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中国はどこへ行くか(3)

2013 DEC 20 17:17:29 pm by 東 賢太郎

香港に赴任してすぐのこと、空気のいいスイスから来たせいか上の娘が肺炎になった。ハッピーバレーという競馬場の隣のY病院に緊急入院となり、心配なので三日ほど病院に泊まり込んだ。担当の女医さんはアグネス・チャン似で日本語がペラペラだ。きいてみるとお姉さんだった。名医で助かった。

この病院は競馬場の利益で建てられたそうだ。香港は所得税率が最高15%しかない。相続税、贈与税はない。そのかわり健康保険、失業保険もなく、病気になっても失業しても国はめんどう見ませんよということだ。しかしさすがに病院がないのは困る。だから競馬で負けた人からとるわけだ。一度は一攫千金の夢を見たわけだし、給料からいきなり巻き上げられる税金より納得がいくのではないだろうか。

「香港ジョッキー・クラブ」という競馬場のメンバーになった。なにせ英国流だ。スタンドの上の方にガラスで仕切られたメンバー用貴賓席があり、そこで食事とワインを楽しみながらレースを見る。もちろん静かに賭けながらだ。競馬場の喧騒とは別世界の空間だ。香港は金持ちは思いっきり金持ちあつかいして誰もはばからないし誰も文句を言ったりしない。僕等は接待で小銭をすってY病院に貢献して終わるのが常だったが、文句が出ないのはどうやらそういう理由からではないことが分かってきた。

ある日、夕刊フジのようなタブロイド新聞の一面に若い女性の写真がでかでかと出た。何かと思って読むと、富豪のダンナが死んで巨万の遺産をもらった人だった。ダンナは80ぐらい彼女は20代だ。悪い女だね、そんなの魂胆見え見えだろう、と思うのが日本人だ。記事は彼女をシンデレラガールと称賛してやまない。悪い女?じいさんの方が彼女を選んだんだ。競争相手はわんさといた。それを勝ち抜いたんだから立派じゃないか。まあ、こんなトーンである。

上から下まで延べ棒みたいに金ピカのビルというのは僕は香港島とマンハッタン島でしか見たことがない。東京だったらまともな会社は入居をはばかるだろうというぐらいだ。マンハッタンにはゴールドマンという会社もあるが、香港には大富豪飯店なんてホテルもある。金持ち、大富豪、でっ何が悪いの?という屈託ないノリの命名には、シンデレラ姫の記事と似た精神がうかがえる。こういうところで茶の湯のわびさびやら枯山水をもちだしても難しいだろう。

ビジネスで海外に出るというのは、こういうカルチャーの人たちと競争するということ以外の何物でもない。しかしこういう国が米国だけだった時代はまだよかった。中国がどんどん海外進出してくる今、鉱工業はおろか漁業も農業も酪農でもこういうカルチャーの人がメインプレーヤーになりつつある。新たなカルチャーという黒船の来襲だ。食糧完全自給は不可能な我が国が鎖国を決め込むわけにはいかない。TPPはその踏み絵と理解すべきだろう。黒船はんた~いと叫んでも、来るものは来る。

我が国は大国になった。金持ちだ。成熟国家だ。だからゆとりとおもてなし精神で外国と付き合おう。そんなのんきなことを言っていると遺産狙いのシンデレラ姫の思うつぼだ。東京に金の延べ棒みたいな大富豪大飯店ビルが建つことになるだろう。

 

中国はどこへ行くか(4)

 

 

Categories:政治に思うこと

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