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オッコ・カム指揮ラハティ響のシベリウス1,2番を聴く

2015 NOV 27 0:00:55 am by 東 賢太郎

オッコ・カム指揮ラハティ響を全部買ったので明日の読響は行けなくなりました。ご当地のオケで全曲聴ける機会はシベリウスイヤーの特典で、もうあまりないでしょうから仕方ないですね。

今日は交響曲1,2番でしたが一番印象に残ったのはアンコールの組曲テンペストよりミランダ(Miranda)、行列(Cortège )、ペレアスの間奏曲(Entr’acte)です。これはすばらしい!まるでウィーン・フィルのヨハン・.シュトラウス。弦の精妙なフレージングは曲を知り尽くしてないと絶対にできない性質のもので、管も含め全員が確信をこめて弾いている説得力には感服するしかございません。標題音楽はシベリウスの出発点として非常に重要なのですが、初めて真価を教えてもらったかもしれません。

1番ですが、時に聞こえる後期への萌芽と、スケルツォのご当地オケでなくては出ないだろう思いのこもった弦のアタックが秀逸でした。ただ、この曲はまだチャイコフスキー時代のロマンが濃厚に残っているわけで、5番、7番あたりから入門した僕としては昔から何度かは耳にしているはずなのですが、どうも居ずまいが悪い。シベリウスをロマン派とは思ってないもんで・・・。第2楽章の主題が「もーいーくつねーるーとー」に聞こえたりして。苦手です。

2番はこのオケにして日常のメニュー、定食なんでしょう、練習もなく弾けてしまう感じでしたね。カムの解釈も、ベルリンPOやヘルシンキ放送OとのCDと大きくは変わりありませんでした(後者に近いですが)。ただ客席はカムを呼び戻すほど熱狂しており、それをいつくしむような目で見ていた団員の笑顔が良かったですね。日本とフィンランドはいい関係になれると思います。

ところでホールは東京オペラシティで1階15列目中央の最高にいい席でしたが、何度聴いてもここは楽器のナマ音が前面に出てきます。だからピアノ・ソロには向いており好きなのですが、オケはいまひとつですね。ハリウッドボウルのような野外音楽堂に似た音響成分を感じます。意味もなく天井を高く造って、せっかく形状はシューボックスにしたのに美点を消してしまったと思います。

 
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マリナー/N響のブラームス4番を聴く

2015 NOV 26 0:00:30 am by 東 賢太郎

ベトナム出張まえからやや風邪ぎみで今朝はノドがガラガラで酷い声でした。帰国が火曜で一日つぶれたので仕事がたまってしまい、結局昼間は自宅で9時―15時は相場を見て、同時に電話とメールで大詰めに至って神経を使う案件を進めることに。

ところが気がつくとサントリーホールでN響の日でありました。迷いましたが、午後になって少しは体調も回復したしもったいなくもあり、出かけることになりました。そして着席してプログラムを見ると救われました。

 

指揮:ネヴィル・マリナー

ピアノ:ゲアハルト・オピッツ

 モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491

ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

 

幸いでした、行って良かった。ピアノはもともとボザール・トリオのメナヘム・プレスラーがモーツァルトの17番を弾く予定だったようで、オピッツに替わって24番になったようです。結果的に短調のまま終わる2曲が、それも最も敬愛する2曲が並んでしまい、両曲とも終楽章が変奏曲というのも不思議なものでした。24番と4番、何か書きたいといつも思っているのですが、怖くてなかなか勇気が出ません。

オピッツはフランクフルト駐在時代にたくさん聴いたおなじみのピアニストです。ケンプの弟子で彼の美音とタッチは継いでますが、僕はベートーベンよりブラームスを評価しています。今日もアンコールに弾いた作品116の第4曲間奏曲は見事でした。

さて24番ですが、この曲はクラリネット入りでフルート以外の木管が2本、トランペットも2本という大編成ですが、旋律線を吹きそうなフルートだけ1本しかなくて副次的、装飾的な役しかなくモーツァルトの音色趣味を伺えます。第2楽章などこの「活躍しなささ」は例外的なほどと思います。

N響の木管は好演でした。大学時代からモーツァルトを教わったマリナーの指揮に注目しましたが、この曲にはややシンフォニックであり、CDになってるブレンデル盤もモラヴェッツ盤も終楽章が速めです。91才の彼がどうなっているか、興味があったのです。

