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カテゴリー: ______広島カープ

北別府投手、たくさんの勝利をありがとう!

2023 JUN 17 22:22:40 pm by 東 賢太郎

きのう家内から訃報を聞いて愕然とした。3学年下の65才だ。病気とは聞いていたがなんぼなんでも早すぎるだろ。まだ北別府ロスから立ち直れておらず、きのうの西武戦は床田に何が何でも完封して弔ってくれと念じていた。そして床田はそれをやった。よくやった。今日は危なかったが、背番号20を継いだ栗林が、そしてクローザーの矢崎が気迫の投球で押さえ込んで勝った。よくやった。

北別府の雄姿をTVで見られたのは入団2年目の1977年から20勝して沢村賞を取った1982年の夏までと、1990年から1992年夏までだ。あとは海外にいたから映像は見ていない。それでも毎朝、新聞で真っ先に見るのはカープの試合結果である。スマホもヤフーニュースもないからそれが最新情報で、株式欄なんてどうでもいい、どのページより先にスポーツ欄を開くワクワク感たるや半端でなかった。北別府は213勝141敗と72も勝ちこしているのだから、異国の地で朝っぱらから何度も勝利の美酒に酔わせてくれ、気持ちよく仕事をスタートさせてくれた。つまり僕が仕事で勝ち抜けた恩人である。

そういうわけだから彼をグラウンドで観たのはたった一度しかない。よってどうしてもその時の話になってしまうがこういうことだ。

あれは1990年から1992年のどこか、神宮球場の3塁側ベンチ上の席からだった。どういうわけかゲームについてはさっぱり記憶がなく、ゲーム前の北別府のキャッチボールが目に焼きついたのだ。捕手とは10mぐらいの立ち投げで、単なる肩慣らしだ。ところがである。腰を入れてフルに体重移動して、ということは1.5mぐらい体を前に持っていくわけだが、足が長く股関節が柔らかいのだろうそれが2m近いかと思われるぐらい前に行くわけである。ただ、足を開くだけなら他にもいくらもいる。びっくりしたのは、それに加えて球離れの位置がとても遅く、イメージ、顔の1m先までキープしてから軽く放っていたことである。そういう大きな動きは流れの中でないとうまくできないが、彼はスローモーションで投球システム全体のバランスを微細にチェックするシミュレーションとして行っていたのだ。何という完全主義!

投手をやった人はわかると思うが、それだと外角低めに伸びのいい速球がびしっと決まるイメージしか持てないと思う。それが投げられて初めてピッチャーをやらせてもらえるわけで、勝手にそれが投げられてしまうそういうフォームが彼の基本形になっているのだ。ワインドアップするがテークバックは浅くてあまり力感がなくセットポジションのように軽く脱力して見え、しかし、左足に体重が乗ってからトップでの力のタメが真骨頂で、それが指先に伝わったリリースの一瞬で爆発する。この印象がものすごくて、彼のビデオを百回見ればああいう感じで投げられるかもしれない、そうしておれば肩を壊さずに済んだかもといつも思ってしまうのである。もう遅かった。それが悔しくて、だからあのキャッチボールが今もビデオのように心の中でリアルに再生できてしまうのである。

上の写真。これは体重移動しきって胸を張った瞬間(トップ)だが、身長181cmで手足が長いのに開脚が広いので低く沈みこんで見える。この瞬間を横から見たのが下の写真で、体だけ前に来てボールは置いてきているので顔の後ろにあり、ヒジとボールが水平に近い。僕は経験的に、トップでそうなると速球が伸びることを知った。しかし、北別府のこの肩と肩甲骨の柔らかさは異例で、僕は頑張ってもまだ垂直に近くこんな平らにはとてもならない。この角度のまま我慢して体を追い越して1mぐらい先までもって行って限界で指さきでスピンをかけて押し出すようにリリースする。ご覧のように腕、肩、胸、右足の描く弧が美しく、頭は動かず、無駄な力がどこにもない。だからコントロールに狂いが出ない。これは神業なのだ。先の計算だと、ちょっと大袈裟かもしれないが、リリースポイントはプレートより3mほど手前になり、18.44mではなく15.44mからボールが出てくる感じになるからソフトボールの距離(14.02m)に近く、打者は140kmでも差し込まれただろうし変化球も曲がりが遅くなって対応に手を焼いただろう。「球が速い」というのは打者の体感であり、体感はそういう要素で決まる。差し込まれるとは目測より球が早く手元に来てしまうことであり、それが起こるとスピードガン表示が何キロだろうが打者は速いと感じるはずだ。これは打席にいる者しかわからないから150kmが速いか速くないか130kmが遅いか遅くないか数字だけをあげつらって議論しても意味がない(だから伊良部の150kmより星野伸之の130kmの方が速かったという選手が現れる)。北別府は制球力ばかりが語られるが、140km半ばは出ていたと思われるから振り遅れるほど伸びる速球のキレ、球威がまず一級品だったのであって、あまりに神懸かった制球の良さの陰に快速球投手のクレジットが隠れてしまったように思う。僕を神宮でびっくりさせたのは、下の写真の足腰の「形」をきっちり作って 10mの距離で軽く投げていたキャッチボールだったが、それが彼の一級品のボールの秘密であり、213勝へのルーティーンだったのだろう。

