テラドローン案件の論功行賞
2026 AUG 29 3:03:22 am by 東 賢太郎
2020年12月にテラドローン案件をソナーに持ちこんだのは長いつきあいになっている公認会計士のY君だ。同社は彼のお客さんのひとつであり、たしか、将来の上場を見すえて資金調達の必要があるので社長に会ってほしいというリクエストだった。スタートアップ企業が資金不足に陥るのはよくある話で、銀行融資はまずつかないが見込みがある会社の場合はベンチャーキャピタルが投資する。そうならない企業の場合は、だいたいはごめんなさいで終わるものなのだ。社名も知らずドローン業界は中国が8割独占ぐらいの知識しかなかった僕は、その程度のもんだろうぐらいの気持ちで渋谷に出向いたのだった。
徳重社長は今や有名人になられたが、当時からそのままの方だった。話はインパクトがあった。世界最大級の投資家であるサウジアラビアのアラムコが「ドローン企業に投資する」と公表すると世界中から50社が押しかけた。彼も単身乗りこみプレゼンを始めると、途中で審査官に遮られ、「どうせ日本企業は意思決定に半年かかるんだろう」とけんもほろろの対応を受け憤慨し、こういい返したという。「21世紀のトヨタ、松下を作る気概でやっている私をなめてもらっちゃ困る」。相手はびっくりし、真剣に聞き入り、見事1社だけ投資を勝ち取ったそうだ。日本人をなめんなよ。野村証券の海外部門で最前線を渡ってきた僕もまったくおなじ気概をシェアしているから、このいきさつに感銘を受けた。「わかりました、投資しましょう」。その場でお答えした理由はそれだけだ。これがドラマの始まりだった。
ところがだ。調査してみると業績見通しはおよそ不透明である。ということは投資家向けレポートもお粗末である。Y君に「これじゃ金なんか集まらん」と何度も修正させたがだめだ。その末に、これでいかがでしょうと満を持して出張先に送ってきた “最終版” なるものを見て堪忍袋の緒が切れた。なんだこれは。おまえ俺が言ったことなんにもわかってねえじゃねえか。「電話で2時間怒られましたよ」と笑うY君に気合が通じたんだろう、やっと眼鏡にかなう “完成版” ができあがり、OKを出した。それを読んで納得したソナーのお客様方が同社株を対象とする投資事業有限責任組合に出資してくださった。事態は概ね僕の予想通りに進展し、同社は2024年11月29日に東京証券取引所グロース市場に上場を果たし、つい先日、防衛省の防衛装備品のドローン納入業者に1社だけ選ばれるという大金星のニュースが市場を駆けめぐった。3千円ほどで投資した株価は急騰して2万円を超えた。お客様に喜んでいただいたのがまず何よりだが、Y君にとって人生を変えるほどの成功体験になったことも我が事のようにうれしい。
テラドローン社の株価推移
2時間も怒ったかどうか覚えはないが、もしそうなら、僕が野村証券で20年かけて学んだことを彼は2時間で習得したわけである。 公認会計士には未知の証券業、なかでも収益性の高いインベストメントバンキング業務のエッセンスを40歳かそこらの若いみそらで身につけたのだ。しかもケーススタディでなくリアル体験だから鮮烈に残る。僕が言った通りの金額をお客様から集めることに成功してディールをクローズし、結果は大成功で全員に喜んでいただいた。この経験は甚大だ。なぜなら若かった僕も何度もその美酒に酔いしれ、よしまたやろうと努力する、その絶え間ないサイクルの中でさらに技術を習得したからだ。彼は僕の弟子になったことを意味する。教科書的な知識をいくら習ってもそんなのは絵に描いた餅だ。2時間怒られてもへこたれずに挑戦し、なにくそと結果をもぎ取った。どんな難しい試験に合格するより、それをした者の方がビジネスで大成することを僕は身をもって知っている。
本件は僕が真剣に動かなければ、Y君だけではどうにもならなかった。それでも彼を50/50のパートナーとしたのは弟子だからではない、「優良投資案件を見つけてくる仕事」(ソーシング)こそ当業務の柱だという極めて重要な別個の、客観的な判断だ。だから当社はSonar(探知機)という名称にしたのである。GAFAM、スペースXも未公開株段階で投資させてもらえるか否かは、創業者や取り巻きとのコネ次第であり、その規模の会社は大手証券会社とのバトルになる。だから僕は米国のキャンター証券と関係を築いた。投資家はいくらでもいるから優良案件を手に入れた者が勝者というわかりやすいゲームであり、Y君の成長はストレートにソナーの利益にもなる。だから50/50で理が通ると判断した。ちなみに彼は間髪入れず米国の電池案件もソーシングし大活躍の兆しを見せる。同社は業績もある程度メドがたっており、上場は3年先だが来年が初回の公募だからほぼ創業時点株価で投資する案件である。上昇余地は大きいと判断して出資を即決した。
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