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キャリアの集大成期がやって来た

2021 MAR 18 10:10:32 am by 東 賢太郎

先週金曜のディナーからのことで眠れない。仕事の大きな進展であったのだが、にわかには咀嚼し難く心中は動転した。間違いなく千年待っても2度とない機会で断るという選択肢はない。いよいよこんなものに取り組む時がきたのかと打ち震え、そこからいつ寝たのか、寝た心地もないのでわからない。

昨日はその打ち合わせが午後まであって、どっぷりと疲れてしまった。忍耐力も集中力も落ちたものだ。天気も良いしぶらっと多摩川に散歩に出ることにした。家にいると精神がもたついて、いい発想が出ない。どこへ行くあてもないそぞろ歩きだったが、気がつくと多摩川台公園に足が向いていた。

川沿いの遊歩道は人気の桜並木だ。開花はまだだが、うららかな陽気と春風が肌に柔らかく心地が良い。この感覚、はっきりとしたデジャヴがあった。昭和50年3月20日、大学の合格発表のあと、嬉しいということもなくこんな空気の中を漫然と歩いていたのを肌が覚えている。あれはいったいどこだったんだろう?

公園の川べりに露天の駐車場があり、その先に石のベンチが3列に並んでいる。傍らを進んで見ると一番後ろに若者が前かがみに腰かけていて、足元に犬がいるように見えた。あれ息子かなと思ったがそうではなく、犬はいなかった。視界を邪魔しちゃ悪いなと思い、川寄りのベンチのはしっこに座ることにした。

ここから見る景色はおなじみだ。10年まえ、仕事がまったく取れず、通帳の預金残高がみるみる減っていった。鬱々としながらあちこち電話をしたのがこの場所であり、焦り、恐怖とセットの心ざわめく情景である。先日来の案件を巨象とするなら、あのころ必死に追っかけていたのは蟻んこみたいなものだったが。

その景色の川向こうは川崎市で日ハムの球場があった。武蔵小杉のタワマンがにょきにょきと聳えており、東急東横線のその先が日吉だ。多摩川は大雨による増水で下水が逆流したり大事になったが、その対策なんだろうか、対岸は護岸工事をやってフォークリフトが4台も土手を掘ってはダンプが土を運びこんでいた。

ふと振り返ると、若者の姿がない。あれっと思った。ほんの数分のことだ、立ち去る音もしなかったしおかしいなと三方を見渡したが影も形もない。

実はここは保守派の評論家、西部邁氏が2018年に入水自殺した場所である。例の増水で地形はやや変わってしまったがロープをひっかけた樹はかろうじて残っている。その5年前には、左手に見える丸子橋からウクレレ漫談の牧伸二氏が飛び込んで入水している。そういう所でもある。

右手に歩くと旧巨人軍多摩川グラウンドで大学生が打撃練習をしていた。しばし外野手の後ろから打球を目で追っていたが、視力は1.2あるはずなのにあがったフライが全く見えないことに気がついた。そうか、それで若者も見えなかったんだろう。あたりはカラスがたくさんいて、忍び足で寄るとぱっと散った。

V9時代の巨人軍選手が立ち寄ったことで有名な小池商店は開いていた。家内がズボンのポケットに800円入れてくれていたのでおでんかラーメンでもと思ったが、前に立つと気が進まずやめた。何をしようと、ちっとも気が乗らない。やっぱり、頭はそれでいっぱいなのだ。

知る者は誰もそう思っていないだろうが、僕は仕事においてジェネラリストでなく、限りなく細かくて微細なミスも見逃さないウルトラ専門職である。それをやりこなすイメージぐらいはできているのは、他人には説明し難いが、純粋に技術的な観点に照らしてのことだ。

それが何の役に立つんだと長らく自問して答えが見つからずにきたが、そうか、これをやるための40年の道のりだったのだ。この案件は僕にしかできないだろうし、信頼には報いたい。これが我がキャリアの記念すべき集大成になり、人生も会社も様変わりになり、後になって語り草になる1年がやってくるだろう。

そこから先は先週お会いした斯界の先達のご進言どおりだ。どんどん増えている子供ぐらいの年齢の新しい仲間たちを見守り、仕事をバックアップしながら後進として育てることに専念しよう。みずがめ座と九紫火星の占いは当たってたんだなあと思う。

 

 

Categories:ソナーの仕事について, 若者に教えたいこと

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