彼は集中力で勝負する人だったようで1球へのこだわりがすごくて近寄りがたい雰囲気があり、達川はいい音を出して捕らないのでキャンプでは受けさせてもらえなかったそうだ(達川が1才年上)。「ゴルフは75~80ぐらいで常にコースマネジメントを考えながらプレーをする。まるでプロだ。だから、北別府さんと回ると昼食時以外で会話がない」と後輩の川端投手が言っているが、僕もゴルフ仲間からまったく同じことを言われており(本当にラウンド中に一言も口をきかなかったらしい)スコアも同じぐらいで、たかがゴルフとはいえ遊びではなくなってしまうところはああ同じタイプの性格だったんだなと感無量で誇らしくさえ思う。以上、僕のようなへっぽこ投手が彼の野球についてああだこうだ言う筋合いなどまったくないが、見てしまった理想の技術への感動というものは消し難く、不遜にもそういう話になってしまったことをお許しいただきたい。

北別府と衣笠(1986年6月、広島市民球場)

いち野球ファンとして北別府のフォームほど美しいアスリート姿と思うものはなく、キャッチボールひとつで魅了された野球選手は他に誰もいない。デカいだけとかマッチョマンとか、ぐしゃぐしゃの汚いフォームでエイや!とか叫んで160km出すだけが能なんて投手は興味ない。優劣ではなく美学が合わない。無駄のない完成されたギリシャ彫刻のような美しさ。手元で伸びるストレート。内外に揺さぶって手を出させぬ制球力。タイミングをずらして腰砕けにする緩急。この三つを駆使して打者を攻めまくれる者こそ本物の投手と思うのであって、北別府こそまさにそれだったからこそあの江川卓がライバル視した数少ない投手だったのだろう(江川氏ご本人が自身のyoutubeチャンネル「たかされ」で対戦相手の投手として最も嫌だったNo.1に挙げている)。1982年に両者は沢村賞をめぐって熾烈な戦いを演じ、勝ち星(江川19勝、北別府20勝)、勝率(江川.613、北別府.714)、登板数(江川31、北別府36)、投球回数(江川263回1/3、北別府267回1/3)は北別府が上だったが、防御率(江川2.36、北別府2.43)、奪三振(江川196、北別府184)、完投数(江川24、北別府19)は江川が上だった。結果は北別府が選ばれ、江川は沢村賞を獲得できないまま現役生活を終えることになる。元巨人の角 盈男氏が歴代最高の投手は江川と言っておられたが、その江川に勝った北別府がいかに凄いピッチャーだったかは永遠に語り継がれるだろう。

北別府さん、長く苦しい闘病生活と聞きとても心苦しく思っておりました、ほんとうにお疲れ様でした。今は解放されて自由になられたことでしょう、ゆっくりお休みください。たくさんの素晴らしい勝利と歓喜をほんとうにありがとうございます、雄姿は決して忘れません。ご冥福をお祈りいたします。

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カープがホークス戦4年ぶりに辛勝!

2023 JUN 3 19:19:13 pm by 東 賢太郎

広島4-2ソフトバンク

いや危なかった。先発森下が7回2安打零点でやれやれ今日は楽勝かと思った。8回に出てきた救援ターリーは長身の左腕で150キロ半ばがでる。プロでもあんまりいないし大丈夫だろう。ところがだ。エラー、ヒット、ヒットであっさりと1死満塁にされる。ホークス打線恐るべし。迎えるは柳田、栗原だ。血圧があがる。ここはなんとか左飛2本で抑えて零点だ。

そして9回である。クローザー栗林が不在のあいだ抑えを任されてる矢崎の登場だ。数年前、新人で初先発のヤクルト戦。直球とフォークだけで9回までノーノー。あわやだった剛腕投手だ。今年は悪くない。前回登板のヤクルト戦は3者三振だった。まあ6番からの下位打線だし大丈夫だろう。

ところがだ。ぜんぜんストライクが入らない。3ボールから苦し紛れの球をヒット、ヒット、四球で無死満塁になってしまったではないか!

おい、矢崎、どうしたんだ?

またヒット。ついに1点とられる。4対1でまだ無死満塁、ここで1番・中村という最高に嫌な打者を迎えてしまう。

新井監督登場、「ピッチャー島内」のコール。そうか栗林はまだ使えないんだな、まあ島内もチェンジアップ覚えてちょっとは安定感出たし。しかし急遽登板となった島内もガチガチなんだろう、ストレートがみんな浮いてしまう。中村にセンター犠飛でもう1点を与えてしまうが、ああフライで良かったとしか思えない。4対2で1死1,2塁が残った。そして打席に2番・牧原である。

ホークスの打線は次から次から打ちそうなのが出てきて物凄い「圧」である。

やられた!牧原に1,2塁感を抜かれた。相手にビビり感がまったくない。ここが勝ち慣れしてるホークスだ。またまた1死満塁の大ピンチ。しかも、迎えるはWBCで打ちまくった3番・近藤健介である。心臓に悪い。なんとかストレートで左飛に打ち取る。いいぞ、球威はあるんだ。2死満塁。

そして、打席は4番・柳田である。

中島さんとペイペイドームで観たドでかいあのサヨナラ満塁ホームランが頭をよぎる。6対4で逆転負けか?島内のタマは速いがどこに行くかわからない。チェンジアップはぜんぜん無理だろう。150kmごえのストレートで押すしかない。打った。ショートフライ。試合終了。やれやれ。

何という恐ろしい打線だろう。

そういえば去年も3連敗だし、だいぶ前に広島市民球場の最前列で観せてもらったホークス戦も苦も無くひねられたし、カープがホークスに勝ったのを見た記憶がない。

終わってみてつくづく思う。この打線に7回投げて甲斐の2安打だけに抑えた森下くん。甲斐がいなきゃノーノ―か。君は宇宙人ぐらい次元が違うスーパー・アスリートである。まず凄いのはひじの手術の後遺症をぜんぜん感じさせない。そして、去年はたしかホークスに5、6回あたりで9点取られて撃沈されてるのにまったく苦手意識が残ってない。それどころかこの打線を攻めまくって飲んで投げてる。ピッチャーとしてこんなにカッコいい男はそうはいない。

