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小池都知事の英語力を判定する

2024 APR 20 1:01:49 am by 東 賢太郎

英語がうまい人を「ぺらぺら」という。この語は漱石が「坊ちゃん」に使っているから古い。ぺらでもべらでも構わないが、要するに何を言っているのかわからないものの擬態語だから犬のわんわんに等しい。猫と会話できるなら「あの人、猫語にゃーにゃーだよ」という感じだ。我々は誰しも日本語ぺらぺらだがそれ以上でも以下でもないように、外国語もぺらぺらだからその国の大学を卒業できるわけではない。

政治家に必要な英語力なるものは、相手を動かすための複合的なパワーである点でビジネス英語に似るだろう。その観点からすると、動画で見る小池都知事の英語はうまい。政治家の中なら偏差値70だろう。発音のそれっぽさという点でも余裕で使いこなしているという点でも間合い・抑揚という点でも、ネイティブと相当な時間を費やさなければこうはならないと断言できる。しかし、とすると不思議なのだ。なぜカイロ・アメリカン大学からカイロ大学に転校したのだろう。学問的意図かというとそうも思えない。前者は米系私立大学で英語だから頑張れば卒業できたかもしれないし、そうしていれば何の問題もなかったわけだ。両校の違いを知る日本人は多くないだろうから、もし箔をつける目的だったならあまりリスクリターンの良くない選択だったように思える。

とすると「女帝」にある以下の仮説がより説得力を増す。中曽根総理とコネのあった父親が現地でそれを使い、エジプト政界有力者が “面倒を見よう” となった。軍政下だから大学は従うため、有力者のお墨つきを得れば「卒業」でも「首席」でも大学は否定しない。よって日本で自信をもってそう発表した。お墨だけだから卒業年月日はない。したがって、それのある名簿に載らない。卒業証明書も出しようがない。しかし有力者の決定を覆せないカイロ大は卒業していないとは言わない。よって、消去法的に、「カイロ大を卒業している」のだ。

だから2020年に日本で「嘘だ」と騒ぎになっても証明書は出なかった(よって「困ってるのよ」となり、今の偽装工作問題になっている)。2022年に小池氏はカイロ大学を公務として訪問し歓迎されているが、喉から手が出るほど欲しいはずの卒業証明書をなぜもらってきていないのかもそれなら説明がつく。押しても引いても出なかったのならカイロ大は政治に配慮しつつも学府の矜持は守ったことになる。小池氏が声明文を自作したとしても大学は自らが書いたとは言わず、エジプト国家(大使館)が裏書するだけだ。しかし大学も偽物だとは言わないのだから、「卒業がなかった」という証明は物証からは難しいのではないか。

この有力者の後継者が現在の有力者で、小池氏が日本国でODA等に関わる権力を握ることはエジプト政府にとって格好のポジションだから、私文書偽造罪で裁判になれば2020年のお手盛り声明を大学もが追認して救い、しかし卒業証明書は出さないまま小池氏の弱みを握る政略に出る可能性は否定できない。となると、法律違反であろうがなかろうが、それ以前に、小池氏が政治家でいることは日本国のリスクであるという主張には反論が難しくなる。岸田氏がアメリカ盲従なら、小池氏はエジプトのそれになるかもしれないという疑念は否定できなくなるからである。

この事態をまねいた種は小池氏が自らまいたものだから自分で除去するしかない。ただ、マスメディアにも責任がある。エジプト留学帰りだ、要人のアテンドもしてる、きっとアラビア語は堪能なのだろう。ここで彼らは「ぺらぺら」だけで海外の大学を首席卒業できると本気で信じたか、疑いはもちつつも商売として祭り上げたか、いずれにせよ彼女をキャスターに起用するなどして囃したて、様々なストーリーをまつりあげ、その国民的人気に乗じて政治家が群がってくることで『小池百合子というキャラクター』を国民の脳裏に植え付けることに成功したのである。それは小池百合子その人ではない。彼女に似てはいるが画面上だけに存在するバーチャルなイメージである点、ボーカロイドの初音ミクや、そらジローや、チコちゃんや、ひこにゃんや、くまもんや、つば九郎のようなものだと考えた方がわかりやすい。

小池氏を揶揄するわけではない。その現象はフランスのマルクス主義理論家、哲学者、映画監督であったギー・ドゥボールが看破した「スペクタクル」であるといっている。ここで詳述しないが、彼の著書によれば「社会」はマスメディアが生成して拡散するイメージ(表象)が支配し、イメージの集合体としてではなく、それが媒介する人と人との関係のことをいうようになる(もちろん政治もだ)。発刊は1967年だが半世紀を経て世界はまさにその通りの様相を呈している。トランプ大統領の出現はその象徴であり、小池百合子のキャラ化もその素地に根を張っている。だから彼女は選挙に圧倒的に強く、楽勝で東京都知事になり、キャラ化したら醜怪なだけの自民党議連のお歴々をぶっ飛ばせたのである。

