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オッコ・カム指揮ラハティ響のシベリウス3、4番を聴く

2015 NOV 28 1:01:48 am by 東 賢太郎

連日のカム指揮ラハティ響でした。今日の席は1階15列の端っこ(壁ぎわ)でしたが、不思議なものでこれが予想外によかったのです。2階席が上部にかぶさっており壁の反響もあったのでしょうか、これなら楽しめる。発見でした。

3番、ヴァイオリン協奏曲、4番の順番。シベリウス交響曲全曲演奏でなければ4番のほろ苦いエンディングでコンサートを締めくくるなんてありえません(我が国においてはですが)。到底ミーハーが近寄る曲目でなく聴衆もシベリウス好きばかりだったのでしょう、客席の集中力は大変ありがたい。

2番で愛国の思いのたけをぶちまけた反動でしょうか、7曲のうち3番ほど上機嫌のシベリウスもありません。マーラーの重めのラインナップに占める4番の位置に近似しています。ただし和声は一聴すると明快ですがプログレッションは一筋縄でなく、5番にエコーしていく萌芽があります。終楽章のヒロイックな主題の展開など特に。僕の愛聴曲であり書けばきりないので後日にします。

演奏ですが昨日の1,2番はやや金管のトゥッティに粗さを感じ、木管合奏の音程がいまいちで弦は美感を欠く所がありました(正直、一流オケの音ではなかった)。ところがどういうわけか今日はこの3番からしてぐっとグレードアップした印象です。特に弦の練り絹のような中低音は日本のオケには望めない触感!モーツァルトが理想と手紙に書いた「バターのような」とはこのことかというクオリティです。

Vn協のソリストはペッテリ・イーヴォネン。うまかったですね。技巧で押すタイプではなく第2楽章の愛の描き方がなかなかで、終楽章もメカニックにならずひたすらこの曲を弾ける幸福感が伝わってきました。シベリウス演奏では大事なことと思います。アンコールのイザイでは、しかし彼の技巧の卓越ぶりが明らかになり、シベリウスにそれをひけらかさなかったことにさらに好感を持ちました。

さて、僕が最も楽しみの4番です。最高の名演でした。冒頭バスの倍音に満ちた音圧からして別世界に引き込まれます。低音域の長2度の軋み。不安げなチェロのソロの幽玄な美しさは絶品。彼岸のようなヴィオラ、チェロのセクションの中音域のとろけるような音色はからんでくるクラリネットと同質で完全に融和!こんなニュアンスは日本のオケからは絶対に聴けません。

この死の淵をのぞいたような交響曲、シベリウスは喉の腫瘍が悪性(ガン)である覚悟もあったのではないでしょうか。第1楽章で曲想がやや明るめになって出てくるモーツァルトの「ジュピター音列」、あれは何なのかずっと考えてましたが、これが絶筆の可能性も意識したのではないでしょうか。第3楽章にはブラームスの弦楽6重奏曲第2番の冒頭旋律が現れる、これは偶然なのだろうか?僕は本当に最後の交響曲になったショスタコーヴィチの15番、あの先人のコラージュをなんとなく連想しております。

不意に立ち現れてクレッシェンドする予想外の調の金管の和音。シベリウス以外に断じて聞くことのない世界です。背後から死がふりかかってくるかのよう。これと似たインプレッションを与えるものが5番では、雨をぱらつかせた雲の切れ目からうっすら差し込んでくる陽光を感じさせるのですが、それは一転して生の喜びと確信に満ちています。4番で得た暗示が5番で逆の位相で存在感を出す例はこれだけでなく、4番こそ彼の語法の巣です。

シベリウスは癌への恐れと不安で生のどん底をさまよい、何か未知のものを見て帰ってきた。それが5-7番に深く投影されているのを感じるということです。僕がインスパイアされるのはそれであり、ロマン派の延長にあってそれを欠く1、2番はどうも物足りない。3番はそのはざかいの音楽です。やはり、「それ」そのものである4番こそ僕の関心を最も強くそそるスコアであり一音節一音符たりとも見過ごせるものはありません。

いくつか、ここはこういうものだったかと教わるフレージングがあり、フィンランド語なのか?と思いました。弦が内声部まで重いボウイングで弾ききっており実に意味深いニュアンスの合奏になるのです。例えば第2ヴァイオリンだけだと何をやらされてるのかわからない音型が総体を組み上げるとわかる。弦5部のトレモロでごそごそ細かく弓を動かす部分も軽いボウイングだと雰囲気は出てもインパクトが弱いのですが、このオケは深い絨毯のような重い音が出せます。これが正調ということでしょう、勉強しました。

終楽章はグロッケンでしたね、僕はチューブラーベル派なので残念でしたが、それを除けば文句なし。かつて実演での最高の4番でございました。アンコールがこれまた困ってしまうほどの逸品。「悲しきワルツ」、リズムの裏を支えるヴィオラのビロードの音色には身震いです。クリスチャン2世の「ミュゼット」、最後は「鶴のいる風景」、素晴らしい音詩であり、ほのかに暖かい光で心を満たしてくれました。今日で一気にラハティ響が好きになりました。あさっての5-7番が楽しみで眠れないなあ。

 
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Categories:______シベリウス, ______演奏会の感想, クラシック音楽

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