投げるだけでない。今日の君の野手より俊敏なバント処理(素晴らしい)。二度とできないぐらい絶妙なセーフティ・スクイズの1点(実に素晴らしい)。前を打ってる8番・曽根が初安打が欲しいと頑張って4タコなのに君はあっさり2安打しちゃう(強烈に素晴らしい、曽根頑張れよ)。大分商高の同期だったホークス川瀬から「三振取りたい」と狙い、言葉通り取ったスナイパーぶり(勝敗に関係ないのに素晴らしすぎる、これぞピッチャー性格)。そうかその打線で川瀬は1番、君は3番だったんだ。そりゃ打つわな。明大の主将までやったんだ、性根も座ってる。矢崎くん、島内くん、凄い球もってるんだからあとはメンタルだけだ。森下の爪の垢でも煎じて飲んだらいい。

この日投げたカープの投手4人。ターリー、矢崎、島内は150キロ越えの、まあ球界でも上位の剛速球がある。森下はそこまではない、というか、出るけど先発なんで投げない。でも速球は伸びがあり(伸びる球は変化球だ)、制球、緩急、変化の大小・奥行きのバリエーションで打者を自分の術にかけられる。

森下をオーナーに直訴して1位指名したのは佐々岡だ。さすがの眼力である。佐々木朗希、奥川も候補だったが正解だった。それに合わせたんだろう、彼の今日の初解説は訥々として味があってよかった。カープに大貢献である。

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サイヤング賞投手をカープが撃沈

2023 MAY 17 2:02:40 am by 東 賢太郎

DeNAの先発は鳴り物入りでやってきたバウアー。「海を越えて 僕らのためにやってきた~」って巨人の外人応援歌があるが、君らのためじゃない、お金のためにやってきたんだ。バウアーはメジャーもメジャー、3年前にドジャースと3年1億200万ドル(約137億円)の契約を結び、ダルビッシュと競ってサイヤング賞をとった超大物投手だ。

これに広島打線が初回いきなり襲いかかってボコボコにした。野間、秋山、マクブルームが3者連続2塁打、西川が快心のライナーで右翼中段に2ランをぶちこむと坂倉もヒットで5者連続のつるべ打ち。しかも高め157キロも変化球も軽々と芯でとらえており、投手目線の僕はカープ打線に本能的に恐怖を覚えた。2回で7得点KO。あっという間の粉砕、撃沈だ。酒がうまい。

おりゃおりゃピッチピッチ、おめえは通用しねえんだ、ケツまくってクニ帰れや。日本の野球なめんでねえぞ。大谷さん見てみい!

酔っ払ってテレビに向かって大声でがなっていた。こんな壮絶なものを見せられると興奮してしまい、居間が昔の野球部のベンチ(勝ってる時の)に戻ってる。負けてるとこっちもこれを浴びせられるからおあいこなんだが、三つ子の魂が体に染みついてる。そういやあスタンドだって、川崎球場のパリーグのガラ悪さもすごかったよ、新聞はいつも5千人だが2千人もいなくってね。広島市民球場もベンチの上まで進出して野次かましまくる名物のおっさんがいたし、神宮も通路をつかつか降りてきて敵軍の選手に話しかけて攪乱する知能派のカープおやじがいた。

いまや何たらガールズとかキツネダンスとか平和だ。敵軍巨人のヴィーナスはファンであるが、野球がアミューズメントパークの余興になってくのは悲しい。選手だって塁に出ると野手とへらへら談笑してる。今晩焼肉どうだなんて言ってるんじゃねえだろうな、そんなんだったらぶっ飛ばすぞ。乱闘なんて死語になってるがメジャーはやってる。基本がなあなあだと迫真のプレーなんて出ないしね、そんなユルイ空気だから腑抜けの政治家選んじまって国もなめられまくって、丸ごとどっかの属国になるのよ。星野さん、「ノックアウトされてベンチに戻って来るピッチャーなんか拍手しないでください」とファンに苦言を弄してた。立派だ、まったくの正論だ。そしたら楽天は俄然強くなって優勝した。打たれた奴にお疲れさんなんて、馬鹿も休み休みしろ、そんなことしたら若い奴は反省しない、てめえケツまくって二軍いけでいい。そういやあ先日逆転サヨナラ負け食らって僕がボロカスに書いたカープの松本くん、やっぱ登録抹消になっちまったね、でもね誰が見てもそれ当然なんよ。

昭和ですねなんて言われそうだが、そうではなくこれは遺伝だと思う。4人の祖父母で顔が似てるのは九州の婆ちゃんだ。グラバー邸の隣りの旅館の娘で小学校まで存命だったが、普通のお婆ちゃんらしい感じでなくものすごく腹が座ってて着物姿が凛としてちょっとこわかった。ミリタリーな家だから僕はその気質を引いているかもしれない。野球は刺すとか殺すとか物騒だが、内角をエグってのけぞらせてバットをへし折るのが好きだったし。

