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中国はどこへ行くか(2)

2013 DEC 19 0:00:05 am by 東 賢太郎

香港で僕のやる仕事は複雑だった。ノムラ・インターナショナル(香港)Ltd.の経営は当然だが、この会社にはアジアビジネスのまとめ役という期待もあり、アジア株式業務部門長という仕事も同時に負えということになった。要は世界中にアジア株を売り込めということだ。

株式を売れというアクセル役と、拠点長という時にはブレーキを踏む役を一人で兼務するのは、やってみてわかったが根本的に矛盾があった。アジア株といえば中国株だけではなく、北は韓国から南はインドネシアまであり、それをまとめて欧米や日本に売り込もうといういうことだ。しかし各国に拠点がある。そこには時にブレーキを踏む役目の拠点長がおり、その香港の長が自分でもあるということだ。結局あまりうまくいかなかった。

グローバルカンパニーでこういう人事をする会社はない。国家権力の三権分立と同じで、アクセル役とブレーキ役は別人なのが常識だ。なぜなら「突撃!」と命令しておいて「バカもん、やり過ぎだ!」と諌めるのが同じ将校というのでは、兵隊はバカはお前の方だろう!となるのだ。だから普通は、香港なら香港にローカルヘッドという拠点の長がおり、株式、債券、引受、富裕層営業など各業務部門のヘッドが一人ずつ香港拠点にいる「二権分立」にする。

おおまかにいえば、拠点長が大家で部門長はテナントという関係だ。大家はその国のルールで貸家を適法に管理してテナントをサポート、監督し、違反などあれば出て行けと言う(ブレーキ)のが仕事である。テナントはその部屋から自分の商品を世界中に輸出して稼ぐ(アクセル)ことだけが仕事のスペシャリストで、自分のボスは東京やニューヨークにいたりする。当然、なるべき人の資質も人事評価もぜんぜん別なものになるべきなのだ。

野村の国際部門は94年に大家とテナントの分離政策を始めた。97年からの僕の香港の仕事はそれに逆行しておりグローバルカンパニーになる過渡期だったということなのだろう。もちろん当時そうは思っておらず、与えられた2つの任務の間で試行錯誤を繰り返して悩みぬいた。アジア株を世界に売り込むアクセルの業務はゼロからスタートだったからどうしても強大な馬力が必要だが、それに慣れていない各所で予期せぬブレーキがかかる。結局どうやってもそこに正解はなく、せっかくの風水も万能ではなかった。

個人的にはそんな経験をさせていただいて感謝している。もう世界で2人と現れないはずだ。社内のことはともかく外部には新参者が殴り込みをかけたのだから色んなことがわかった。特に印象に残るのは欧米人のアジア、中国投資への熱い視線だ。まだ中国がWTO開国する前だ。それも友好的な視線ではない。オオカミが羊を狙う目だ。清朝末期、アヘン戦争のころの中国は草刈り場に見えていたのだろうという実感を持った。それに気づいた日本は維新を経て富国強兵に走った。明治の日本と同じ道を現代の中国が歩んでいると考えれば分かりやすい。その先に日本の選んだ戦争という道には決して行ってほしくないが。

今このオオカミの群れに日本人はいない。それを日本の会社が日本人を使ってやることに土台無理があるだろうと思う。そう思って外国人スペシャリストを雇ったが、それでも日本の会社という枠は力不足で外せなかった。もうみずほに移籍していた僕がコメントできることではないが、2008年に野村がリーマンを買う決断に出たのは、結果はともあれこういう試行錯誤を経てのことだったのではないかと複雑な気持ちがある。

グローバルという掛け声は威勢が良くてそこかしこで呪文のように唱えられるが、90%の日本企業でおそらく失敗に終わっている。できたのはほんの一部の製造業だけだ。それも競争力ある製品を海外で作って売るという意味でのグローバルであって、東インド会社の多国間貿易のような「仕組みの商売」はほとんどできていない。そういう仕掛けでやらないと大きな利益の出ない金融、証券では日本企業は全滅である。

こういう経験を経て、もう断言してもいい。日本は世界で最もグローバルでない先進国である。それも政治家、官僚、経営者、国立大学教授、医師など国のリーダーがどうしようもなくローカルだ。魚は頭から腐るというが、腐るわけではないにしろ明治時代からほぼ進化していないのだから腐ったも同然だろう。英語の問題ではなく、マインド、考え方の問題であり、米国でドクターやMBAを取った人ですらあれっと思う人もいるぐらいだ。逆に見ればそれほど日本的マインドは根強いということなのだから、これからの国づくりはむしろそのマインドの長所を前面に立ててグローバル競争した方が勝ち目があるとさえ思う。

そういう中で海外での中国の資源や食糧の買い付け方法やソブリン・ウエルス・ファンドによる株式取得や要人外交先などを見ると、これはもう完全に羊がオオカミになっている。もはや西洋に追いつけではなく、世界のヘゲモニーを米国と争うことに目線が上がっており、科学技術も月面着陸にまで成功している。金持ちになったことも大きいが、トップの思考もグローバルでないとこうはならない。僕は別に中国共産党のリーダー層を礼賛する気などないが、江沢民が上海交通大学、胡錦濤と習近平が清華大学と国家主席が3代続いて理系であるなど、我が国とはエリート像が根本的に異なるような気がする。

(つづく)

 

中国はどこへ行くか(3)

 

 

 

 

Categories:政治に思うこと

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