Sonar Members Club No.1

日: 2016年12月28日

日本の教育がBecause I’m stupid.である話

2016 DEC 28 18:18:05 pm by 東 賢太郎

きのうは取引先と忘年会がわりのランチをしたが、ニューヨークで証券営業をした方の失敗談?が面白かった。お客さんから日本株の発注がWhy don’t you buy~と電話で来たが、それが買ってくれという意味とわからず他社に取られてしまったという。

そうですか、僕もロンドンでI would’t mind accepting your offer.と来てわからなかったですよという話になった。同じ意味だが英米でこうもちがう。僕は米語を覚えてロンドンに赴任したが、それをしゃべるとIt’s a sort of English,  Ken.とお客さんにやんわりたしなめられた。それは英語じゃない、英語「みたいなもん」だ、クィーンズをしゃべんなさいというお薦めだ。

英国で僕がKenになるのには半年かかった。それまではMr.Azumaだ。ドイツだとあなた(you)のSieがうちとけるとduになるが、そんなものである。すると人間関係はがらりと変わるが、こればっかりはミスターの関係をいくら続けていてもわからない。それが正論かどうかはともかく、発音を直してくれた英国人はKenになったから親身にそうしてくれたのである。

かたや米国だと会って5秒(自己紹介)でKenである。米国での人間関係の特質を一言で表すとなればこれをあげる。一面浅はかだが、誰とでも付き合いますよと心を開く姿勢はポジティブで、これはこれで好きだ。5秒たってもMr.~でいくとI would’t mind ~みたいだし、エレベーターで目があってニコッとしない奴みたいに見られそうだ(日本ならニコの方が変態だが)。かたや、英国のアッパーにWhy don’t you buy~は僕はとてもはしたなくて言えない。難しいものだ。

学校ではみなさん大方が「Whyと来たらbecause」と教わっただろう。だからWhy don’t you ときたらBecause~という基本英文700選かなんかの構文を頭が条件反射で探しにいってしまい、何も出なくなる。出るわけがない、買ってくれと言ってるだけなんだがこれを意味どおり「どうしてお前は買わないんだ?理由を述べよ」なんてとってしまうと、「はあ?」だ。そして気まずい沈黙となる(電話だからとても白ける)。そこで構文通りに思いつく文章はBecause I’m stupid.ぐらいだ。

これが今度は算数の話に飛んだ。小数の足し算で答えが9であるところを9.0と書いて減点になった有名な話だ。数学のノーベル賞であるフィールズ賞受賞者の森 重文先生が「なるべく簡略に答えよという条件があればそうですが、そうでないならばおかしいですね」とTVで言っていた。

もっとひどいのは、直方体の体積は縦・横・高さの順番で式を書いて掛けないと答えは合ってるのにバッテンらしいことだ。絶句である。これで×を食らった子は何を反省すればいいんだろう。「構文通りだ、よろしい」と Because I’m stupid. に〇がついてるぐらいにstupidである。

こういう教育で、我が国は皆勤賞で遅刻もしないが仕事もできない人間を大量に作っているような気がしてならない。いや僕ごときがそんな不遜なことを言ってはいけないだろう。森先生はガウスが1から100までの整数の合計を足す順番を変えて求めた例を引いて、「こういう発想が育ちませんね」とやわらかく否定された。

紋切型の掛ける順番⇒ガウス、とパッと類推する。数学は解法の類推力(似たもの探し力)を鍛えてくれる。これは問題解決の道具が豊富ということを意味するから実社会でビジネスで非常にパワフルな能力である。相手がそういう思考をできる人かどうかもすぐわかる。そうでない人には飛躍になるから説明がめんどうくさいが、そうしないと理解されないからそのための別種の説明方法があることを学ぶ必要がある。その簡素で無駄のない美しい解を森先生はTVで即座にエレガントに披露されたというわけだ。

次女はインターナショナルスクールに通ったのは小学校だけだったが英語は僕よりうまい。それほど子供時分の教育は大事である。掛け算の順番にまで注意して〇をもらいましょうと教えることに何の意味があるのか、物事はもっと単純な本質によって決められるべきと思うし、そうなれば教育のクオリティはいい学校に入るだけがモノサシではないという結論に行き着くだろう。よくいわれることだが、問題解決力、特に答えのない問題のそれだという意見に賛成だ。

 

わかる人、わからない人

 