へなちょこな隷属政治の憂さを野球で晴らすのも空しい。

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広島・巨人戦を堪能した日曜日の午後

2023 MAY 2 0:00:32 am by 東 賢太郎

久々の東京ドームだった。3塁側バルコニー席は初めてだ。1,2階席の中間にあって、食事・ドリンク付きでくつろげる。全体的にスペースの余裕があって同じ球場と思えぬほど雑踏感と無縁。4席ごとに通路があり出入りは楽なうえ椅子もクッション付きであり、座席は傾斜があるので前の人の頭で見にくいことが一切ない。眺望は好き好きだがこれだけ全貌を一望できるのは新鮮であり、プレミアム感があった。

肝心の試合は11-4でカープが大勝。自分ではこういうスコアで勝ったことはあっても負けたことはない。巨人は先日も阪神に0-15の歴史的大敗を喫しており、選手はどんな気持ちになるんだろうと敵方ではあるが些か心配になる。そこまで気持ちよく負けというのはやろうと思ってもできるものではない。少々ではへこまない強靭な精神力を涵養するメリットはあったろう。とにかくカープファンとしてハレの日を堪能させていただいたことに感謝感激であり、誘ってくださった柏崎さんには「いやあ今日で良かった、持ってますね」と申し上げた(前日は中田に衝撃の逆転サヨナラホームランを打たれて屈辱の惨敗)。

いつもバッテリーばかり見ていたが、ここからだと内外野の守備位置や連携が手に取るようにわかる。プロは後ろ目に守るがこんなに後ろなのか、場面ごとにこんなに変えるのかと勉強になった。最高だったのは、人生3本目の上本がレフトポール際(あそこしか入らんだろう)、秋山がバックスクリーン左まで飛ばし(意外にパワーがある)、ライトに流して入れたマクブルーム(そこに打てれば30本はいける)、控え捕手の磯村がレフト中段(僕は彼の打撃を高評価している、もっと試合に出せ)とホームランが4本も観られたこと。カープが4本はあんまり記憶にない。

もう何年か前になるが、柏崎さんがブログを読んで連絡を下さったのがご縁のきっかけだ。お会いしたのは数回だが、本人より内容を覚えておられて冷や汗なほどであり、つまり僕のことはすでによくご存じだ。だから話は気持ちがいいほど早い。僕は同じ速さで会話についてきて欲しいので大事なことだ。試合が終わってから水道橋のバーで遅くまでいろんな談話をさせていただいたが、なかなか外部の方とそういう機会がなく、ブログに書けないことも話せて充実の時だった。楽しい一日を感謝申し上げたい。

新しい出会いというのが大好きだ。かつてこのかた幾つの出会いというものがあったか想像もつかないが、同じものはなく貴重でないものもまたひとつもない。男性であれ女性であれそこに必ず洋々としたブルーオーシャンを見ており、それが相手の方にとって何であろうとプラスであれば問答無用で嬉しい。これは僕の生まれつきの性格であってどうしようもない。証券界という欲の皮のつっぱった集団に居心地悪く40余年も居てきたが、基本的に僕は利己的でなく他利的だ。いや正確には、食うために利己的な行動はたくさんしてきたが、それはファミリー、仲間、お客さんを守るためであって、映画ゴッドファーザー的だ。ちなみにソナーに証券会社育ちの人は長らく僕ひとりだったが、今年からO君が参画してくれた。同業育ちは話が早い。ストレスがない。これはこれで重要なことだ。

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菊池選手1500本安打おめでとう

2023 APR 27 23:23:06 pm by 東 賢太郎

本人は満足してないと思うが1500安打は重要な一区切りだ。しかも手がつけられない6打数5安打で達成というのが菊池らしい。2対2で迎えた延長12回、先頭打者で追い込まれてから高めのボール球を振り切ってセンター前ヒットというのも菊池らしい。これがきっかけとなった2死満塁から若手のホープ韮澤がストレートの四球で押し出しサヨナラ。お立ち台で菊池を見ながら「菊池さんを上回りたいです(笑)」。いいね!ほんとうに嬉しい1勝である。菊池の並外れた守備力はいうまでもない。打力のせいなのかメジャー挑戦の夢かなわずということもあったが、1番に定着した今年はその打棒に目を見張る。

カープの3連覇は菊池なくして語れない。投手より右にゴロが飛んだら全部アウト。こんな二塁手はかつてないしメジャーにもそうはいない。投手の安心感たるや計りしれない。僕のつたない経験からも、甘い球を投げてしまい抜かれたと思った打球を処理してもらうと意気に感じ勇気百倍になる。逆に敵方にそれをされると意気消沈。嫌な奴がいるなと意識して、どこか打席に立つと押されてる感じを持つ。

プロは同じ相手と何度も戦う。カープ戦というとその「押されてる感」を常に感じてしまうのはハンディだろう。そうした心理的アドバンテージを攻撃面で持っていて強かったのが昨年のヤクルトだ。1番塩見、3番山田、4番村上は見ているだけで本当に嫌だった。塩見の出塁率が高く、山田が足が速いからゲッツーもなく、そうすると高い確率で「走者を置いて4番村上」のシーンがやってくる。しかも先発投手がまだ不安定な初回立ち上がりに。村上の三冠王はそれが大きかったと思う。今年は目下のところ塩見、山田が不在、村上が不調だから苦戦している。それと同じことが3連覇中のタナキクマル誠也にも言えたのである。でもその中でも菊池だった。なぜならスターを超えたウルトラ超人であり、相手を唖然とさせてなんだあの曲芸はと戦意喪失に追い込む仰天プレーをしてしまうからだ。そうなった相手は意外にもろかったりする。

菊池選手、まだまだ一里塚だが偉大な記録だ。ほんとうにおめでとう。

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点と線(田中広輔と小園海斗の場合)

