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日本人の9割は反知性主義である

2022 JAN 24 14:14:24 pm by 東 賢太郎

2022年1月11日の

日本は「反知性主義」によって戦争に負けた

にいただいたコメントへのコメントをそのまま載せておく。

 

はじめまして。示唆に富んだコメントをありがとうございます。楽しく拝読いたしました。異論は大歓迎です。それでアウフヘーベンできますし、お互いに高められるのがいいですね。以下本稿の趣旨をご指摘の点へのコメントも含めてまとめておきます。

まず、日本語が繊細な人間の情感や行間からたちのぼる奥深い文学的表現において優位にある言語である点はまったく異論がございません。そうした語彙が豊かですし、余白の美なる概念は文学にもあって和歌や俳句では切り詰めた字数でこそ表せる広大な宇宙があることも感じてきております。それを情報密度の尺度で計って希薄と断じても無意味であり、見えない価値でもあり、日本語を母国語とする我々だけが手にする大きな果実ですね。

一方、本稿での関心事は美学ではなく、インテリジェンスです(定義は「他者の行動を喚起する情報」)。投票してもらう、商品を買ってもらうにはそれが必要で、その手段としてスピーチがあります。本稿での「スピーチ」(プレゼンでも結構)はそのようなものと定義し、したがって、インテリジェンスの無いスピーチは用を成しません。そこでリヨン大学による「スピーチの情報密度」というデータを引用し、スピーチの構成要素である情報、構成、速度、好感度などがどうインテリジェンス形成に関与しているかを分析します。「情報」を要素A、「その他」(補集合)を要素Bとします。説得に成功したスピーチのA、Bの比率は国民性、TPOに依存します(ここは東仮説です)。その分析のツールとしてINSEADのデータを引用しています。

まずTPOを以下のケースが代表する3つのパターンに分類します(スピーチは文書による情報伝達を含む)。

①【戦場からの報告】
A : B = 100 : 0です。カエサルは「来た、見た、勝った」と書き、秋山は(要約すれば)「聞いた」「行く」「試みる」「有利」と書いた。どちらもインテリジェンスとしてワークした(史実)ので成功。

②【X候補の政見放送】
内容空疎だがイケメンで好感度抜群。Xの当選確率はINSEADデータから国によって分散すると考えられ、 個々の国においてもインテリジェンスを生む最適なAB比は不明。

③【長嶋茂雄の引退スピーチ】
引退発表後に行われたので情報価値はなく、A : B = 0 : 100。 好感度がインテリジェンスとしてワークして「巨人軍は不滅」を売り込み、読売新聞、巨人軍の収入を増やしたので成功(②の特殊ケースであることに留意)。

①③が両極端で、その中間でほとんどのケースが属するのが②です。よって、長嶋になる自信のある人を除けば、②であって「Aが成否を決する」と考えるのが合理的ということになります。カエサルのケースではA を表記するのが何語であれ、語数3(Veni、vidi、vici)を最小値とした「言語」でしか伝達できません。また発信者、受信者ともに言語は脳内で処理されてAを形成し、そのプロセスを執り行うプラットホーム自体が言語によって作動します(「思考回路」と呼ぶ)。

脳内処理はcoding(符号化)で速度、正確度が増します(例・「この値をkと置く」など数学のロジック展開そのもの)。原理・理屈を忌避し(「反知性主義」と呼ぶ)、階層、合意、人間関係を重視する人が多い日本(INSEAD参照)では抽象概念は福沢諭吉らによる造語として初めてお目見えし、定着しました(経済、国家、民主主義等)。しかし、元々の概念がないわけですからcodeとしての機能は高くなく、「民主主義」と聞いた時の日本人の脳の反応速度と「デモクラシー」と聞いた時のフランス人のそれは国民平均値をとれば同じではないでしょう。また数学、物理、哲学の概念定義や論理展開は英独仏語で多少の差異はあっても(ご指摘の堅牢性など)、概念が明治時代まで存在しなかった日本語より優位にある(ノーベル賞学者ではなく一般の学生がそれを学びやすい言語である)ことは否定できないでしょう。したがって、一定時間内のスピーチの情報密度が日本語において低い理由はリヨン大学がサンプルにしたスピーチが抽象概念を多く扱うためであるかもしれず、秋山の戦場報告が(実際は暗号とチャンポンの電文ですが)簡素ながら効率的であるとの内藤様のご指摘は正鵠を得ております(対象が具象のみの場合の差は縮小する可能性はそこでは検証されていません)。但し、政治、ビジネスに限れば具象の比率は低減します。