第1,2変奏はCDよりやや遅い。これはいいぞと期待したら、なんとオピッツがオケよりもかなり速めのテンポで第3変奏を弾きはじめました。これはないだろう、びっくりだ。そこからはオピッツのテンポになり、この速度ではどうあがいてもモーツァルトがわざわざハ短調で曲を閉じてまでコーダに込めた重要なメッセージが言い切れません。マリナーが納得してたのか知りませんが、ただの快適なピアノコンチェルトになってしまいました。

オピッツがそう読んでいるということですが、この解釈には全く賛同できません。師匠のケンプはそういう妙なことはしていない。それどころかライトナーの指揮もピアノと波長が合っていて含蓄のある伴奏をしておりオケの音色もうまく録音されていて、ケンプ盤はお薦めできるもののひとつです。

最後のブラームス4番は名演でした。マリナーのブラームス、シューマンは時々家で聴きます。ことさらテンポを煽るでもなく、こってりと歌うでもなく、趣味の良い中庸の美に終始しますがブラームスのスコアはそれでうまく鳴るようにできていて、近頃はこういうのが好みです。第1楽章は全12音の長短調和音がちりばめられており、リズムは精巧に組み立てられており、終楽章冒頭の音を割るホルン、くぐもった低音部にまで下がるソロフルートなど音色の工夫にも満ちている。

つまり立派なスコアなんだから余計なことをしてくれなくてもいいよという気分です。もう40年もかけてなん百種類も聴いてきて、ごてごて意匠を尽くしたり張りきって悲劇性を盛り上げたりする演出には僕はあきあきしているのです。異様に頑張っていたブロムシュテットのように老境の情熱をブラームスの老いらくに託さない趣味が大変結構です。マリナーは昔からそういう誇張をしない傾向の人でしたが、ドイツものに本領発揮できる老い方をしましたね。彼のブラームス、ひょっとしてこれが最後かもしれないがいい4番を聴けて幸せでした。

(こちらもどうぞ)

アントン・ナヌートのブラームス4番

 

 

 

 
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ハノイ訪問記(ハロン湾)

2015 NOV 25 0:00:41 am by 東 賢太郎

2477e8db-sハロン湾はハノイの東方170キロ、トンキン湾北西部にあります。「いつか絶対行きたい世界遺産ベスト100」に紹介されている絶景の地のうちでは行きやすい所でしょうがとはいえハノイからバスで4時間もゆられるので楽とはいえません。

今回は仕事をくださっているL社様がアレンジして下さったJTBさんのお計らいで我々7名で小型バス2台貸切り、日英語がペラペラでクリントン大統領の通訳も務めたガイドさんが2名ついてくださるという万全の旅でした。

実は僕はここは2回目ですが、前回は野村時代に接待役でしたからあんまり楽しめず、今回は貴重な時間でした。ハロンは下龍であり、その名のとおり竜が下ったという伝説があり、「海の桂林」とも呼ばれます。

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この船で湾内を3時間かけて周遊し、ランチはここで獲れた海産物を船上でわいわいといただき、ワインで存分に酔っ払い、鍾乳洞を見学するというものです。船も7人で貸切であり、すいませんが非常にぜいたくでした。

 

halong

 

デッキはこういう感じになるのです。40-50人は楽にクルーズできるParadise社のでっかい船です。

 

 

 

島にある巨大な鍾乳洞は奇観でありました。これも一見の価値ありです。

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まるでクラゲです。自然の産物とはいえ一つの造形美です。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りも4時間で爆睡でしたが大変でした。一泊がおすすめです。ハノイから水上飛行機がありそれだと30分だそうです。また行きたいので次回はそれを検討ですね。

夜はナムフォン(Nam Phuong)というレストランにて夕食に。小泉、安倍首相の食べた部屋で同じメニューをいただきました。

hanoi

 

この巨大なロブスター、血を目の前でぬいてくれます。ちょっとかわいそうでありました。

 

 

 

hanoi1

登場した3人娘のベトナム楽器の合奏です。右の人の弾くダン・バウという1弦楽器はエレキギターの チョーキングみたいな音ですが、音が持続するので旋律を歌えます。面白いですね。

 

 

(つづく)

