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ビゼー 交響曲ハ長調

今日から娘たちと休暇の予定だったが気がついたらデュトワがN響でカルメンを振るではないか。これはどうしようもない、父だけ1日遅れの合流となった。

カルメンはビゼー最晩年35才の作品だが、そうはいっても36才で亡くなった人だ、還暦まで生きていればずいぶん若書きの作品であって、やはり35才でモーツァルトが書いた魔笛に匹敵する。僕の中ではカルメン、魔笛、ボエームが三大オペラで隅々まで全部覚えるほど聴いて血肉となっているが、それでいながら何度でも聴きたいし、聴くたびに感動するというのだから強烈なオーラを放つ究極の名曲としか書きようがない。

そのビゼーの真の意味での若書きが交響曲ハ長調である。これを書いたのがなんと17才、今なら高校2年というのは、メンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op.20」が16才、『夏の夜の夢』序曲がやはり17才の作であると知った驚きにいささかも劣らない。天与の才があることを gifted というが、神様からギフトをもらって生まれてきた3羽ガラスというなら並みいる歴史的天才の中でもモーツァルト、メンデルスゾーン、ビゼーということになると思う。

なにせ3人とも苦学臭が皆無である。勉強でも東大には何の苦労もなく物凄くできる人がいて、何倍も時間をかけて刻苦勉励するガリ勉くんより点が良かったりするが、あれと同じだ。日本ハムの4番打者中田が大谷の打撃を見て「練習するのがあほらしくなる」と言ったがそういうことで、勉強でもそういう輩と競争するのは何の生産性もない。gift とはそういうものだ。

この3人に比べるとベートーベンやブラームスもガリ勉に見えてしまうので困る。神様の gift にも品目が各種あるということであって、苦しんでもあそこまでの高みに登れば100年や200年たっても余人の及ぶところではないのだが、彼らの17才は演奏家という人間の仕事では図抜けていたものの、作曲という創造主の仕事では3人に比してたいした成果がない。

ついでにもうひと種目挙げれば、美しい旋律を創るメロディーメーカーの才の3羽ガラスはモーツァルト、ヨハン・シュトラウス2世、ドヴォルザークだろう。あとの2人はブラームスが羨望の言葉を吐いたほどだが、またモーツァルトなの?といわれるとこれはもうどうしようもない、彼はあらゆる角度から本当の天才なのだから。

ビゼーのハ長調交響曲はハイドン、モーツァルトのシンプルさでメロディーは親しみ易く、こんなに形式的にも平明でわかりやすい交響曲はない。一度目で誰でも楽しめるし、二度目できっと覚えるし、三度も聞けば鼻歌でなぞれるだろう。へたな御託はご無用、ただ耳を傾けるだけでいい。

しかしこれが習作でそれなりのものということはない。僕は16種の音源を持っており何十回聴いても心地よく飽きない音楽である。両端楽章はallegroでシャンペンの泡立ちの爽やかさ、第2楽章adagioはオーボエが哀調のある旋律を歌うがムソルグスキー「展覧会の絵」のように絵画的でエキゾティックだ。中間部のフガートも美しい。楽章間のつり合いの良さ、色彩的なオーケストレーションの味の良さも逸品であり文句のつけ所なしだ。

第3楽章スケルツォもallegroであるが、いきなり決然とした強い主張のある主題が木管、第2ヴァイオリン、ヴィオラで提示される。何という小気味の良さ!

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これはフルートのパートだが、 ff からのコード進行がメンデルスゾーンの結婚行進曲とまったく同じであることにお気づきだろうか?飽きないのは細部にそれなりの隠し味が仕込まれているからであることがわかる。

このシンフォニーの最大の長所は巨視的に見たデッサン力とバランスの良さだろう。すべてに上品なセンスが感じられるのであって、ウィーン古典派の素材にパティシエが腕をふるった上質のフランス菓子を思わせる。

菓子と表現したいのは甘いという含意ではなくて、あまりクラシックを知らないご婦人が「好きな曲はビゼーのハ長調です」と言ったとしてちっとも不自然ではなく、ああなるほどと上品なイメージを自然に持つだろうということだ。「マーラーの6番です」ときたら僕は逃げるが。

 

レオポルド・ストコフスキー / ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

71oqpu7ak2l-_sl1500_指揮者95才、亡くなる直前の最後の録音とはとても思えぬ快演である。第1楽章からオーケストラはドイツ音楽のように重めの音を基調に揺るぎない骨格を形成するが木管はあでやかに花を添えフランスの華やぎも不足がない。第2楽章はロマン的だがやや速めで古典の枠組みを踏み外すことはない。スケルツォは僕にはほんの少し遅く感じる。しかしその不満も息もつかせぬテンポの終楽章で吹き飛んでしまうのである。これぞアレグロ・ヴィヴァーチェである!大指揮者のキャリアのエンディングを感じて称える気概があったのだろうか、オーケストラの技量と迫真の気迫もまさに素晴らしく、これを聴くと他の演奏は霞んでしまう。

 
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