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世界のうまいもの(7) ― ドイツのビットブルガー ―

2012 NOV 23 14:14:03 pm by 東 賢太郎

「フランスには246種類もチーズがあるんですよ、キミたち。そんな国が簡単にまとまるはずないでしょう。」 (シャルル・ド・ゴール大統領、野党への反論)

ドイツにはビールが5000種類あるそうである。どうしてそんな国がまとまっているのだろう。

いや、ドイツ人も本当はまとまりにくい。ビールがあるからうまくまとまっているいんじゃないかとさえ思う。そのぐらいドイツのビールはうまい。

「とりあえず、ビール!」という注文はドイツには存在しない。主役に失礼だ。缶ビール。あんなまずいものは誰も飲まない。缶ワインって、ないでしょう。コーラみたいに冷やして飲む?そりゃあまずいものを大量に売り込もうとすればそれだ。冷やせば味が分からなくなるからね。ドイツビールとアメリカや日本のビールは、完全に、別な種類の飲み物である。

このビットブルガーという銘柄。5000の1つ、もっと正確には1300ぐらいある醸造所
のうちビットブルグという町にあるブランドである。ナショナルブランドなので大都市はどこでも樽だしで飲める。僕がこれを好きになったのは、アルテオーパー(コンサートホール)裏にあるので毎週飲んでいたからだ。

ピルスナーという北ドイツに多い種類で、日本人には飲みやすいスキッとした味だ。まず、何よりクリームのような泡の口触りがいい。ひとくち目に感じる香りは上質のパンのようで、まさに麦からできているんだと実感する。舌にころがるやわらかいまろみ、コク、これを知ってしまうと日本のビールは清涼飲料水なんだ、水なんだと自分に言い聞かせて飲むしかなくなってしまうのだ。そして、飲み込むとホップの苦みがほのかに残る。そして、この後味とヴルスト(ソーセージ)、ザウワークラウト(キャベツの酢漬け)が絶妙に調和するのである。残念ながら、これは写真にある窯で自家醸造したナマ状態でないと味わえない至福の味。ビンでも全然ダメ。すみません、行って飲んでください。

「ドイツ料理はまずい」、これは 「ドイツ人は日本人に似ている」 と同様に日本人が抱いている強固なドイツ2大偏見であり、どちらも同じぐらい間違っている。ツアーで行って駅前の観光客用レストランで安物の豚のすね肉なんかを食べさせられて帰国すればそういう感想が定着するのは不可避であり、僕もフランクフルトに赴任する前はそう思っていた。しかし住んでいるうちにスーパーのお酢売り場で酢が何十種類も並んでいるのを見た。味がわからん人がこんなにお酢にこだわるだろうか?

フランクフルトでは毎週末のように家から歩いて行けるヴァルドハウス(森の家亭)に家族でぶらっと行った。ビール、ニュルンベルガ―・ヴルスト、ザウワークラウト、そしてカルトッフェルン・ザラート(ポテトサラダ)が僕の定番。この ”カルテット”  を一度で 「まいうー」 という芸人は絶対にいないだろう。どれ一品でもダメ、どれが抜けてもダメ。まさに四重奏なのだ。この絶妙のコンビネーションのうまさがわかるようになるまで僕は1年かかった。そしてドイツ人の気持ちが少し理解できるようになった。

彼らは正装に近い服装で森の中を歩く。アンケートで趣味の1位はこれ、ヴァンデルンである。散歩でも山歩きでもトレッキングでもジョギングでもない。ヴァンデルン。スポーツではない。上品な老夫婦がスーツに蝶ネクタイ、ロングスカートのようないでたちでゆっくりゆっくり自然に溶け込んで歩く。何時間もそれを楽しんで腹が減ったら”カルテット”で休憩。コーヒーを楽しんでそして腹ごなしにまたヴァンデルン。右はヴァンデルンお楽しみ中のグスタフ・マーラーである。フルトヴェングラーやシューリヒトにもそういう写真があったっけ。これがドイツ人である。

見上げると森の間から木漏れ日が差し込み、そよ風が吹くとそれがふっと途切れて雲がさしかかり森の暗さが増す。まさにそんな雰囲気に満ちているのがブラームスやブルックナーの音楽だ。まさにヴァンデルンの心象風景。これはフランス人にはわからんだろう、無理だなーと思う。

隣のドイツには5000種類のビールだけじゃない。ソーセージだって800種類もあるんだ。246種類のチーズでビビってるド・ゴール君。やっぱりキミはダメだね。

フランスの野党がこう切り返したという話は聞かない。

 

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Categories:______世界のうまいもの, 食べ物

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