ゴルフへの情熱について(ハノイにて)

ベトナムへ行ってきます

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ベトナム、ハノイにて

2015 NOV 24 0:00:25 am by 東 賢太郎

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今日はベトナムのハノイにいます。56階のこういう部屋です。昨日は休みだったのでハロン湾にバスで4時間かけて行きました。明日帰って詳しくレポートします。

 

ハノイ訪問記(ハロン湾)

 

 

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オスモ・ヴァンスカ/読響のシベリウスを聴く

2015 NOV 22 1:01:59 am by 東 賢太郎

きのうは北の湖のニュースでショックを受けてしまい、コンサートの感想どころではありませんでした。

こういうプロでした。

指揮=オスモ・ヴァンスカ
ピアノ=リーズ・ドゥ・ラ・サール

シベリウス:交響詩「フィンランディア」 作品26
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
シベリウス:交響曲 第2番 ニ長調 作品43

東京芸術劇場は日本へ帰って来てから6年ぐらいずっと読響の定期(マチネ)をきいていましたが、N響に移って以来8,9年は行ってません。改修もしたようで楽しみでした。

結果として、このホールは東京ではベストと思います。残響が適度にあるわりに後方の楽器まで分離よく細部が聞こえ、低音楽器は倍音が豊かです。ヨーロッパ的な音がしますが欧州の有名ホールに似たものはないかもしれません。よく似てるのは香港文化中心(Hong Kong Culture Center)大ホールではないでしょうか。

さてラフマニノフを弾いたリーズ・ドゥ・ラ・サールですが、冒頭鐘の音の響かせ方から個性があります。ソノリティをじっくり聴き分けながら和音をならす。主張を持ったピアノでとても良かった。ただテクニックではやや苦しい所もあり、こういう曲がいいのかどうか・・・。アンコールのドビッシーは非常に高雅で、彼女の音響、ソノリティへの趣味が良く出た名演でした。低音の弦の微細な振動まで聞こえる芸劇の音響、いいですねえ。彼女はフランス物を聴きたいです。

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余談ながら、この人、ビジュアルで得してますね。むかし(今もあるか?)フランス人形というのがありましたが、まっさきにそう思いました。これはオジサン族はイチコロですね。

 

 

 

シンフォニーの2番。ヴァンスカはCDでもそうですが、ザッハリヒなシベリウスをやります。無味乾燥ということではなく、原典主義というか。第4楽章の第1ヴァイオリンのフレージングなど彼の読みへのこだわりでしょうが耳慣れないのがややわずらわしい。音量があがると速度も増す傾向があり、音楽のテンションは非常に高いです。第2楽章はppへのブリッジの休符が長く緊張感が増幅します。大きな起伏にオケがついていけずにバスとずれがあったり、完成度を求める指揮でありながら熱量の方に耳が行ってしまう演奏でありました。ひとつの強い主張を持った解釈であり感銘は受けましたが、僕の好みの2番ではないというところです。

 

 

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昭和の大横綱、北の湖逝く

2015 NOV 21 1:01:49 am by 東 賢太郎

きのうは東京芸術劇場でオスモ・ヴァンスカが読響を振ったのですが、ラフマニノフの2番の協奏曲を弾き終えたピアニストのリーズ・ドゥ・ラ・サールが再度ピアノに座って、「パリのテロで亡くなった人に捧げます」とアンコールのドビッシーを弾き始めました。

前奏曲第1巻から「夕べの大気に漂う音と香り」がひっそりと、どこか厳粛にもきこえました。そうして、あとで、コンサートの始まる5分前だった18時55分に大相撲の北の湖理事長が亡くなったことを知って、しばし絶句となりました。

本当に強い横綱でした。強すぎてヒールになり、誰が倒すかが楽しみにすらなった。僕は魁傑のファンであり、一度だけ優勝決定戦で北の湖をたおしたときは舞い上がりました。そのぐらい誰も勝てなかった。そして唯一の好敵手輪島との千秋楽全勝同士の大一番。手に汗を握り、相撲を見るのがあんなに楽しかったことはありません。

大学時代に全盛だったので友達と国技館へいって、花道をひきあげる横綱の左肩をたたきました。岩みたいにかちかちだったです。

僕は82年2月に結婚したのですが、留学が決まってたので新婚旅行は国内にしようと北海道に行きました。ちょうど有珠山噴火の時で行けない場所があり、案内してくれたタクシーの運転手さんが「かわりに行ってみますか?」と連れて行ってくれたのが北の湖の実家でした。