もっと具体的に書こう。昭和のころ、銀幕のスターたちは映画館でしか顔を見ないにせよ、ファンには生身の人間として認識されていた。サユリストの間では吉永小百合はトイレに行かないという伝説があり、そう信じたいファンが多そうだなというフィーリングの伝播は “さもありなん” だという婉曲な形態でもって、彼女は半ばキャラクター化されてはいた。しかし、それがどうあろうと、昭和の世の中においては吉永小百合は早稲田大卒の女性であった。かたや初音ミクはというと、女性のようだが年齢も出身地も不詳であり、学歴はあるかないか誰も知らない。しかしファンにはどうでもいい。キャラクターとはそうした性質のものであり、それでも人気があって人が集まるのだから銀幕スターと何が違うのかということになり、社会も政治もイメージによってドライブされていくのである。それが「スペクタクルの社会」というものだ。我々はすでにその中に住んでいるのである。

つまり、これを世相の移り変わりであるとして、小池百合子は時代の申し子なのだで終わってはいけない。ドゥボールの「スペクタクル」は今も社会構造を根底から変えつつあるムーヴメントである。人気=権力であるという接合点を媒介して、日本の政界は芸能界と “同質化” した。参議院に芸能人やスポーツ選手が数合わせでいたのとは根本的に異なる、遺伝子交換に類するともいえるおぞましき交配現象がおきている。このままいけば、キャラで釣られる低学歴層が多数派になって国を動かし、とんでもないポピュリズム政権が誕生して独裁者が日本を破滅させかねないし、民主主義の手続きを経ながら日本を共産主義国家にすることだって可能だろう。

いま、大手メディアは報じないがネットメディアが取り上げている小池氏の学歴詐称疑惑を見るにつけ、僕はちょうど10年前に社会を騒然とさせたもうひとつの「キャラクター」を思い出している。それは、内容こそ違えども、「外国に渡って外国の利害に知ってか知らずか関わってしまい、日本を舞台として日本において利用されたと思われる女性」に関わるものであった。これが当時の稿である。

小保方発表で暴騰したセルシード株(7月25日、追記あり)

小保方さんはハーバード大学に留学した女性科学者であり、安倍内閣の「女性が輝く社会づくり」キャンペーンの花形であり、電通やマスメディアによって割烹着を着せられてテレビに登場し、「STAP細胞はあります」と世界を驚かせる論文をNature誌に発表した。日本人女性初のノーベル賞か!と報じられて世間の耳目を集め、あっという間に国民的キャラクターにまつりあがったのである。ここが小池氏のデビューと重なる。

当時、僕の関心は、セルシード社の株価がNature誌掲載と同時に急騰した裏にあると感じた不正取引(らしきもの)を調査することにあり、専門外のSTAP細胞に関心はなかった。ところが、しばらくして、小保方氏の論文にデータ改竄が見つかり、ハーバード留学も単なる数か月の短期ステイであり、密室での実験の結果STAP細胞は再現できないことが、これまた大々的に報道された。

科学の姦計と証券市場の姦計。実は「その両者が日米にまたがった同一犯の仕業である可能性がある」と指摘したのが上掲ブログと一連の補遺だ。胴元は米国だからだろう、本件を当局は捜査しなかった(と認識している)が、その帳尻は魔女狩りの如き小保方さん叩きによって合わされたかに見える。とすれば彼女は科学者としての心得の是非はともかく、巨悪に利用されて贖罪させられた犠牲者であるとも考えられる。同稿は毎日数万回ペースで読まれて多くの方の知るところとなり、不審なファイナンスが中止になるなど、天下の公器である証券市場が詐欺師に悪用されるのを抑止する一助にはなったと自負するが、後味はけっして良くはなかった。

小池氏が現況をどう打開するのかはわからないが、違法性があるとするならそれが立証されるか否かの可能性は既述のように思え、畢竟、最後の審判は有権者にゆだねられるのではないだろうか。僕は小保方氏の科学者としての心得についてだけは厳しく批判した。嘘となりすましの横行は国の幹を腐らせ、日本をますます衰退させるだろうが、真実・真理をひたすら追求するはずの科学者がそれに淫する図を見せられて心底衝撃を受けたからだ。政治は必ずしも真実・真理に基づいて行われるものではなく、国家の安泰と国民の幸福を得るための方策が何かは自国だけの都合で決まるわけでもないが、憲法が定める国民の多数決だけで常に最適解が出てくるわけでもない。それを導く叡智があり、その実行力を有し、正義に忠実な人が望まれる。国民はそれを審判するだろう。

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Categories:______哲学書, 政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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