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どうして猫が好きなの?

2014 SEP 29 21:21:13 pm by 東 賢太郎

「『どうして猫が好きなの?』と、いわれても、それは困る。私が猫を好きなのは、なにか理由があってその結果好きだというのではない。理由などあれこれ考えるより以前に、すでに好きだという事実が厳存しているのであって、いわば好きだから好きだ、とでもいうよりしようがなかろう」(伊丹十三『再び女たちよ!』)

この言葉は胸にしみる。まったくその通りであり痛快この上ない表現だ。僕など、犬とどっちが好きですかときかれても、それだけで困る。犬というのがそういう風に気軽に出てこられても、そもそも猿や熊と同じで眼中にないのだから比較のしようがない。

「そもそも私は生まれた時から猫と共に暮らしてきた。私の過ぎ去った人生を振り返ってみても、周囲に猫のいない時期というのが殆どない。各各の時期が、ああ、あれはあの猫の時分、ああ、あれはこの猫の時分という工合に、様様な猫たちのだれかれと直ちに一致する。実に、私において、猫のいない人生は考えることもできぬのである」 (再び、伊丹十三『再び女たちよ!』より)

まさにそういうことだ。僕も小学校から就職するまで、5匹の猫たちと一緒に暮らした。いや、一緒に育った。猫の考えていることはわかるし、猫の方もこっちをわかりやすい人間、ひょっとして同族と思っている。

犬は家族に序列をつけてその一員になろうとするようだ。つまり組織の動物だ。先祖の狼からして普通は群れに属しているから「一匹狼」ということばがある。それが珍しいからだ。一匹猫とは言わない。それが当たり前だからだ。

猫は服従を嫌う。徹底した個人主義である。だから他の猫とは目を合わさず、距離感、間合いをはかる。人間に対してもそうだ。ただし無視はしていない。各人をよく見ている。エサをくれる人、遊ぶ人、猫をよくわかってない人、ちゃんと見分けている。

その見分け方が実にリアリスティックなのだ。これは猫のほうをよく観察しないと気がつかないことである。一見のんびりと何も考えてないように見えるが、そんな程度の知能で1万年もの長きにわたって人類を籠絡し続けることなどできるものではない。

犬みたいに労働やお追従はしないのにそれだ。好きな時にネズミを捕るだけ。でもそれは自分の食糧確保にすぎない。いわば我が儘だけのお役立ちなのに、人類をして延々と自らを保護し養わせるという策略を会得した地球上唯一の種だ。地球の支配者とされる人類においてすらそんな貴族的特権階級に甘んじることの許される者はほとんど存在しないのである。

猫の祖先は北アフリカに生息するリビア山猫とされる。野生の猫科動物が人に慣れた、これは驚くべきことだ。ライオンや虎でそんなことが想像できるだろうか。今だって猿や熊が餌を求めて人里に出る。しかし、いつも邪魔者扱いだ。いくら猿が賢いといっても人になついて誰かの家の家族として住みついたなんて話は聞かない。

山奥にいるより、餌のネズミが穀物を狙って集まる民家に近づいた方が得だ。ここで当地の支配者たる人間の食べ物や生活にちょっかいを出さなかったのが猿や熊との違いだろう。個人主義の猫は粗暴に人の支配を邪魔するようなまねはしない。それだけでない。その美しさを武器に人間をとりこにすることで永遠の庇護を勝ち取るという乗っ取り作戦を成功させている。

犬も人間界に入り込んだが、乗っ取ったわけではない。飼われただけだ。狩り、警備などの使役の対価として役職を与えられた。猫は人間にとって、あたかも細胞がミトコンドリアを自分の中に取り込んだものの実際は同化はしていないというのに似た共益、共生関係にある。労働者ではなく、パートナーシップの関係にほかならない。

共生しているだけだから猫は報酬で動かない。古来唯一の仕事であるネズミ取り自体が餌を得ることだったから、ご褒美欲しさにお手やチンチンなどのはしたない芸をくり広げるメンタリティーを獲得していない。だから、駅長さんや図書館長さんは猫である。長は宴会で芸などしない。出世めあてに尻尾を振る姿は猫には似合わないのだ。

上には誰かれ絶対服従の犬。家族一人一人をクールに見定めて個々の距離感を保つ猫。これは会社でいえば支店の営業マンと本社の人事担当部員ぐらいちがう。猫の眼はハードボイルドなのだ。このクールきわまりない「猫の人物鑑識眼」に気づいた者は、猫にある種の人格と畏怖のようなものを感じとることになる。

その最たるものが漱石の「吾輩は猫である」ことはいうまでもない。漱石はモデルの猫の十三回忌までしている。古くは宇多天皇(867 ~931年)が日記にブログ風の愛猫描写をしたため、一条天皇(980~1011年)にいたっては猫に官位を授け、「命婦のおとど」(後宮女官長)に任命して世話係の女官もつけている。猫に人格を見た人々だ。

猫のゆうゆうたる人類征服、籠絡計画は世界各所でますます猛威を振るっている。

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