したがって日本では選挙においてAばかり訴えても有権者の心には響かず、当選確率は上がらず(だからBで勝負する③型のタレント、キャスター候補を出す)、商品の機能的情報(スペック)が優秀でもそれだけでは物は売れません。反知性主義という思考回路の人たちのエンパイアにおいてはロジックを解いて答えが有意に導かれてもその価値をアプリシエートもシェアもされないからです。それよりCMでイケメンに売りたい商品名を3回連呼させた方がいいのです。そこで、それを奇貨として、声の大きい人、大きな力が後ろにある人が説明もせずに合理的な解を捻じ曲げることができ、そもそも議論しない反知性主義者はそれに反論もしません(「空気」の醸成)。彼らは空気で動きますが、知性がない人ばかりではありません。超高学歴で博識であっても、それを応用して物事の判断に活かせない人を僕はたくさん知っています。言語はその民族の脳が千年以上もかけて造ったものですから文化と一体です。Aを多くの抽象語彙(借り物で定義も理解もアバウト。例・シュミレーション)で構築することも、それを聞いて心から納得して行動に移すことも、ともに不如意である人が日本人には識字率の高さに比して非常に多く、自身に全く自覚はなくても理屈や議論を避けるという反知性主義的な行動をしている場合が多いのです。

知性ある人でもそう行動してしまう土壌は、Bが大きくものをいう場面があることで潜在意識の内に培養されています。長嶋茂雄の「永遠です」やキャンディーズの「普通の女の子」はたった一個の情報なのですが、それで読売新聞やレコードが売れたので立派なインテリジェンスだったことになります。これが日本の特異性です。伝達効率が低いのは言葉でくどくど伝達する必要性が欧米、中国より低い(むしろ嫌う)文化だったからであり、いらないものには名前をつけないので抽象語彙は少なく、必然的にそれを駆使する思考回路もできません。その代わり一個のイメージでおおまかではあるが情報は広く流布して国民的に容易に共感される利点があります。語数は節約してコンテンツが伝わることもあります。しかしこれは諸刃の剣で、議論はされずに空気でモノが決まってしまう。反知性主義は議論も反論も嫌いますから目の粗い思考回路から出てきた情報は画素数の少ない写真と同じで情報の密度が低く、ライオンを猫と見まがうようなとんでもない結論に飛んでしまうリスクがあります(これが先の戦争です)。ですからこの節約を「効率」というのは間違いです。

非常に需要な事ですが、我々はその母国語で思考しますから、ない要素は意識にものぼらない(紫外線、赤外線のように網膜に映らない)ということです。だから聴衆が日本人か欧米人かで僕はプレゼンの仕方を変えています。表面的には日本語か英語かなのですが、それだけではなく、ロックか演歌かの違いです。伝わらないと売れませんから当然のことです。海外から16年日本を観察しましたが、日本人の9割は反知性主義です(知性主義の補集合として)。これは明治時代からそうであり、教育の方法論を根底から変えない限り百年たっても変わらないでしょう(その一例が大学の文系入試は数学不要という意味不明の伝統で、反知性主義の代表例である毛沢東の文化大革命と変わりません)。9割の国民が選ぶ政治家も9割は「長嶋茂雄よりはるかに劣る③型」になり、秋山真之中佐のような①型議員はいても1割だからバカの大群に押し切られてしまいます。大本営のエリートも、いい大学や士官学校へ行って勉強はできたが思考回路は演歌型だったと僕は考えています。それで本稿のタイトルになりました。内藤様には釈迦に説法と存じますが、人間は教育が何より大事です。一説では回路は18才までに完成し、そこから変えるのは一から学ぶより困難だそうです。そう長くない先に暇になりますから、18才未満の子に自分の経験を伝える場があれば素敵だなあと思います。

 

先見思考なき大学も企業も潰れる時代になる

 

 

 

 

 

 

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Categories:______気づき, 若者に教えたいこと

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