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「知らないおじさんについていっちゃダメよ」は間違った教育である

2014 OCT 13 21:21:39 pm by 東 賢太郎

 

僕は教育論を勉強したわけでもないし文科省の官僚でも教育者でもありません。しかし、昨今の世相を見て標題のように強く思っている者です。海外で16年過ごしたことと以下のような経験をしてきたことからそう考えるに至っております。人様や社会をじっくりと客観的に観察し、自分の責任ある判断でおつきあいできるような大人にすることが大事な教育です。私見ではそれには性善説は百害あって一利ありません。「みんな仲良し」なんて現実社会に存在しない前提で子供を導くなどとんでもないことなのです。

僕の社会人スタートは証券会社でした。まずは支店の営業社員になった僕にとって、お会いした方がお客さんになってくれる人かどうかこそが死活問題でした。そこで、「株を買う人」か「買わない人」かという予測で初対面の方を自分なりに分類してみようということになりました。半年たって買った人、買わなかった人はどういう共通項があったのか、どうしたらそれが初対面で見抜けるかという観察です。人が悪い?そうかもしれませんね、でも会社で生きていくためにはそういう眼がどうしても必要でした。

それは「株が好きかどうか」ということではなく、「資金があって本当に買いたいかどうか」でもありません。すすめられて買う人かどうか、性格としてそうすることもある人かどうかです。その可能性がある方になら僕がアドヴァイスして喜んでいただける余地があります。そうでない方には単なる押し売りになってしまいます。すすめられるといっても詐欺師みたいないかがわしい輩(やから)にではありません。信頼している人に十分な情報で合理的な説明をしてもらい、理解できたうえでどう行動されるかということです。この見立てはなかなか奥深いものを含んでいます。

僕はもうそれを30年もやって、それを5分で見ぬく実戦訓練ができてます。どんな方でも、初めてお会いして言葉さえ通じれば性別、国籍、年齢、職業も関係なしです。もちろんお会いした方をそんな下世話な眼でじろじろ眺めるわけではありません。自分の両親すら父は買わない人、母は買う人と分類してます。職業病です。証券会社なんだから当たり前だろという声が聞こえてきそうですね。ちがいます。証券会社に働く社員のたぶん80%は自分が買わない人ですし、95%は他人のそれを見分けられない人です。

プライベートなお付きあいにそれがどうだこうだということは何らございませんが、ひとつだけそれが役に立つ場面があります。定価のないものを買ったりパワーで結論が決まる交渉をする時です。交渉している相手がどういう人間かがわかると、勝てるとまではいいませんが、まず騙されるということがないのです。ビジネスには必ずブラフ(脅し)の要素がありますが、それは相手の人間性から見抜けることが多いからです。正解はないのですから相手のペースにはまるととんでもない値段で買わされたりします。そういうことは僕には通用しないというぐらいはいえます。

ほんまかいな?と思われるでしょう。

車のセールスは車を買おう、買い換えようと思っている人がお客さんです。すすめる前からそう思っておられる。ところが株や国債というのはどうしても買わなくてはいけないものではありません。家訓で買ったらアカンなんて人もいる。船場の繊維問屋さんに飛び込み営業したら社長に「縁起が悪い、出ていけ!」と怒鳴られて塩をまかれたこともあります。だからそういう困った事態になる前に直感しなくてはならない。「それを話していい人かどうか」という大事なことをです。

それは30年前のモーレツ時代の野村證券で、その中でもとりわけモーレツだった大阪の支店で毎日飛び込み外交で名刺百枚集めという、今となっては伝説以上に信じ難い営業を2年半もやらされて見える類のものです。だから、ほんまかいな?で当然です。こればっかりはやってみないとわからないし説明することも教えることもできません。現在二人の娘は日本と米国の大きな会社に就職して営業に関わる仕事をさせていただいておりますが、大変結構と思います。そうやって自分で苦労させるしかないのです。

自分の体験というのは、失敗であっても腑に落ちます。僕は学生のころ渋谷でポン引きに引っかかって大枚をまきあげられたことがあります。いま思うと騙されるほうが馬鹿なのですが、彼のセールストークは脇が甘い貧乏学生の琴線に触れる職人芸的な水準にあったわけです。お巡りさんの目の前で堂々とやっているのだからその時点では詐欺でも違法でもない。そうかそれも手なのか、あとで交番にいくとこうなるのか、なるほどこうやって泣き寝入りになるのか・・・・。大学の授業より勉強になりました。

