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プレゼンがうまくなる秘訣教えます(1)

2012 DEC 8 17:17:59 pm by 東 賢太郎

先日、新潟県立大学の学生さんに

「どうやったらプレゼンがうまくなりますか?」

と質問された。そこで「吉野家簡略法」というものを教えた。僕が考案したものすごくわかりやすい方法だ。

プレゼンについて僕はちょっとうるさい。

自分自身、なんといっても踏んだ場数が桁違いに多い。証券営業というのは知らない人に会っていきなり株や債券という目に見えないものを売る商売である。しかも薦めている横で値段が下がったりもする。そんなものを売る営業は他にないから営業業務の最難関コースと言っていいだろう。口しか頼るものは何もないから、プレゼン力=営業力なのだ。

証券マンとしての僕しか知らない人は誰も信用しないが、野村證券に入るまで僕は口べただった。人前でしゃべった経験はほとんどなく、すぐあがってしまい、話もヘタだった。女性を口説くなどという口八丁とは程遠い人間だった(ここだけは今もそう)。しかし入社して大阪駅前の梅田支店営業1課に配属になり、そんなことを言っている場合ではなくなった。日本一厳しい野村の支店営業現場でプライドをもって生きていくには、自分を訓練して変える必要があった。2年半支店にいて、結局成績は同期トップに何度もなったのでなにがしかのプレゼン力を自力で開拓していたのだろう。

そんな「現場たたき上げプレゼンテーター」だった僕が目覚めたのはウォートン・スクールのMBAプログラムでOral Presentationなる授業を受けたときだ。これは単位には関係ないがパスしないとMBAにはなれない。だから米国のトップエリートは全員がこの訓練を受けていると言っていい。5人の学生がある日突然、アトランダムに小教室に呼ばれ、その場で先生からぽんとテーマを渡される。それについて演壇で一人ずつ5分間のスピーチをさせられるのだ。考える時間はわずか5分。僕らのテーマは

「フィラデルフィアでお薦めの3つのレストラン」

だった。こんなものはいつでも「お薦めの3銘柄」を言う訓練を積んだノムラのトップセールスマンにとってなんでもない。しかし問題は僕のスピーチで「なるほど、行ってみようかな」と聴き手である学生4人と先生が思うかどうかだ。「どのレストランをキミが選んだかなんて何の関係もない。キミのスピーチで何人が行動するか?それがすべてだよ。」という先生の一声でそれは始まった。

全員のスピーチがビデオに撮られ、リプレーを見ながら全員で思いっきりケチをつける(そういうルールになっているのだ)。まあ僕だけ英語がヘタなのは仕方ない。そういうことは問題にしない。「先生のほうしか見てないな」、「ポスチャー(身振り手振り)が少ないね」、「言葉に抑揚が足らん」「結論のリピートにパンチがない」・・・出るわ出るわ。たしかに自分でもあれじゃあ行ってみようとは思わんな、と妙に納得までしてしまった。

この授業で教わったことをこれから僕流にアレンジして書いてみる。これだけ知っているだけでもプレゼン力は格段にレベルアップすること請け合いである。ゼミの発表、小論文、入社面接、社内会議、営業、何にでもオールマイティであるからぜひマスターしてほしい。

まず、プレゼンの良し悪しは3つの要素で決まる。大原則である。

①コンテンツ②コンポジション③パフォーマンス

①は要は中味のことだ。プレゼンとは相手を説得して何かをしてもらうためのものである。だから何かしてもらいたい目的がある。たとえば営業なら商品を買ってほしい、ゼミなら先生にいい点をつけてほしい、恋人なら結婚してほしい、政見放送なら投票してほしい、企画会議なら自分のビジネスプランを採用してほしい、僕の例なら「3つのレストラン」に食べに行ってほしい、ということだ。目的が多数あったり何なのかが明確でないプレゼンはコンテンツに欠け、確実に失敗する。

②はその目的行動を促す訴えが説得力を持つためにどう言葉やデータや資料を構成して組み立てるかである。行列のできるレストランなら②はいらない。しかしそういう店があなたに呼び込みを頼みに来ることもない。プレゼンは勝手には起きないことを起こそうと促すためのものだ。つまり「はやらないレストラン」を売り込むことが現実社会ではほとんどなのだ。だから②が非常に重要になるということを覚えておいてほしい。

③はそれをどう演技するかだ。まず「つかみ」というやつが有効だ。これは聴衆しだいで、何国人なのか若いのか年寄か男か女かで当然にやり方が変わる。しかし相手が誰であれつかんでしまえばプレゼンは80%は成功と言われる。僕はできる。相手が米国人でも中国人でも、日本語でも英語でも、①②なんか即興で演壇で考えながらできてしまう。38歳から海外で社長職にありスピーチも仕事のうちだったという特殊経験があるから当たり前だ。もちろんオバマ大統領や真打クラスの落語家はもっと上級者の達人だ。うまくなりたい人にパフォーマンスの練習をしなさいというのは簡単だ。しかしそういう経験が積める人はほとんいないから無責任でもある。むしろ誰でもできる最大公約数的な「イロハのお稽古」こそ有効だ。上記のMBAの授業がそれをシステマティックに教える場であったことはご理解いただけるだろう。

ウォートン・スクールで①②を教わった時、僕は

「これはソナタ形式だ」

とひらめいた。①=メロディー、②=ソナタの作曲、そういうことだ。そして③はできた曲を聴衆の前で演奏する。そういうことだ。①②と③は別なものと考えた方がいい。作曲するというのはプレゼンそのものなのだ。ソナタ形式というのはプレゼンを効果的にする形式論理だ。いいプレゼンは人の心を動かす。だから名曲は何百年も聴き続けられているのだ。

よく考えてみよう

世の中には③がプレゼンだと勘違いしている人が非常に多い

それは間違いではない。でも③で成功するには大統領や名人落語家になろうとするようなものだ。自信のある人はチャレンジすればいいが、これは万人にはお薦めしない。

②にうまくなるという簡単で誰でもできる方法があるのである

それをきちっとマスターして、③は「イロハのお稽古」でやさしくすます。それが最も効率的で賢い。次回、それについてわかりやすく述べる。

(続く)

 

 

Categories:______体験録, 自分について, 若者に教えたいこと

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