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ショパン バラード1番ト短調作品23

2015 FEB 6 13:13:36 pm by 東 賢太郎

僕はどうやらショパンに「甘み」を感じます。本当に砂糖の味がしてショパンづくしのリサイタルなんか聞くとケーキ10品のフルコースを食べたようで満腹になり、もう今年は結構になってしまう。右手のぱらぱら続く長ったらしい装飾音など何ら栄養分を感じず、子供の時食べた金平糖が浮かんできて一体それがどうしたんだとなってきます。1時間耐えるのは苦行です。

よく軍隊ポロネーズを弾いた時期があって気持ち良かったのですが、単にピアノという楽器のソノリティが快感だっただけで、コーンフレークが食べたくてやたらに食ったという感じです。お菓子ですから自分の中で音楽が熟成(develop)することがなくてこう弾いてほしいという基準もなく、ソナタ2番の終楽章など音楽に聞こえず未だに覚えられません。音楽自体になじめないものがあるのは事実です。ショパンは僕にとっては高級なサロンミュージックです。

それだけならまだいい。さらに悪いことに、音楽以上にサロンにいる聴衆に決定的な違和感を覚えるのです。例えれば巨人ファンです。僕は野球選手としての阿部や坂本を評価しますし、敬意を表するのにやぶさかでありません。しかし、どうしてと説明はできませんが巨人ファンが嫌で、僕はあの巨人の選手がいっぱい出てくる昔のオロナミンCのCMなんかは虫酸が走るほど嫌いなんです。巨人愛なんて言葉にはゾッとしてジンマシンが出そうです。

これまた申しわけないのですが、ショパンをならべたリサイタル(ほとんど行ったことはない)でホールに充満するあのショパン愛のオーラにあたるともう吐き気がしてきます。香水のにおいがするロビーではジュン子センセイの囲む会のお花がどうしただの、どう好意的に解釈しても僕には1000%どうでもいいオロナミンCモノの会話がそこかしこで飛び交って、同じクラシック音楽好きとはいえ北極と南極ほど程遠い世界が展開しているのです。

これと人種は変わってきますが外来オペラの幕間のロビーというのも似たようなもので、けだしこの両者は鹿鳴館の現代版でしょう。欧州への憧れを満たすハレの場です。僕はそこに10何年も住んでそこの民族とビジネスで競争してましたから憧れなんてかけらもなくて、日本人が大相撲を観るような感覚で聴きたいのですが、これはもう異国の異空間であって鐘や太鼓でうるさい日本の野球場とおんなじです。余談ですが中味を仔細に吟味もせずピケティ先生をメジャー・リーガーとカン違いして賛美してしまうのもそれと同じノリでしょう。

ショパンの曲で例外的に好きになれたのがバラード1番です。この楽譜の部分、暗闇に青白い光がさすような感じはやっぱり女の子向けのお菓子の延長ではあるんですが、ここまで感覚が研ぎすまされると凄味があって、どうしても耳を澄まします。

ballad

ここをテンポを落してデリケートにうまく弾いているのはこのアシュケナージです。彼がうまいのは当たり前すぎて面白くないのかあんまりほめられてませんが、これだけ「弾ける」人がどれだけいるか。全編どこから見ても非常にプロフェッショナル、ほしいものが全部ある名演と思います。

ところが一方で、ひょっとしてショパン本人がこう弾いていて、だからこういう譜面を書いたんじゃないかと思うのがあります。楽譜部分が弱音(p)にならないのはピアノロールだからかもしれませんが、ああこういうものかという感じがします。

テレサ・カレーニョが弾いたものです。好きかといわれると考えますが、全編にわたって聴いたことのないテンポ、ルバート、ダイナミクス、フレージング続出で、主題再現の前は和音まで違っていてびっくりしますが、何回か聴くとこのうまさは並みはずれていて信じ難いレベルということがわかってきます。ホロヴィッツより上ですねこれは。

これほど技巧に苦労がないと天衣無縫、自由自在です。こんな曲を書き残したショパン本人はもちろんそうだったでしょう。その域の者でないと通じ合えない何かがあるんじゃないか、つまり、例えばあの装飾音をどんな速さでどんなルバートで弾くかということをです。テレサ・カレーニョ(1853-1917)はマーラーの7才年上、プッチーニの5才年上、何と言ってもフランツ・リストの前で演奏し「自分の曲はこんなにいい曲だったのか」といわしめた逸話が残っている人です。「ピアノの女帝」「ピアノのヴァルキューレ」とあだ名されていたそうです。

もっとすごい事実は、テレサが生まれたのはショパンの死後わずか4年のことで、彼女はショパンの弟子だったジョルジュ・マティアス、アントン・ルービンシュタインに師事したのでショパンの孫弟子ということになります。このバラード1番が直伝のものかどうか証拠はありませんが、譜面づらからは出てこない表情やルバート、例えば第1主題のタタタタータターと第4音を軽く伸ばすような弾き方はショパンがそうしていたと思いたくなってしまいます。

 

オルガ・ルシナ(Olga Rusina)

この人はyoutubeでサーフィンしていて、ラヴェルの「夜のガスパール」にぶち当たって痺れてしまった。まったく知らない人だがi-tunesにあったので即購入。そうしたらショパンもあることを知る。これがまた良いのです。このバラード1番、今流のテクニックでばりばりではなく、頂点へ向かって感じながらピアニストの中で「何か」がだんだん盛りあがっていく。テンポも音量も自由に動くが、そういうすべてが一体になって。

こちらはアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ作品22です。僕はこの作品を知りませんでしたね。こういうもんだったんだと、この演奏でいま知った。このルバートとアクセントはポーランド語なんでしょう。記号化された楽譜をさらっても絶対に出てこないもんです、これは。うまい、すばらしいなんて評価は無用です、こういうもんなんでしょう、ショパンというのは。オルガ・ルシナ、この名前は耳に焼きつきます。

 

クラシック徒然草-悲愴ソナタとショパン-

(こちらへどうぞ)

ショパン ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11

 

 

 

 

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Categories:______ショパン, クラシック音楽

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