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クラシック徒然草《いま一番好きな第九》

2016 DEC 28 0:00:38 am by 東 賢太郎

「年末の第九」なる世界に類のない国民行事は、まだクラシックがそんなに人気がないころのオケ団員の正月の餅代稼ぎだったという説をどこかで読んだ。それによれば、合唱団は主にアマか音大生であって、家族親戚が聞きに来るだろうから満員御礼が読めるということだったようだ。欧米で第九は何度もコンサートにはかかったが、年末だったことはむしろ一度もない。

昔はテレビっ子だったし3ちゃんやFM放送でも大晦日の第九を聴いてた。だからこれを聞くと第2楽章の終盤でもう今年も終わりかあと思いはじめ、第3楽章の中盤あたりで「ゆく年くる年」の行者の火渡りのシーンなんかが頭にジワリと浮かんでくる。第4楽章の歓喜の歌が過ぎたあたりになると時計を見てウンあと15分かと心のカウントダウンが始まり、そして恐るべきことに、画面いっぱいに映し出されたどこぞのお寺の鐘を和尚がゴ~ンとつく音が浮かんでくるのである。

なんじゃこりゃあ?

4月に聴いても9月に聴いても除夜の鐘がゴ~ンだ。パリで聴いてもウィーンで聴いてもゴ~ンだ。かんべんしてくれ。こうやって僕はいっとき第九が大いに苦手となった。聴くときは昔流儀とイメージが被らないように、新奇なところに耳が行くベーレンライター版を選んで聴いたりした。第九のブログを書いたあたりまでは少なくともそうだった。

ところがわりと最近、ヨゼフ・クリップスのCDを聴いて非常に感動したのだ。これはおふくろの味だと。そして3月17日にこう書き足すことになった。同じ文章で申し訳ないが再録する。

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ヨゼフ・クリップス / ロンドン交響楽団

08_1104_01 (1)クリップスはJ・シュトラウス、ハイドン、チャイコフスキーなどに記憶に残るレコードがある。この第九は、一言でいうなら、僕の世代が昔懐かしい、ああ年の瀬のダイクはこういうものだったなあとほっとさせてくれる雰囲気がある。アンサンブルは甚だ雑駁だが何となくまとまっており、ほっこりとおいしい不思議な演奏だ。それはテンポによるところが大きく、とにかく全楽章やっぱりこれでしょという当たり前に快適なもの。管楽器、ティンパニがオン気味だがどぎつさはなく、歌は合唱の近くにマイクがあってまるで自分も合唱団で歌ってるみたいだ。そのうえソロ4人がこんなに一人一人聞きとれる録音は珍しいがこれが音楽的に満足感が高く、なんとはなしにオケ、合唱と混ざっていい感じになるのも実にいい。ぜんぜん知らないソプラノだが音程はしっかりして僕の基準を満たす。5番の稿にも書いたがベーレンライター全盛の世でこのCDを耳にすると、1週間ぐらい海外出張して戻った居酒屋のおふくろの味みたいだ。練習で締め挙げた風情や、うまい、一流だ、すごい、という部分はどこにもないが、本物のプロたちがあんまり気張らずに自然に和合して図らずもうまくいっちゃったねという感じ。しかし全楽器の音程がよろしく、フレージングの隈取りも納得感が高く、耳を凝らして聴くと音楽のファンダメンタルズの水準は大変高い。指揮のワザだろう。こういうのを名演と讃えたい。

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今も聴きなおしたが気持ちはいささかも変わらない。クリップスの1-8番は僕には生ぬるいが、どういうわけか9番だけ琴線にふれるのだ。このなんとも快適なテンポと味付けは僕らがなじみ始めの頃にウィーンなどで普通にやっていたものと思う。だからだろう日本人の演奏もこれに近かった。クリップスはロンドンのオケで普通にそれをやり、普通なのは第1楽章で一生懸命弾いているが弦と金管のアンサンブルが甘かったりホルンが二度もとちってるのでわかるが、それでもうるさい客を黙らせるオーソリティーを感じる。

クラシックがクラシック足り得るのは僕はこういう演奏によると思っているのであって、フルトヴェングラーのバイロイト盤みたいにコーダを超音速でぶっ飛ばしてエクスタシーをあおったり、メンゲルベルグみたいに急ブレーキでのけぞらせたりしてくれなくても、ベートーベンの天才のみで僕らは十二分に究極の音楽的満足を得られると思う(終楽章の入りだけピッチがゆれるがこれは我慢)。

ゴ~ンはないの?ある。でもそれもふくめておふくろの味になってしまった自分がいるということのようだ。

 

 

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