2023 APR 16 21:21:10 pm by 東 賢太郎

野球にも人間ドラマがある。広島カープのレジェンド、安仁屋宗八さんが「他球団のピッチャーは関係ないんです、気にしてたのは同僚ですよ」と語っている。ライバルは身内なのだ。

カープの二遊間は田中広輔と菊池涼介で盤石だった。丸を加えた6-4-8の鉄壁のセンターラインで2016~18年の3連覇が成し遂げられ、タナキクマルという愛称が一躍脚光を浴びた。菊池の超人的プレーに隠れて田中のうまさは騒がれなかったが、遊撃は二塁より難しい。学年同期で同じ171センチの二人が抜群の身体能力だったことで鉄の壁は成り立っていた。それが暗転したのは翌19年だ。田中がどうしたんだ?というほどの打撃不振に陥り、売り物の盗塁も激減したのだ。そして話題の新人小園海斗に1番ショートのスタメンを奪われてしまい、歴代5位をうかがっていたフルイニング連続出場記録までが途切れてしまうのである。右膝半月板の手術をしたと不振の理由が判明したのはたしか8月のことだった。「怪我だから仕方ない」で済まないのが男の世界である。この時の田中の気持ちはわかる。

今日の広島でのデーゲーム、開幕3連戦で全部負けたヤクルトに2つ勝ったが、3つめは初回に5点取られて中盤まで5-1だ。6回に秋山、西川のヒット、坂倉の四球で二死満塁。ここで8番打者の田中である。ヤクルトは好投していた新人の吉村投手を150キロ出る星に替えた。「球威で押しに来たな」と誰もが思った。しかし田中に代打は出ない。先日、2年ぶりの本塁打が出るには出たが右翼フェンスぎりぎりであり、お立ち台で「もう打てないと思ってました」と語ってもおり、たしかにこの4年、いい所で打席に立っては泳がされて弱弱しいポップフライの残像しかないのである。

「おい新井さん、4点負けてんだよ、松山か堂林じゃないの?」

と思ったカープファンは少なくないだろう。もうこのまま終わりだな。僕は田中の打席だけは見届けて、そこでテレビを消して仕事をしようとリモコンを持って待ち構えていた。

ここで彼が右翼中段に放った満塁ホームラン。これにはデジャヴがあった。9年前の2014年4月24日、神宮球場の三塁側内野席から目撃した彼のプロ初ホームランである。

広島vsヤクルト(神宮)観戦記(菊池のタッチアップに驚く)

時期はちょうど今頃だ。強打者の高々と滞空時間の長い当たりではなく、巧打者が絶妙のタイミングでミートした若々しいライナー性の当たりであり、これでショート田中の名前が鮮烈に焼きついたのを菊池の活躍と一緒にブログに書いたのである。この年のシーズン終了後に緒方孝市の監督就任、ヤンキースから黒田博樹、阪神から新井貴浩のカープ復帰が決まり、3連覇への布石が敷かれている。

だからかどうか、監督になった新井は田中に代打を送らなかった。満塁ホームランをたたき込んだ田中はヒーローインタビューで淡々と、しかし強いものを秘めた口調で「ここで打たなきゃ男じゃないと思いました」と語る。

ここで使われる「男」という言葉。アメリカの地でWBCのサムライたちが軽々しく口にはしなかったが、プレーでこれでもかというばかりに見せてくれた。それに日本だけでなく世界の女性も熱狂した。LGBT云々とは全然違う次元の高い所で、何千年も前から、どこの民族であれ人類が生存のために持っていて本能に訴えかけるものだからの感動だと僕は確信している。

新井が見せた男ぶりがこれだけなら僕は本稿を書いていない。凄いなと思ったのは5-5の同点で迎えたその次の7回、投手の代打に、開幕から15打数ノーヒットの小園を送ったことだ。そして小園はそれが信じられないぐらいの迷いのないスイングで右中間に快心の3塁打を放つのである。これが点になり、カープは7-5で勝利し、3連敗の借りを3連勝で返した。小園はオープン戦で悪くなかった。22才で日の出の勢いであり、我が家の年間予想で僕はセリーグ首位打者にノミネートした。昨年は田中が41試合の出場にとどまったのに対し小園は127試合にショートで出場し、レギュラーを奪取したと自他ともに認めたといっていい。

つまり、いまは田中でなく小園が試合に出られず悔しい思いをしている。田中は33才だが、今日35才になった秋山翔吾が昨日はサヨナラホームラン、今日も5打席連続ヒットを続けるなど気を吐いているのだからまだまだ若いという気概に燃えているだろう。真の男と男のガチンコの戦いだ。生物上は男だが薄っぺらのカスがくだらないポジショントークで金儲けを狙う世相を見せられる日々に、これが一服の清涼剤でなくて何だろう。

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広島カープ「つなぎの野球」では勝てない

2022 OCT 11 10:10:41 am by 東 賢太郎

佐々岡監督ご苦労さま。3連覇で疲弊した戦力を引き継ぎ、そこから鈴木誠也がいなくなったのによくやった。投手陣は先発はほぼ形ができたが、中継ぎが揃わなかったのは反省点だ。打撃や足技については不動のエースだった彼が指導できる領域ではなく、コーチの責任だ。

広島というチームは監督が代わってもコーチはそのままが多い。組閣でころころ大臣が替わる省庁みたいで、役人は不動。どうせ大臣はすぐいなくなると面従腹背になりやすいと推察する(同じ人間だ)。コーチの現役時代の成績を見ると、菊池や西川や小園みたいな選手に技術指導できるのかと思う。

