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岸田総理の英語力を判定する

2024 APR 15 21:21:58 pm by 東 賢太郎

まず少々の前置きをしたい。他人の英語力についてネーティブでない人間があれこれ書くには、まずお前はどうなんだが問われるからだ。英語力を発音のことだと思ってる人が日本にはとても多いが、そういうものはカラスの鳴きまねを競うようなもので所詮は外人の英語だから目くそ鼻くそレベルだ(ただし帰国は違う、幼稚園からインターだった娘の英語は別次元だ)。我々後発組は正確に通じればいいのである。僕は自分の英語がうまいと思ったこともそういわれたことも一度もないが、電話一本で10年あまり何百億円も動かして失敗はない。

英語でスピーチした経験のある人もおられるだろうが、外国で現地法人の社長を7年勤めたから回数は多い。X’masパーティーや各種のセレモニーもあったが、特に多かったのは「調印式」であり、現地の銀行、証券、業者、マスコミなど100人ぐらいが集まり、株式や債券を発行する上場企業の社長が契約書に署名し、野村證券代表者として僕が署名し、幹事団の多くの皆さんが署名する。それを社長にお渡しして、握手してツーショットの記念写真、拍手という段取りである。この瞬間に何十億円というお金が動く。これが主幹事証券会社の職務であり、スイスでは多い月は週に1,2回これがあった。

調印が済むとさてレセプション(会食)となる。MC(司会)が皆さんご静粛にとやり、ホストである僕が乾杯のスピーチをするわけだ。ワインが注がれ皆さん壇上に注目し、大会場がシーンとなる。ここで当然、お会社様をほめ讃えなくてはいけないわけだが、日本人流に原稿を読んだりクソまじめな話をしては一気に座が白け、来ている幹事団は手練れのライバル社だから「あいつはボケの若造だ(他社の社長より一回り若い40歳だった)、次回は弊社に主幹事を」などと裏で平気でやられる。といって、ちょっとは気の利いた話をしようにも、それは俗にスカートにたとえられるほど短いほうがいいのである。これを何十回もやってどう切り抜けていたかはあんまり記憶にないが、高校時代にマウンドに登るぐらいの緊張はあった。まあ首にはならなかったが。

スピーチの良しあしはもちろんコンテンツにもよるが、役者と同じく演技の面もあり、これが結構大きい。慣れた人がやれば中身ゼロでも印象に残すことはでき、スピーチとしては成功なのだ。たとえば、僕はいきなりしゃべれと言われても大丈夫だ。何も頭にないのに、まず「それについて大切なことが3つあります」と、したり顔で言ってしまう。演技だ。1つぐらいはすぐ思いつく。それを語って時間を稼ぎながら2つ目3つ目を考えるのである。これはウォートンで習った技だが、MBAを取った人は訓練されている一種の「芸能」といえる。このぐらい屁のカッパでできないと金融の世界で大金を動かすことはできない。それを「英語でできる」ということであれば、通訳業はいざ知らず、ビジネスマンの僕としては「英語がうまい人」という評価になる。

ジョークが有効打であることは確実だ。面白いかどうかはともかく「ジョークを言う奴」はおしなべて好感がもたれる。言いそうもない日本人がやると効果は大だ。アメリカはエレベーターで他人と目が合うと必ずニコッとする。初めての時、若い女性にこれをされて驚いた。もちろん好感ありでもなければいい人なのでもない、誰が銃を持ってるかわからない国だ、お互い「危害を加えないよね」という合図である。ジョークも似たもの。いきなり原稿を読んだりクソまじめな話をするなんてのは匿名で顔を隠して他人をディスるイメージを持たれても文句は言えない。ジョークは中身より「人柄をあらわす」ことに意味がある。そこにウィットというひねりがあれば満点。そうなってしまえばそこから多少おかしなことを言っても受けいれられてしまうから不思議なものだ。

ということで本題に入る。

岸田総理の米国議会スピーチだ。うけるようにおさえる所をおさえていたから、十中八九プロが書いたものだろう。それはいい。述べたように、スピーチはコンテンツがどうあれ相手のハートをつかむことに意味があるからだ。つまり古典を演じる落語家やクラシックのピアニストにちかい。

結論。岸田総理は合格。英語力は日本の政治家として偏差値60代上の方、あれだけできる人は国会にほとんどいないだろう。ビジネス能力次第だが、英語だけなら証券、商社で生きていける。小学校1~3年をニューヨークで過ごしたのが大きいと思ったのは発音ではない、ここで笑いが取れると確信してあける “間” の取り方とポスチャー(所作)だ。ジョークも、ここをこう強調して言わないとうまく通じないなということをわかって言ってる。あれは日本の学校秀才ではできない芸だ。仮にスタンディングオベーションがやらせだったとしてもああいうものはごまかせないし、台本を家で猛練習しても知らないものはできない。丸暗記とディスっている人がいるが、その程度の人にあれを批判する資格はない。その場面は見てないものの、彼はアメリカ人と会話で意思疎通が十分にできるはずだ。

総理をほめているわけだが、これはもろ刃の剣で、あのシーンを見せられるとポチになってしまう素地がやっぱりあったのだ、こりゃもうだめだという危惧もいだく。ここは日本だ、英語なんかどうでもいい、そのために外務省や通訳がいるじゃないかという人もいるだろう。しかし、習近平ならともかく、ただでさえ軽くなった日本の総理の言葉が通訳をとおして米国を動かすなんて、もうそんなパワーはかけらもない。何より威力があるのは総理大臣自身の「パーソナリティと言葉」である。相手に心を開かせ、聞く耳を持たせ、日本の言い分を理解させ、納得させ、行動させる。サンフランシスコ講和会議に臨むまえ、マッカーサーは吉田茂は駐英大使だったから会話できると考えていたが、会ってみるとあまりの英語のひどさに唖然としていたとマッカーサーの側近の手記に書いてある。講和会議の契約書に日本語訳はなかった。いいようにやられてめくらサインをして今の日本のていたらくがある。最低、岸田スピーチぐらいの英語力がないと現状打開などまったく無理である。総理大臣を「純ドメ」(純粋ドメスチックの略)議員たちのくだらない政局なんかで決めていてはますますやられ放題になる、というより、純ドメがそうやって権力を握ってもアメリカのポチになるだけ、対米隷従が利権になっていくだけで、永遠に我々の子孫は独立できない。

希望は持った。岸田総理、むしろそれはあなただからやろうと思えばできる。「ポチのふり」だ。日本の国益になることを「アメリカが世界の主役であるために不可欠だ」とバイデンに思い込ませ、それを日本に「命令」させる。「さすがですね、それをやればトランプに勝てますよ」ぐらいヨイショのダメ押しもかます。そのぐらいのことはやってくれ、それなら長期政権でいいじゃないか。ぜひお願いしたい。

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Categories:政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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