外から見るだけかと思ったら横綱の父上が出てこられて「よければあがりなさい」ということになり、居間で賜杯や写真を見せていただき、コタツでみかんまでいただきました。立派なお父さんでした。

笑わないのは土俵で歯を見せるなと言われたから。負けた力士に手を貸さないのは自分が貸されたら屈辱だから。すじの通った人でした。それがヒールのイメージを倍加しましたが、それでもすじを曲げない。僕もそうありたいです。

62才。ほぼ同じ年でもあり、大ショックです。悲しいです。ご冥福をお祈りします。

 
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日本、韓国に信じ難い逆転負け

2015 NOV 19 23:23:55 pm by 東 賢太郎

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9
韓国 0 0 0 0 0 0 0 0 4 4 6 1
日本 0 0 0 3 0 0 0 0 0 3 6 0

先発の大谷は6回までノーヒットノーラン、7回投げて被安打1で11奪三振。球数は80台で楽々完封できるペースであり顔つきでありました。そのままいけたんじゃないかなあ・・・もう今年は投げないんだし。こんな規格外のピッチャーが投げていて、7回で3-0だった試合が逆転負けというのは人生であまり記憶にありません。今年の広島カープの緒方迷采配ぐらいですね。

小窪さん、ピッチャーは顔を見てほしい。則本が打たれたのはいいでしょう。満塁の松井ですよ。前回の韓国戦、9回に出てきてポンポンと打たれた時の顔。零点に抑えはしたがびびってました、はっきりと。どういうわけか松井に信頼が厚い。たしかにいいピッチャーだけど、あの顔見たら僕だったら2度と使いませんわ。その松井の逃げの押し出しの1点が痛すぎました。

韓国が強いということですね。強いバッターが並んで怖い打線でした。投手は日本よりはるかに落ちますが、それから3点しか取れなかった打線。結局、中田の神憑り的な活躍でここまで来られたということでしょう。その韓国打線を相手に2試合投げて13イニング3安打完封21奪三振だった大谷君、世界最高の投手のひとりだ。凄すぎて神の領域です。ほんとうにご苦労さまでした。

 
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エルガー チェロ協奏曲ホ短調 作品85

2015 NOV 19 0:00:53 am by 東 賢太郎

冬の気配が近づいてくると、ああ日本だなあと思う。今の家を建てて6年、海外転勤族で引っ越しを24回もしている我が家が最も長く住んだ家になった。そして迎える6回目の冬である。

日本を除いて6回の冬をこしたのは英国だけだ。この国で娘がふたり産まれ、仕事でも私生活でも忘れられない思い出の地となった。長い海外生活から戻って味わう日本の四季のうつろいはそれはそれは素晴らしく、五感に劇的に訴えるのだが、英国のそれは趣が違う。

夏が蒸し蒸しして熱帯夜ということもなく、冬が氷点下で凍てつくこともない。我々日本人にとってむしろ由々しきは、夏は白夜のようであり、冬は朝も夕方も真っ暗という日照時間の振幅だろう。これはこれで劇的なのである。盛夏はずいぶん短くて9月始めには知らないうちに朝晩が秋めいてきて、毎日目に見えて日が短く太陽が低く弱々しく見えるようになるなあと寂しい気持ちになっていると、あっという間に実は冬でしたという塩梅だ。

英国人が北欧の音楽に魅かれ、シベリウスを愛し、自らも北欧の音楽に親近性のある独特の薄明かりとほろ苦さや渋みを纏った音楽を生んだのはわかる気がする。それは冬なのだ、あの暗くて湿って光に乏しく、営々と終わらぬ冬。それを耐え忍んで、何度か過ごすうち、それも人生の節目みたいに慈しむ気持ちが芽生えてきて初めて知るものかもしれない。