今年はセイヤの穴埋めが最大の焦点だった。昨年ホームラン38本、OPS1.072の彼に代わる選手はいないから外人でという期待はファンの誰もが持っただろう。しかし球団は、代わりの4番候補に今期セリーグの助っ人39人中13番目に年俸の安いマクブルームしか取らなかった。

今年のセリーグ各球団の助っ人外人の顔ぶれと年俸をご覧いただこう。青字の選手が4番候補である。

 

読売ジャイアンツ(11億1900万)

ポランコ(2億5000万)、アンドリース(2億2600万)、デラロサ(1億8150万)、シューメーカー(1億5000万)、ビエイラ(1億4300万)、ウィーラー(1億1000万)、メルセデス(4950万)、クロール(3500万)、ウォーカー(3400万)

阪神タイガース(10億6410万)

ロハス・ジュニア(2億6000万)、アルカンタラ(2億1000万)、マルテ(1億9300万)、ガンケル(1億7000万)、ケラー(1億2430万)、ウィルカーソン(7280万)、ロドリゲス(3400万)

横浜DeNAベイスターズ(8億1000万)

ソト(2億7000万)、オースティン(2億)、エスコバー(1億6000万)、ロメロ(1億3000万)、クリスキー(8000万)、ガゼルマン(4000万)

ヤクルト・スワローズ(8億300万)

オスナ(1億5400万)、サンタナ(1億9000万)、マクガフ(1億2400万)、サイスニード(9500万)、コール(9000万)、スアレス(9000万)、キブレハン(6000万)

中日ドラゴンズ(6億5000万)

ビシエド(3億5000万)、R・マルティネス(2億円)、ロドリゲス(6000万)、A・マルティネス(3000万)、アルバレス(1000万)

広島カープ(3億2070万)

フランスア(8500万)、マクブルーム(7700万)、アンダーソン(7700万)、ターリー(7300万)、コルニエル(870万)

 

これを投資と考えて、リターンがどうだったのか見てみよう。

外人年俸総額(カッコ内)の順番はこうだ。

➀巨人➁阪神③DeNA④ヤクルト⑤中日⑥広島

そして公式戦の結果はこうなった。

➀ヤクルト➁DeNA③阪神④巨人⑤広島⑥中日

「10億円組」(巨人・阪神)と「8億円組」(DeNA・ヤクルト)は逆転したが、ヤクルトは村上、DeNAは牧というホームランがリーグ1位、4位の日本人が4番を張ったのが大きかった(外人はおまけになった)。

それに比べ、「その他組」(中日・広島)はお値段通りの5位6位だ。年俸1位が4番候補でないのは広島だけ、1億円以下なのも広島だけである。これでは佐々岡が気の毒というしかない。そのマクブルームは健闘はしたが、鈴木誠也の半分以下のホームラン17本では穴を埋めたとは到底言えない。

「つなぎの野球」というが、3割打者すらヒット3連打の確率は2.7%しかない(0.3×0.3×0.3)。年間600打数として、ほぼ読めるのは16点だ(単打3本では点が入らないこともある)。2割5分の打者3人なら1.56%で10点だ。

ホームラン16本なら同じ16点が確実だ。打った打者はNPBに21人いる。たった6人しかいない3割打者を3人集めるよりそっちを1人の方が簡単でコストもほぼ3分の1だ。

つまり「つなぎの野球」はリレー好きの日本人には耳あたりがよく、たしかに滅多打ちに見えて気分はいいが、「スロットで同じ絵柄が3つ並ぶ」ということであり、出そうでめったに出ない(だからパチンコ屋が儲かる)。

更に言うなら、リーグ史上ワースト2位の26盗塁(阪神・近本の30より少ない)で盗塁死が29もある。成功率47.3%は12球団ダントツ最下位だ。「つなぎ」で足は使わないなら連打狙いのスロットを回す作戦なのであり、確率は低い。

ところが、ホームランも盗塁もだめだったが、総得点はリーグ2位だ。だから免罪だという声もあるが、1イニング最多12得点の球団記録など、17点、15点(2度)取ったぼろ勝ち(どうでもいい点数)が乗っており、そうもいえない。

つまりホームランが出ないけどこっちの方がいいという理屈は立たず、4番がビシエド14本、マクブルーム17本の2チームが順当に最下位を争った。弱小球団経営者のポジショントークにすぎず、米国には「つなぎの野球」なる英語はない。

新井新監督には期待したいが、コーチ陣と4番は少々心配だ。

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広島終戦(酷すぎる大瀬良と中崎の起用)

2022 SEP 23 23:23:17 pm by 東 賢太郎

首の皮一枚、絶体絶命の阪神戦。こいつらほんとにそう思ってたのかというばかりの酷い試合であった。

先発の大瀬良。

何だこのざまは。絶対に負けられない試合の初回に4点もとられるピッチャーをエースと呼ぶ国は世界のどこにもない。見るからに球が遅い。こんなの打たれるに決まってるだろ。でもエースと呼ばれてる?関係ねえそんなもの。全部ぶち壊した責任は重い。なんで遠藤で行かなかったの?わけわかんねえ。

6回の中崎。

佐藤テルに看板直撃の強烈なツーランを被弾。球場全員が唖然でアタマ真っ白。バッターは戦意喪失の衝撃。ただの2点じゃないよ。素人目にもそりゃそうだろの球威しかない。なんで2点差に追い上げてこの大事な所でこんなの出すの?引退試合だったのか?聞いてねえぞそんなの。なんで頭から松本いかないの?わけわかんねえ。

