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結果責任とストックオプション

2014 APR 19 0:00:42 am by 東 賢太郎

前回に評価を下げる5つの法則(Five rules to lose your job)を書きました。その中でも最も致命的にだめなのが「逃げる」です。逃げれば結果は出ません。上司が求めるのは結果ですから、できない理由がどんなに立派でも意味はありません。だから、自分が「やる」と言った以上は何があろうが結果を出す責任があるのだと考える人にしか大事な仕事はまかされません。

野村ではお客様から頂いた注文を書く伝票を「ぺロ」と呼んでいました。支店で投資信託などを1か月単位で募集するときに、課長さんに「今日時点の自分の募集見込み金額は**円です」と毎日申告します。これを毎日増やしていきます。課長は全員の申告数字をベースに課の目標をどう達成するか管理します。これはノルマだからショートすることはありえません。万一、誰かの申告数字が虚偽だったり未達成になったりすると課全体の計画が崩れますから全員に怒られます。

この「申告したけどできませんでした」というのを「空(から)ぺロをきる」といいました。これをやってしまうと当時の野村では問答無用で大罰点がつきました。2度もやろうものなら回復不能なほど信用失墜して「あいつはダメ」といわれ、3度やれば左遷という感じでした。課単位で達成率を競争してますから人事部の評価以前に仲間から失格の烙印を押されて二軍落ちしてしまうのです。

この「空ぺロ」=人でなしという恐ろしい掟が今も生きているのかどうか知りませんが、そこで鍛えられた僕はビジネスにおける信用とはそういうものだとたたきこまれました。企業は手形が不渡りになると潰れますが、まさに空ぺロはそれと同じで、野村は企業経営のプレッシャーをいきなり教えてくれたようなものでした。この修羅場を新人時代にくぐり抜けているから僕はサラリーマンを辞めて起業する自信があったと思います。

この掟は野村に限らずビジネスでは非常に大事です。僕はこれを「スナイパー能力」と呼んでいます。ゴルゴ13やジェームズ・ボンドが「すいません、ダメでした」と頭を掻くシーンはないのです。たとえば小保方さんには美点が一つあって、もし彼女が上司にネイチャーへの論文掲載を何らかの理由で期待されていたとすると、彼女はそれをやり遂げてしまいました。やり方はともかく「空ぺロをきらなかった」わけです。やった行為は理由は何であれ僕は絶対認めませんが、ともあれやりきってしまう気質は言いわけを探して逃げる人よりはビジネスマンとしては数段上であります。

ということは「やる」と言うか否かが決断です。できないと思ったら事前にできないとはっきり言うことが大切です。ここで上司との間で「ボタンの掛け違え」があるとお互いが不幸になります。「やる」と宣言するためには準備が必要で、客観的な目でその仕事と自分の能力を見比べることです。どんなに魅力的な仕事でも、自分の力を超えると思うなら断るか、「ここまでならできます」と正直に申告しておくべきでしょう。

できるとやるは同じではありません。できてもやりきれないこともあります。大きな仕事ほど「心のエネルギー」が必要で、それをチャージして始めることが重要です。インセンティブがそれに当たります。ストック・オプションは成果報酬で、成果に比例してチャージされる電力も増えますから有効とされ、多くの日本企業が活用しています。ただしこれには経営側で留意すべき点があります。

97年のダボス会議で僕は当時GEの大経営者として世界的に有名であったジャック・ウエルチ会長のブレックファースト・ミーティングに出ました。そこで彼が力説したのは「組織プレーができる人にインセンティブを与える」ことです。この組織プレーとは日本的な意味と少し違っていて、学ぶ組織(learning organization)というものです。知恵は現場にあるというのが彼の哲学ですが、そこから得た知恵を独り占めして稼ぐスタントプレーヤーには彼はストック・オプションを与えません。知恵を組織で共有して「学ぶ組織」にする者にだけ与えると言ったのです。

これは目から鱗でした。もちろんオプションは役職や年次で一様に与えるものではありません。また、いくら与えても株価が上がらなければ、つまり与えた成果(=業績)が経営者の見込み通りに出なければオプションはただの紙切れになって誰も幸せになりません。したがって、ストックオプションは「業績連動報酬が欲しくない人(現金が欲しい人)」、「与えても業績に影響度の少ない人」に与えるのは効果を最初から放棄するようなもので、「我こそは株価をあげられる」と挙手する者のうち「学ぶ組織」にできる者に集中して与えよ、そうすれば全員が幸せになるとウエルチは説いたのです。

41WWG89Z99L__BO2,204,203,200_PIsitb-sticker-arrow-click,TopRight,35,-76_AA300_SH20_OU09_業績を出す=株価が上がる、ということですから、まずそれを「やる」と宣言する者から真の「スナイパー」を選別しなくてはなりません。そしてその中から組織を大切にしてノウハウを出し惜しみなく共有できる度量のある人をさらに選別します。その人を中心に、官僚主義を排し、「学習する文化」を作れと彼は言いました。当時僕は42歳の若僧でしたがこの考え方にはとても感心し、以来「空ぺロなし」と同じくビジネス成功の基本原理だと信じています。このことは「ウェルチ、GEを最強企業に変えた伝説のCEO」(ロバート・スレーター著、日経BP)に詳しく書かれています。

 

僕はスナイパーしか使わない

 

Categories:______体験録, ______経済書

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