この時期になると、英国の冬を思い出して僕が感慨にふけるのはエルガーの音楽だ。

Elgar-by-haines-1912サー・エドワード・ウィリアム・エルガーは楽器商の息子で正式の音楽教育を受けていない。ヴァイオリンを父から習い、図書館で教則本や理論書を独学し、ライプツィヒ音楽院に留学を目ざしたが父にその財力がなかった。弁護士事務所の事務員という不遇の道に進むがそれを断って音楽に身を投じ、アマチュアの楽団でヴァイオリンやファゴットを演奏し指揮をして、いわばたたきあげで音楽に習熟していった人だ。シェーンベルグもそうだが、麝あれば香しである、 才能を持つ者は自然と世に認められるのだろう。

「威風堂々」や「愛の挨拶」ばかりが有名だがエルガーの真骨頂は2曲の交響曲、ヴァイオリン協奏曲、エニグマ変奏曲、ヴァイオリン・ソナタ、弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲、オラトリオ「ゲロンティアスの夢」、そしてなかんずく、今回のチェロ協奏曲にある。

この曲は1918年、エルガー晩年の最高傑作であるばかりでなく、古今東西あらゆるチェロ協奏曲のなかでドヴォルザークと人気を二分する最高峰と書いてもあんまり反論は出てこないのではないか。

音楽史上、最初にチェロ協奏曲を書いたのはヴェネチアのヴィヴァルディ(1678年)と思われるが、現在も良く演奏されるものとなるとヨゼフ・ハイドン(1732)を待たなくてはならない。モーツァルトは作曲を試みた形跡が残るが完成はせず、ベートーベンは書かなかった。注目されるのはシューマン(1810)であり、彼はエルガーの憧れの人だった。そしてもう一人の彼のアイドル、ブラームスは書かずに終わったが、それはドヴォルザークを聴いて「こんなコンチェルトがチェロで書けたとは・・・」と語ったことと関係あるかもしれない。

ブラームスがもしエルガーを聴いたら何と言ったろう?そう想像したくなるほどこの曲はブラームスの色調を感じる。結尾に曲頭のテーマが回想されるのはドヴォルザークもそうだが、この悲壮感はブラームスのクラリネット五重奏曲の方をより強く想起させる。いや、むしろ、ホ短調で号泣するように始まるテーマは、同じ調性で悲痛な響きに終わった第4交響曲の苦悩をいきなりぶつけられたように僕にはきこえる。これがその号泣テーマだ。

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エルガーは「僕が死んだ後に、もし誰かが口笛でこの旋律をモールヴァーンの丘で吹いていたなら、怖がらなくていいよ。それはきっと僕なんだから」と語ったという。

第3楽章Adagioはこう始まる。

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ため息のように休符で途切れるメロディー。夢見るように、何かを諦めるように・・・。これはエルガーの人生への憧憬と惜別かもしれない。彼はこの時61才、昔から好きだったこの楽章だが、僕もだんだんそう聞こえる年齢になってきてしまった。

この素晴らしいメロディー、3つ目のppでシ♭、ラ、ファとひっそり囁きながら終わりを告げるチェロにB♭、C7、Fと和声がつくが、C7には7thのb♭にaが短7度でぶつかり、忘れえぬときめき感がある。昔の恋なのだろうか?僕はここにシベリウスのヴァイオリン協奏曲の第2楽章の暗示を見る。そして、この秘めやかで官能的なぬくもりのある楽章は終結に至って、再度そのシ♭、ラ、ファで幕を閉じる。何という感動的な瞬間だろう。

そして上の楽譜のあと、オクターヴの跳躍を伴った「夢見るような、回想するような主題」が続く。elgarVC2

そしてそして、全曲の終結、冒頭のチェロの号泣主題が再現する直前に、この「夢見るような、回想するような主題」が『回想』されるのだ!ここの素晴らしさはもう拙文の力など到底および得るところにない。これを聴いて何も感じない人がいるのだろうか。

R-4404491-1363995062-7131_jpeg僕が初めて買ったレコードはピエール・フルニエ(アルフレート・ウォーレンシュタイン/ベルリン・フィル)のものだ(右)。これは後述するデュプレ盤におされて本来の評価がなされていないように思うが、とんでもないことだ。ドヴォルザークと同じく至高のチェロ演奏であり、音の美しさと格調ではデュプレを上回る。技術できかせる人でなく、第2楽章はやや不安定だが真骨頂は冒頭と第3楽章だ。軽々と鳴っている高音のあでやかな色つや、転調に添ったミとシの音程の取り方を聴いてほしい。深い。オケの弦が下手に聞こえる(ベルリン・フィルだ)。ほんとうにうまいチェロがどういう音がするのか?簡単だ、フルニエをお聴きになることだ。

