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チック・コリア逝く

2021 FEB 15 19:19:20 pm by 東 賢太郎

さあLINNのプレーヤーKlimax LP12が家にやってきたぞ、何をきこうかなとレコード棚をしばし物色し、千枚以上ある中からチック・コリアの “シークレット・エージェント(Secret Agent)” をとりだした理由はさっぱり記憶がありません。確かなのは、それが2月9日の夜だったことです。

チック・コリアの訃報を知ったのは12日、ブログを書き終えたあとのことでした。ええっ、なんてこった!いつだ???

2月9日でした

こういうことは皆さんもあるでしょうが、 “Secret Agent” ってロンドンにいたころ、35年も前に買ったレコードですよ、ひょっとしてあれ以来きいてないんじゃないかな?そんなぐらいで、曲については何も覚えてません。なんでまたこれを。。。??

チック・コリアが凄いと思ったのはアルバム “Now He Sings, Now He Sobs” (1968年)で、これジャズに詳しい人はみんなほめてるわけですが、僕はどうだったかというとどんなクラシックより上かもしれないという驚き方をしたのです。そのショックでコリアをあれこれ渉猟し、La Fiestaは悪くはないな、ゲイリー・バートンのCrystal Silenceにぶちあたってこれだこれだと舞い上がったり、やがてElektric Bandなんてのに出くわしてあれれ?となり、かたやSpainなんて軟弱なので完全にわけがわからなくなるのです。Secret Agentはあれれの部類だったのでお蔵入りしたんでしょう。

まあ僕のジャズはこんなもんでフュージョンに入りそこねたのですね。おもえば我が高校時代、音楽好きで女にもてるというとロックかフォークが相場で、同じ西洋かぶれなのにジャズは暗いしクラシックは論外でした。楽器もできないクラシック・オタクは不遇で、ちくしょうとジャズに憧れたのもあります(笑)。でもジャズに行ってもおかしくなかった。というのは、どなたも音楽趣味の棲み家みたいなものをお持ちでしょうが、僕は “Now He Sings, Now He Sobs” やらいくつかの衝撃でそれをいっとき見失なって、本当はこういうのが本命じゃないかと迷った時期があったからです。

コリアのアルバムはほぼ自作ですし即興と変奏の名手であることは折り紙つきです。現代にモーツァルトがいればこうなったに違いないと確信してしまったこともあります。例えば、Steps-What Wasのピアノのモードなど和声を超越してドラムス、ベース三つ巴の対位法!の域に突入している。和声はあるが無機的な4度系であって意識から消え、唖然とするプレストに目がくらみ思考停止します。何が乗り移ったかという即興感みなぎる発狂レベルなんですが形もちゃんと整っているという、これってアイガー北壁のてっぺんの稜線を歩いたらこんなかというぎりぎりの均衡ですね、何度聴いても手に汗握るしかないです。

それでいてその後70年代からは硬派のフリージャズの道でも突き進むかといえばそうでもなく、『クリスタル・サイレンス』 等でぐっと和声音楽的でクールな抒情を漂わせる方向に行くのだからもったいないといえばもったいない。この多才さは功罪あったのかもしれませんが。

そのゲイリー・バートンのヴィヴラフォンとのデュオは管弦楽法の魔法のようなもので、1979年のCrystal Silenceのチューリヒ・ライブはホール・アコースティックとのブレンドが絶品で完全にクラシック的鑑賞を許す域に入ってます。会場はLimmathausとあり市内を流れるリマト川のLimmatでしょうが2年半住みましたが知らないですね、でも素晴らしい。

これが2008年にはこう進化してオーケストレーションが施され、原形をとどめぬほどクラシック化しています。ストラヴィンスキー並のカメレオン的変化ですね、それともピエール・ブーレーズのWork-in-progressのコンセプトと同じ思想があったのでしょうか。

電子楽器のサウンドは彼の音色感覚でオーケストラの色彩領域を拡大するものとして使われます。僕は素人だから間違っているかもしれませんが、それがジャズ・フュージョン・バンドのElektric Bandに進化したように思います。The Chick Corea Elektric Bandではこれが凄い、先祖返りした曲ですね。

彼がクラシックも弾くといって、ジュリアードに行ったんだから当然と思ってましたが調べたら半年で中退ですね。disappointingだったようです。まあ音大卒の人の何百倍もの偉業を成し遂げてますからね、ビートルズもそうですが技術は教育できても音楽はできないということでしょう。

それでも彼はモーツァルトもショパンもバルトークも弾いてます。Secret AgentにはバルトークのバガテルOp. 6 no. 4がそのまま入っていて、それが理由でCD化が遅れたともききます。モーツァルトはk.332Mov2を録音するほど愛奏してます。キース・ジャレットとのPC10はブログにしましたね。これです。

閑話休題 -ジャズとモーツァルト-

工房でPC24番を練習するビデオがyourubeにありますが、3曲とも僕の愛好曲ですし、k.332Mov2は自分でも弾いてますから他人とは思えんですね。

彼に音楽の垣根はありませんでした。深く共感します。僕もまったくないからです。こういうのを是々非々といい、ちょっと多めにクラシックを聞いてるぐらいの感じで、その中でもハイドンも良ければブーレーズもいい。チック・コリアとバッハを分け隔てる理由もありません。あるのは驚嘆すべき才能への畏敬かもしれません。

まだまだ僕は彼の音楽に追いつけてないので、追悼はしても付き合いはこれからです。人は逝っても魂は残ります。2月9日はそういうことだったんだと思うことにします。

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Categories:______日々のこと, Jazz

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