ポン引きを承認するわけではありません。しかしモノを売るという商売は商品がちがうというだけで非常に深い根底の部分で共通するものがあるのです。人間は変わることはないですからたぶん太古の昔から、フェニキア人やベニスの商人だってそうしていたはずです。驚かれると思いますが、テレビを見ていて、あれっ、このCMあのポン引きと同じ手口だなんてことがあるのです。交渉術なんて立派なものは知りませんが、そんな勉強はしなくてもやるべき所でやるべき人はやっています。

僕自身は「買う人」の最たる部類です。自分がそうやって株を買っていただいてましたから苦労してすすめられると弱い。証券セールスから見れば一番いいお客さんになるタイプなのです。しかし、ここが難しいのですが、苦労というのは相手の琴線に触れて初めて苦労と見てもらえるのです。それ以外は徒労と呼びます。「お客様の立場になれ」だの「自分を売れ」だのともっともらしいノウハウが語られますが、仮に僕に対してそれをしても徒労に終わるだけです。琴線に触れるには観察力のほうが大事です。

僕は外国人の部下の採用や給与査定は、得意とする「株を買う人かどうか二分法」でやってました。海外の証券業務(ホールセールとかインベストメント・バンキング業務という)では稼げる人材というのは欧米証券大手各社と取り合いになります。スポーツ選手とまったく同じことです。さんざん腹の探り合いをして提示する僕の条件は彼らの期待値から大きく外れたことは一度もありません。そこを読み違えたらぼられるか逃げられるかです。相手はもちろん2倍以上もふっかけてきますが、最後は相手の本音を見抜いている僕が勝つのです。

それができない会社はヘッドハンターというものを使います。彼らは契約金を上げた方が儲かりますから、採用する側から見ると値段を吊り上げるという不純な動機があります。しかも、彼らが紹介するのは自分より年収が多い人であることが多い。僕はそれなら紹介される職に自分がついた方がいいと考えますが、基本的にそうは考えない人がなるのです。従って僕からすれば高収入の得られる真剣勝負をしたことがないか、しても勝ったことのない人だという結論になってしまうのです。そういう人に僕が採用についてのコンサルを頼む意味は皆無です。

株を買うかどうかというのはその人がお金にどのぐらい興味があるかというバロメーターを通じて人となりを観察、洞察することです。たとえば名誉欲がない人はたくさんいるでしょう。しかし出家した行者でもないのに食欲、性欲、物欲、金銭欲がないというなら絶対に嘘です。よほどの資産家はともかくそれでは人間食ってもいけないし子孫も残せません。先祖がそうなら彼は世にいなかったはずで、だから、そうじゃないDNAが遺伝しているはずなのです。こういう「腑に落ちる道理」で物事を判断するというのは、それでも間違うことはありますが、生きる知恵としては非常に大事だと思います。

たとえば選挙の時にどの政治家を選ぶかです。僕の道理では、議員になるような手合いの人間で「私は株はやってません、清廉です」などと自慢するのは100%大嘘つきと断じて構いません。株を買わないことが清廉だなどということ自体馬鹿ですが、大嘘を堂々と公言しているという事実が判断材料です。1つ人前で嘘をつく人間は10も20もついているというのは人類の法則でもありゴキブリの法則でもある。従ってこういう人には絶対に投票してはいけません。お金にきれいな人は、当たり前のことなのでいちいちそれを宣伝などしません。そういう人は、だいたいにおいてではありますが、大丈夫というのが僕の判断です。

あなたは人が悪い?そうかもしれません。でも「みんなよい子」「みんな仲良くおんなじ」なんてとんでもない、そんな教育をしているのは日本だけでありやめるべきだと言っているのは僕だけではない。先だってTVで小説家の曽野綾子さんも言われてました。まったくその通りです。子供には現実を、そして「腑に落ちる道理」を教えてあげるべきです。世界はすべて「他人を見たら泥棒と思え」が常識です。それが良いか悪いか、好きか嫌いか、日本人としてはいかがなものかなんて独りよがりを言ってはこれからの子供は世界で生きていけません。

「知らないおじさんについていっちゃダメよ」じゃないんです。知ってるおじさんでもおばさんでもダメ、他人はみんなオオカミなんです。有名な童話の「赤ずきん」はもともと1697年にフランスで出版されたペロー童話集にあり、おばあさんも赤ずきんちゃんも狼に食べられて終わりです。親が言いにくいことはちゃんと童話が教えてくれています。ところがそれはなんでも口あたりが悪いということでしょうかグリム童話ではストーリーを換えて漁師がオオカミを打ち殺しておなかから二人を救い出したことにしました。現実社会には漁師はいないよ、ハッピーエンドとは限らないよということも教えてあげるべきではないでしょうか。

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Categories:______世相に思う, 徒然に, 若者に教えたいこと

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