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田村正和に見た男の美学

2021 MAY 22 12:12:11 pm by 東 賢太郎

わがままに生きてきたせいか、唯我独尊というか、自分だけの美学とスタイルを持っている男に共感がある。それも野放図にそうだというのでなく、少々無理してでもそれを変えたくない、違う風に見られたくないという繊細さ、依怙地さが裏に見えるぐらいがちょうどいい。その最高峰が高倉健だったが、田村正和もそうだった。先だって見た古畑任三郎の「笑うカンガルー」は、ロケ地がオーストラリア(ポート・ダグラス)のシェラトン・ミラージュなのに驚いた。一昨年も行った我が家お気に入りのリゾートホテルだからだ。その矢先なのが悲しい。

田村は成城学園だからあの雰囲気かな、というのはとてもある気がする。僕はというとぜんぜんぎすぎすした世界に入りこんでしまったが、あの感じはいいなというのがどこか残っていて、心の故郷というかお袋の好きな世界だったというノスタルジーを感じさせてくれる大事な役者さんだった。僕自身、仕事用に作った世界があって、完全にそういう人を演じて繊細に依怙地に生きてきたが本当はそうじゃない。それを仕事の局面で見抜かれるへまをしたことはないが、女性には通用しないと思ったことが何度かあり、その方たちは例外なく今でも尊敬申し上げている。そして家では完全に丸出しである。

コロナでなくても外へ出ず外食もあまりしなかったと語っている田村だが、想像するに、それが面倒くさいから家が楽だったのではないだろうか。軽く見ているというのではない、逆だ。そしてその面倒くさいが人生までを支配してしまう境地に至る感じこそが男の究極のわがままであり、その真髄とでもいうべきものなのである。彼はおそらくサラリーマンが勤まるに最も遠い部類の人種に属していたろうが、まさにそうである僕も30年もよく耐えたものだと感嘆するばかりであって、そうさせてくれた家内のおかげというほかない。

77才は早く逝きすぎだが、お爺さん役も定年まじかの古畑任三郎も似合わない、年をとったらいけない人だった。似合っていたのは私見で最高傑作の「ラストダンス」と思うが、お人柄というか、引退宣言は柄じゃないという言葉も、最後の作品を観て自らダメ出ししてやめたのも格好いい。所作や手がきれいでキザなんだけど嫌味にならないのは本当の二枚目で誰も手が届かないし、ご自身の人生そのものが完璧な役者だったという役者さんはもう出てこないんじゃないか。静かに死にたいと、静かに去っていかれ最後まで格好よかった。美学に心酔。たくさん楽しませていただきました。ご冥福をお祈りします。

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Categories:______世相に思う

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