佐々岡。

外人なしの迫力ない戦力で同情もしとったけど、この起用はあまりに酷い。

「ザキが打たれると思って出してないので、期待してたので、それが結果的に打たれたのは出した僕が責任がある」

当たり前だろ、そんなもん。キミ正気か?打たれると思って出す監督がどこの国にいるんだ?いちいちどうでもいいこと言わなくっていいんだよ、結果だけが監督の責任なんだよ。キミに責任とってもらってもファンは浮かばれないんだよ。

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阪神タイガース・糸井の引退試合に感動

2022 SEP 22 18:18:43 pm by 東 賢太郎

昨日の阪神・広島の最終戦は4-4の重苦しい同点で延長11回まで進んだ。双方が4位で並び、Aクラスに首の皮一枚。こういう追い込まれた事態で見る1点もやれないプレーは実に手に汗握る。

阪神の中継ぎ投手、ケラーと湯浅の速球。わかってても空振り。ああいうのはこういう場面でないと出ない。特に湯浅が坂倉をインローで見逃し三振にしたあれ。あのストレートをプロだ!と思わないなら金を払って見る価値はない。

その湯浅の低め速球をセンター前に快心のヒットを打った小園。第1打席のセンターへの本塁打よりこのヒットを評価する。8番だが一番打ちそうな雰囲気があったのは小園である。守備も含め、本当に素晴らしい選手を採ってくれた!

一打サヨナラの一死一二塁で佐藤、梅野をストレートで連続三振に取った松本の度胸!新人でこれは驚異。制球が乱れず145キロしか出ないのに高めで空振りが取れる!カープの中継ぎで最も成長したのは松本と矢崎である。

素人の試合で後半にこんな球の速いピッチャーが出てくることはない。ストライクゾーンで速くて打てないピッチャーは打ちようがない。シーズン中はこんな球はめったに見れないからもうけものだ。

ひとりだけ、あんまり制球が良くなかった岩貞。今年は彼も球速が増しているが、11回、小園のうまいバントで暴投、四球で満塁。打てる気配なかった上本に三遊間。するとつるべ打ちの3連打であっという間に6点。

嬉しいというより「野球は怖い」と鳥肌が立った。

カープは残り4試合全部勝って巨人が3つ負けてくれれば3位となった。

もうひとつある。

5回の先頭で代打で登場した糸井だ。これが引退試合。森下は3-2とし、外角高め速球は見逃せばボールだったが、これを見事とらえて三遊間を抜いた。変化球がありえたろうが、特に手を抜いた球とは見えなかった。

よく打った。これは絶頂期だったオリックス・平野が本気で投げた低めを右中間ツーベースにしたロッテ・サブローの引退打席に匹敵する。鍛えぬいたプロは凄い。こんな打者でも辞めなきゃならないプロも凄い。

糸井はピッチャーで近大から日ハムに入る。2年で打者転向といわれるが、引退スピーチから投手クビだったことがわかる。悔しくてバットを振りまくってここまで来たと。それでこのいい性格、素晴らしくスケールのデカい男だ。

糸井に驚いたのは打撃ではない。守備と肩だ。足も速いと思ったらなんと300盗塁もしているとは。野球選手はやっぱり攻走守だ。全部できてナンボ。大谷もそうだが日本で最高位は間違いなく糸井である。

宇宙人扱いされておりスピーチは心配したが、これがまた立派である。うまいというより地が出ていて心が見える。作り物でない。作り物のこれまたフェイクみたいな、巷に満ち溢れる政治家どものくそスピーチに汚染された耳が洗われた。

糸井選手、プレーヤーとしても男としても超一流だ。最高の野球をありがとう!

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野球に「流れ」はある(野球以外にもある)

2022 JUL 24 12:12:27 pm by 東 賢太郎

土曜日。久しぶりにノイを連れてピアノを弾いていて、しまった始まっちまったと急いでテレビをつけると3回だった。広島・ヤクルト(神宮)だ。スコアを見ると13対0だ。またか、やばい!と目を凝らすと、なんと勝っているのはカープで怒涛の攻撃中ではないか。

交流戦覇者ヤクルトに2勝しかできずやるたびボロ負け(10敗)。アマならわかる。地方予選1回戦組が大阪桐蔭と何百回やっても勝てない。戦力差が圧倒的だからだ。でもプロにそれはない。その広島がDeNAには3つしか負けておらず(12勝)そのDeNAはほぼ互角(8勝6敗)にヤクルトを食っているから明らかだ。グー、チョキ、パーの三すくみなのである。

広島は昨日もヤクルト小川に7回まで0封。「またか・・」。まいど顔なじみの負けの貧乏神が降臨しかかっていた。ところが8回にサードの村上クンが信じ難い素人ポロリをやってくれる。なんだそれは?キミ、どうしたんだ、脳震盪でもなったか?するとすかさず秋山が右翼席に同点2ランを放り込んだのである。投手はガックリでヒザをついてうずくまる。貧乏神が退散する。すると9回に、打った記憶のないクローザーのマクガフから何ということか小園がソロ、松山が2ランをぶちこんで勝ってしまった。うーんあり得ん。何が起きたんだろう??