1983年にフィラデルフィア管の定期にフルニエ(1906-86)が来た。ところが、渋滞か何かで遅れてタッチの差で最初のプログラムだったフルニエを聞き逃してしまった。フィラデルフィア・オペラの首席チェリストのお姉さんにチェロを習い始める前のことだったが、そう簡単に鳴ってくれない低いcとgの弦をフルニエがどうしてヴァイオリンみたいに羽毛のように楽々と歌えるのか、見てみたかった。今でも悔しい、痛恨の思い出だ。

忘れもしない、ホールの入り口の扉の向こうから微かに響いてくる曲が、このエルガーだった。

 

ジャクリーヌ・デュ・プレ / ジョン・バルビローリ / ロンドン交響楽団

749ジャクリーヌ・デュ・プレ(1945-87)はこの曲で有名になり、この曲はデュプレによって有名になった。基本パブリック・ドメインであるクラシック音楽においてそういう例はあまりない。ジャケットは右のものばかりでなく、手をかえ品をかえ別の装いで市場にある。今後も永遠に消えることはないだろう。この有名すぎる録音についていまさら何か書くのは面はゆいばかりだが、この曲について書こうという時にこれをはずすという選択肢は存在しない。彼女以外のいかなる歌手が歌っても節回しやコブシや裏声がああはならないという意味において、これは津軽海峡冬景色における石川さゆりのようなものだ。エルガーはジャッキーの持ち歌になった。僕がこれでなくフルニエで曲を覚えたのは実にラッキーだったということだ。このデュプレ節は耳に残る。一度知ってしまうともう他はだめだろう。

この凄まじい集中力はなんだろう?エルガーの霊が口笛で飽き足らなくなって彼女に乗りうつったのだろうか。入魂の演奏とはよくいうが、彼女はこの音楽に魂を捧げて入りきってしまっており、作曲家の耳に響いてはいたが楽譜に書きこめていない霊感のようなものを抉りだしている。たとえば第1楽章冒頭、オケが sf で高潮するなか、何かを求めて悲痛に駆け登るジャッキーのチェロだ。

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あらゆる音楽の中でこんなに悲しい色をおびた響きがどこにあるだろう?モーツァルトのレクイエムもかくやの大事件の瞬間だ。僕はもうここを聴いただけで彼女のオーラにくぎづけになり、わけもなく悲しくなり涙があふれてくるのである。ここをフルニエと比べてみてほしい、なんと彼ですら普通の美しい音楽に聞こえてしまう。こんなチェロを弾いた人は後にも先にもいない。

そして、 全曲の終結、冒頭のチェロの号泣主題が再現する直前の「夢見るような、回想するような主題」にじっと耳を澄ましてほしい。これぞ魂から絞り出された音楽だ。彼女のバイオリズムがエルガーの音楽の振幅と完全に調和、共鳴しており、奇跡的なバランスで最高潮の感動に導いてくれる。これは指揮者バルビローリの腕でもあり、「入ってしまっている」このハタチの娘がはみださないように包み込む老練の業だ。

ちなみにこのデュ・プレのエルガーは、デュ・プレのエルガーで世界に通用するブランドと化しており、「世界で最も売れたクラシック・レコード」ランキング(CD含む)で、グールドのゴールドベルク変奏曲(17位、200万枚)、カラヤンの第九(18位、150万枚)を抑えて堂々の12位(210万枚)なのである(出典「クラシックレコードの百年史」ノーマン・ブレヒト著)。

まぎれもない歴史的、記念碑的名盤ということだが、同書によると、1965年8月、ロンドンのホルボーンにあるキングズウエイ・ホールでの録音は険悪な空気の中で行われたらしい。二十歳の娘が無礼だったようで、オーケストラは冷ややかで指揮者も助けず、半分録り終えたところでジャッキーは非礼をオケに詫び、街の薬局に頭痛薬を求めて飛び出した。ところが戻ってみると録音スタジオは見物人であふれていた。事件が起きているぞという噂で地下鉄駅の近くにいた演奏家たちがフィナーレを見届けようと大挙して押しかけていた。終了後、彼女は録音のプレイバックを聴くと泣きだしてこう言ったそうだ。「やりたかったことと全然ちがうわ」。

