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シューマン トロイメライ

2012 SEP 16 17:17:06 pm by 東 賢太郎

ベートーベンは重い、長い。どうしても嫌だという方はこれを。演奏時間は2、3分でポップス並です。ピアニストはプロなら誰でもいいでしょう。

トロイメライ(Traumerei)は夢という意味のドイツ語です。「子供の情景」という13曲からなる曲集の7番目です。できれば全曲聴いてほしいのですが、これ単品でもピアノ名曲集などに入っています。それで結構です。

繰り返しを入れてもたったの33小節しかない小品。技術的にはやさしく僕でも弾けます。しかし、これほど人の気持ちを鎮静させる作用のある音楽はほかに知りません。運命交響曲が人を元気にする薬ならこれは精神安定剤。だから高ぶっているときはこれを静かに弾いて寝ます。

どうしてそういう作用があるのか?この曲、同じメロディーが8回繰り返されるだけ。「サビ」すらない実に原始的なつくりをしています。ところがついている和音は次々と変わります。ヘ長調だったメロディーはニ短調、ト短調、変ロ長調、ニ短調とロマンティックな旅をつづけ、またヘ長調にもどります。凡庸な作曲家ならこれで冒頭に戻っておわりでしょう。

しかしこの人はシューマンです。おしまいの3小節で凄いことをやっています。なんとト長調(属七)という驚きの和音をフェルマータで長く、しかもピアニッシモでそっーと引き伸ばす感動のピークを作ります。そこからすぐヘ長調に戻したと思ったらふと影が差したようにト短調になり、バスをやさしくハ音が支えると、あーやっぱりヘ長調だったんだと安心して幕になる。

もうこれは小宇宙というしかありません。まさに薄明のなかで夢を見ているような、何が現実かよく理性では理解できないもの。僕はこの最後のト短調のところで、いつも、なぜか母のぬくもりを感じます。

 

バルトーク 「子供のために」(sz.42)

 

Categories:______シューマン, クラシック音楽

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