そうしたら今日はいきなり先発の原にライオンの群れみたいに襲いかかって一死でマウンドから引きずり降ろし、2番手からも打つわ打つわで、あっという間の13-0だったようだ。もちろんこの時点でカープファンとして万歳三唱したわけだが、不思議なことに、なんとプロ野球でこんなことが起きるのかと背筋がぞぞぞっともしていた。こういうところ、何やら幼少時からのつきあいで野球のグレービーソースみたいなのが体にしみこんでる。「見ろ、野球って怖いだろ」。いちおう僕の影響で野球はそこそこ知ってる家族にそう言って回った。反応は猫と変わらなかったが。

『ライオン狩り』(ウジェーヌ・ドラクロワ、1854)

この日も秋山が1回に3ランを叩きこんだのだ。まさに「流れをもってきた」というやつだろう。「流れ」なるものは、そんな英語はないしアメリカでは言わないし賛否両論あるが、僕は経験から存在すると思う。ベンチで真横から相手投手のタマを見て、誰とも何も話さないがヤジを飛ばしながら「速いな」とか「大したことねーな」とか思ってる(高校はほぼ初見だ)。でも大事なのはこっちの3,4,5番が打つかどうかなのだ(僕は6番)。自分は自分の打撃の世界があるが、やっぱり彼らが第1打席であっさりひねられると打席で緊張する。打ってくれるとのびのびいける。そういうのはあった。

流れというのは良い方も悪い方も「ハートのシンクロ現象」がもたらす結果だと思われる。集団心理とざっくり言ってもいい。ピッチャーが頑張れば野手も燃えるし、野手が点を取ってくれると投げる方もよしやったろうとなる。ひとつの四球、ひとつのエラーぐらいで普通そこまではいかない。だから村上クンのポロリは普通じゃなかったのだ。そこにヤクルトアレルギーに汚染されてない秋山が一発ぶちこんだ。こうなると初めて、ひとつのエラーで流れが変わる。だからデータで証明しようとすると、単に四球、エラーでなく条件を付けなくてはならないだろう。でも「どうしたらみんなのハートがキュンとなってひとつになるか」という条件を一般化するのは容易でない。Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島など真っ赤に染める3万人の観客まで「みんな」の一部になっちまうのだからほぼ無理筋だ。だから野球は面白いのだと僕は思う。

もとプロ野球のかたも東京六大学の4番のかたも甲子園ご出場のかたもおられたニューヨークの大会を思い出す。初戦の相手が優勝候補でこっちは初出場でみんなビビりまくってた。初回いきなりストライクが入らず四球と二塁打の5球であっさり1点取られた。みんなのビビりが2倍になったのがわかった。ヤバいと思ったので死に物狂いで4番を三振に取りにいった。要は味方の士気をあげるには大将の首狙いしかないと思った。高めの渾身のストレートで空振りで仕留めた。するとシーンとしていたスタンドでやおら大応援が盛り上がり、みんな「あれっ、意外にいけるんじゃねえか」と思ったろう。次の回にたまたま四球とエラーで逆転した。ベンチのアメリカ人たちが滅茶苦茶に盛り上がり、みんな気持ちがひとつになってお祭りみたいに打ちまくった。マウンドの僕はまったく打たれる気がしなくなって11対2の大番狂わせで勝って翌日の日本語新聞の一面トップになった。これは「流れ」の見本だろう。

あの時、それまで強烈に威勢良かった向こうのヤジが最終回は悲し気な「意地を見せようぜ」に転調し(マウンドはよく聞こえるのだ)、ゲームセット後もしばし茫然としていた相手ベンチはきっと「野球は怖い」と思っただろう。最後の方はとてもそういう風に感じていたので、きっとこの大会のため練習を積まれてきただろう素晴らしいチームだったし、なんとなくプレーヤーとしては他人事でなく、終わった後はみんなとはしゃぐ気になれず猫のように静かにしてた。翌週の2回戦も10対0の5回7奪三振のコールドで、しかもノーノーで当たり前のように勝った。半分アメリカ人のチームだったが彼らは僕のカーブは見たことなかったんだろう。もう強豪だ。明らかに相手がビビってた。それも、マイナスの「流れ」だ。二桁勝ちってこんなにいいものなんか。高校で味わえなかったライオンの気持ちがわかった。

カープはやっぱり秋山が効いたんだろう。やっぱり2百本もヒットを打つ人は只者じゃない。しかもカープはフン詰まりみたいに出なかったホームランをあっさり打ってくれ、みんなも便秘がなおったみたいに出るようになるんだから「流れ」のおかげとしか考えようがない。同じ左の野間や小園の当たりの良さも半端じゃなくなった。ちょっとしたことで実力は均衡したプロ同士でやってるのに二桁勝ちってのは、気持ちがシンクロすると劇的効能があるという証拠だろう。でも相手にそれが起こると逆に二桁負けもあるということだからこのままカープが強いかどうかはまったくわからない。集団心理はちょっとしたことで女心より変わりやすいと思うからだ。監督さんたちがいくら頑張ってもどうもならん世界でこういうことが起きる。ほんとうに命を削る思いだろう。

ことは野球に限らない。どんな人間集団にもそれはある。オーケストラにもそういうものがある。みなの心がシンクロすると、聴衆の心に強く訴える感動的な演奏になったりする。何度かそういうのを聴いたが、原因が指揮者の棒かというとそれだけでもない。いまも昨日のように忘れないのがリッカルド・ムーティがフィラデルフィア管でやったチャイコフスキー4番だ。帰りにまだ足がガクガクしていたぐらい凄かった。あれで、いつもはフツーの馬なりの演奏だったんだなということがバレてしまった(それでも芸になるスーパーオケだ)。その日は朝起きると大雪だった。2mも積もって交通が麻痺し、昔のパリーグの川崎球場みたいに客がいなかったのだ(オケの人数のが多かった)。ムーティがスカスカの客席をふりかえって「今日は来てくれてありがとう」ですぐ始まった4番、オケのみなさんの「ありがとう」がいっぱい詰まって尋常でない白熱の演奏になってしまった。やってみないと分からない。人間はだから面白い。

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