世界のうまいもの(その10)-兄夫食堂のソルロンタン-
2017 APR 29 13:13:47 pm by 東 賢太郎

昨日たまたま昼前に赤坂でひとりになって、普段は必要ないスーツを2日も着ることになって肩がこってしまった。僕の業界はカジュアルなんでネクタイなんか年に何回かなというほどです。サカスの近くに兄夫食堂という知る人ぞ知るコリアンのB級名店があるんですが、これしかないなということでふらっと足が向きます。疲れをとるには最高なんです。
ここ、ランチは安くて7~800円でいけますが食べたことないのでお味は知りません。何度も行ってるのにどうしてってことですが、ソルロンタンしか頼んだことないのです。昼でも1650円だから店員さんが申しわけなさそうにしますが、いいから作って、それと生ビールねってことになるんです毎度毎度。
香港時代に全アジア担当だったので証券市場のあった国はくまなく行きました。食事もそれなりのをいただいたわけですが、広東、上海、コリアンが結論として僕のランキングで3大美食でありました。これは日本だと「中華」「焼肉」ってウルトラ・アバウトなことになってしまうのですが、それってフレンチもイタリアンもハンバーガーも「洋食」ってのといっしょです。
中華は中国がそうくくるんで料理だってそう思い込んでしまいがちですが、明らかな多民族国家ですからその数だけ味覚があります。上海育ちの神山先生が貴州料理は初めてだったなんて具合で、そんなのは驚かないわけで、では上海料理って何ですかというと、僕は会社特権で香港の江蘇省・浙江省同郷會に特別入れてもらってそこで覚えた味こそがそれとしか書けないのであって、しかもその両者も互いに微妙に違うのです。
そういうものを舌の奥底で実感してしまうと、モンゴル人や女真族がやった時代も中国なんだから台湾はもちろん琉球も朝鮮半島も日本列島も中国でしょというノリの源泉はわかってくるんで恐ろしい。『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』 (ケント・ギルバート著)は面白い本でそれを儒教の悪しき側面と明快に書いていてなるほどと思わせますが、宗教だ教育だ以前に食という本能に根差した部分にすでにそれは歴然とあります。
焼肉がコリアンフードというのも決して間違いではないが、ひと昔まえの田舎のアメリカ人が、日本人は家で毎日鉄板焼きやって奥さんはエビのしっぽ飛ばしがうまいと思ってた、ロッキー青木は日本人だよねといわれて違うともいえないんでうなづく程度のもんです。ソウルで饗応されると焼肉は出てこないし我々がバーベキューと呼んでるものの感じにむしろ近い。食べたいと言わないと食べられないし、日本式をイメージすると違う。僕の分類基準だともう別の食膳です。
雪濃湯(ソルロンタン)は辛くない乳白色の牛骨スープで骨や各部位の肉、舌、内臓を大きな鍋に入れて水で10時間以上煮立てるので家庭では調理が難しいようです。日本人の感覚だとそういうものは値が高いのですがまったくの大衆食であり、香港の食文化を観察して思ったのと同じことですが韓国も外食の方が安くて早くてうまいということがある。日本でのマックやファミレスという固有の市場は日本にはなかった隙間にできたことがよくわかります。
ソウルは何十回出張したか見当もつかないですが、ソルロンタンに関する限り兄夫食堂は僕が経験した限りソウルのどこよりうまいというのは、そこまでご説明すれば実は大変なことだというのがご理解いただけるでしょうか。
赤坂っていうとコリアタウンのイメージになって久しいですが、クオリティにおいて横浜の中華街といい勝負でしょう。寂しいなんて人もいるが僕は利便性を評価しますね、住むわけもでないし、まずい日本飯屋ばっかり並ぶよりずっと有難いでしょう。モンゴルだらけの大相撲もそうですが競争こそ成功の母ですね。並みいる競合店をさしおいて評判をとってる店のレベルは非常に高いのです。
かたや和食ですが、バブル時代の証券会社の使いっぷりは半端じゃなくて赤坂、紀尾井町界隈の高級料亭は接待の名所でした。競争なし。おばあちゃんの芸者が出てきて料理もたいしたことなくて、そんなので百万も取るんだから世も末だと思ってたら軒並みつぶれちゃった。皇居の地価がカリフォルニア州より高いなんていってた時代です。そういう勘違いの値段をバブルというのですね。
兄夫食堂は儲かってるんだろうけど値上げはなく、店もお世辞にもきれいじゃなくてB、C級のまま。地に足がついてますね、それで競争に勝てるっていう自信といい意味でのこだわりを感じる。商売はそれが王道と思います。投資をするんであればこういう会社を選ぶことです。殿様の見栄みたいな米国進出でアメリカ人に騙されてボロ会社を高値掴みするのとは対極的、プロの経営です。
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