所に上場している。

VIXは別名「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家が先行き不透明と考えるとそれが上がる傾向がある。通常10~20だが先週30まで急騰しひやっとさせた。米国株が不安定になるということは経済と金利の先行きがそうだということになり、海外市場にも影響が出てくる。

こういう環境の中で急激に円安になると日本国債のボラティリティも気になる。値が下がるという意味ではなく値が変動しやすくなるということだが、ドル建てでは値下がりになるから海外の売り方にとっては利が出る。それが変動幅を生み出すのだ。

そこで消費税10%が見送りになり財政見通しが不安となるとさらに売りをまねく危険がある。国債価格が円ベースで大きく下がると本邦金融機関のバランスシートは大ダメージを受ける。我が国は金融機能不全に陥るリスクすらある。最悪の事態までいけば皆さんの銀行預金はなかったことになるかもしれない。

良い円安か悪い円安かという議論があるが、自国通貨が下がっていいことがあるはずがない。古今東西、万国共通、適度に強いことが望ましいにきまっているのである。それが100円か110円かはともかく、150円に向かうという目算が立てば国債は思いっきり売られるだろう。

円安だと株が上がると思っている人が多いが、そうではない。円安になれば株を買っている外人は損をする。日本企業にとっては80円という理不尽な円高が修正されたからよかっただけだ。ゴルフコンペのハンディを考えればいい。20の人が10で出ていたのが80円のころの日本だ。だから30で出ていた韓国に優勝をさらわれ続けた。サムスンの躍進の理由のひとつはそれだ。

そのサムスンが失速した。ウォン高になってハンディが10になった途端。日本は僕のイメージだが100-110円あたりで実力なりだ。20の人が20で出ている。だが実力なりなのだから勝てる保証などどこにもない。じゃあ150になればいい?その時は国ががたがたになる。出ていくしかない。しかし出て行ったら円安メリットなど存在しないのだ。

現実には80円時点で大企業の輸出依存度は大きく減っている。そのレートで生きていけるよう努力したからだ。だから今でもそんなにメリットは享受していない。今度は輸入企業がダメージを受ける番だ。輸出(外人に売る)には血を流すが、輸入(国内で売る)となると国民に泣いてくれになりがちだ。まして政府がインフレにしたいと宣言しているのだから堂々とそうなる。

そういうインフレになることとデフレが終息することは、ことの本質が全然ちがう。近眼の人が老眼で遠視になってちょうどよくなりましたねというようなものだ。どっちもよくないのである。

つまり、良い円安などない。

ここで安倍さんが勘違いして増税してしまうのは僕はリスクが高いと思っている。女性大臣がすべったころんだなどはっきり言って国政にはどうでもいいことである。国を動かしているのは役所なのだ。役所は増税したい。どうしても。だから安倍政権がそれに都合がいいかどうかが大事なことだ。10%になってしまえばお役御免かもしれない。

急激な円安がないことを祈るしかないが、そうであれば増税見送り、財政再建先送りは国債価格をおびやかくすことはなく、結果的には内閣延命になる。そこで4-5兆円の補正予算を組んで100-110円でコンペ優勝が狙えるようにすればいい。第3の矢とはそういうことになるだろう。

それはそれで、かなりフェアウェーが狭いドライバーショットになることは間違いない。僕は安倍首相の政策に全面賛成ではないが、ほかにこのティーショットが打てるゴルファーがどこにいるだろう?

 

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