チェロ界の王様であったロストロポーヴィチは、このデュ・プレの録音をきいて、自分のレパートリーからこの曲を外した。驚くべきことだ。プロにとってそれほどの録音であり、愛好家にとっても一家に一枚の勢いでレコードが売れた。この地味な曲が!やりたいことをやって歴史に名を刻んだデュ・プレは多発性硬化症により42才の若さで世を去った。87年10月19日のことだ。僕はロンドンにいて、その4日後に初めて父親になって幸せだった。その直前の悲しいニュースにこの女性が気の毒でならず、少しく落ち込んでいたことを覚えている。じっくりお聴きいただきたい。

 

(こちらもどうぞ)

エルガー「エニグマ変奏曲」の謎

ドヴォルザーク チェロ協奏曲ロ短調 作品104

ホルスト 組曲「惑星」 作品32

 

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ノイの「猫だまし」

2015 NOV 18 0:00:30 am by 東 賢太郎

おすもうさんの白鵬が「猫だまし」をしたと批判されてるわね。「猫だまし」は相手の目の前で手をパチンとたたくめくらましのことよ。

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やられるとびっくりしてこんな顔になっちゃうわけね。

 

 

 

 

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でもヨコヅナがするなんてもってのほかの軽いわざらしいのよね。それってネコをバカにしてるんじゃない?

 

 

 

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もちろん楽しそうなものが出てくるとこうなっちゃうワタシなんだけど・・・

 

 

 

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ときにはネコのプライドをみせてあげようじゃないの、ふんっ!

 

 

 

(こちらへどうぞ)

どうして猫が好きなの?

 

  ネコと鏡とミステリー

 

 

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前田健太の最後の勇姿

2015 NOV 16 23:23:11 pm by 東 賢太郎

プレミア12は今日からサドンデスに入りました。プエルトリコは前々回にマエケンをたてて3-1で負けた相手です。

プエルトリコ 0 0 0 0 0 0 0 0 3 3 7 1
日本 1 0 1 2 0 1 2 2 X 9 13 0

相変わらず強いです。PL学園(前田)、大阪桐蔭(中村、平田、中田)、履正社(山田)、横浜(筒香)、帝京(中村晃)、やっぱり名門校卒はウルトラエリートです、つくづく思いました。満を持して登板の先発、前田健太。7回無四球7奪三振で無失点。今日のピッチングをされたら誰も打てないでしょう。メジャーのポスティングでの前田争奪戦は激烈になるのでは。今日が日本で投げる最後かもしれないと思うと感無量でした。

以前に書きましたがマエケンの凄いのはリリースで頭が動かないのです。球離れの瞬間にバッターの反応を見すえている感じで、バットを引くバックスイングを見て計算して投げれているイメージなんです。そして投げた瞬間から全身が内野手になってます。そこまで自在に打者とかけひきして、ミットに正確にコントロールできて、それでいながら150キロもスピードが出る。どんな強打者でも討ち取れる術を天性として身に着けた勝負師です。マー君ともダルビッシュとも違う神業です。

彼の一番の武器は手元までぎりぎりに来て急に曲がる速いスライダーですが、今日はそれよりも右打者外角低めのストレートが必殺の武器でした。凄い!ピッチャーのはしくれとして書かせていただきますと、すべての投手はあれが投げたいし、あのコースを毎日練習します。でもさすがのプロでも今日のマエケンのそれは殆ど投げられないでしょうし、あの威力と精密な制球力がないと大事な一戦でフォーシームは投げられないでしょう。スタンドの鳴り物がないのできこえた嶋のミットの音が最高の快感、最高の野球の醍醐味でした。

最終回にやはり150キロ以上出ていた抑えの増井がスリーランを喫したように、台湾をサヨナラ満塁ホームランで沈めたプエルトリコ打線はパワフルでした。それを7イニング、ぐうの音も出ないほど完璧にねじ伏せ、相手投手のリズムまでおかしくしました。何十億円の男です。インタビューをきいていつも思うのですが、冷静沈着、礼儀をわきまえた聡明な男でもありますね。広島のエースなんかじゃない、日本のエースであり誇りです。黒田に次ぐメジャーのエースになってください。

 
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