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クラシック徒然草-シベリウス2番のおすすめCD(その2)- 

2012 DEC 31 21:21:37 pm by 東 賢太郎

まずは、前回ご紹介したカヤーヌス盤の特徴です。

まず第1楽章が出だしから速い。第1主題のオーボエは女性が早口でおしゃべりしているようです。それを受けるホルンはぐっと減速して大自然の息吹。このようにテンポや表情のギアチェンジが大きいのが特徴で、展開部の弦の細かい動きは疾風のように荒れ狂います。この楽章は4分の6拍子ですが、後半の四分音符3つを4分割する書法が頻出します。この速めのテンポでないとそれが単なるリタルダンドに聴こえてしまい作曲の意図が曲がってしまいます。第2楽章も速い。この楽章、今の耳にはえっという場面が続出します。練習番号Dの金管、Kのかなり遅いテンポ、Mの第1バイオリンのポルタメント等々です。この楽章、スコアの様相はチャイコフスキーの悲愴を思い出させます。主情的でロマンティックな音楽なのです。第3,4楽章に第2楽章ほどの驚きはありませんがテンポは自在に変化し、相対的にやはり速めです。音楽の場面ごとに表情が淡泊になったり濃厚についたりする変化はあっても、最近の指揮者がよくやる後期ロマン派風のこってりした味つけは微塵もありません。

シベリウスの演奏はよく演奏者によって①北欧系②英米系③その他、と分類されています。②が主流の一つである理由は、非ドイツ的な語法をもつシベリウスの音楽はまず英国、次いで米国で受容されたことにあります。カヤーヌス盤のオーケストラがロンドン交響楽団であることがそれを物語っています。本場もの志向が強い音楽ファンは①を好む傾向があり特に日本はそれを感じますが、フィンランドの指揮者、オケがやれば名演になるという単純なものではありません。国籍などよりも、カヤーヌス盤が示す19世紀的ロマン主義のアプローチに添うか、現代のマーラー演奏から敷衍する後期ロマン派風のアプローチに傾斜するかが大きな分岐点になります。一例として締めくくりのニ長調の全オケのffによるトゥッティですがスコアにクレッシェンドはありません。前者はスコア通り、後者は音を漸増する傾向にあります。後者だとなにか展覧会の絵でも聴いたかのようで僕は違和感を覚えます。

 

ポール・パレ― / デトロイト交響楽団

のっけから③になりますが、パレ―はフランスの巨匠で作曲家でもあります。これはカヤーヌス盤にコンセプトが最も近い演奏の一つです。各楽章の演奏時間も非常に近いですが、部分部分の速度は同じではなくパレーの個性も刻印されています。筋肉質ではあっても熱く歌う部分は充分に熱く、パレーの歌う声も聞こえます。巷の評価はあまり聞きませんが曲の本質をとらえた名演であります。パレーのドビッシー、ラベル、イベールは絶品でありフランス物のスペシャリストのイメージがあります。それが先行してこのシベリウスの価値が広く認識されていない気がします。虚心坦懐に耳を傾けてみてほしい演奏です。

 

ネーメ・ヤルヴィ /  エーテボリ交響楽団

①の代表盤です。息子もいい指揮者ですがこれは親父のほう。再録音してるので旧盤ですが、新盤より断然いい。80年代に現れたCDというメディアの初期の録音で、音の良さが売りでした。第1楽章のテンポはカヤーヌスと近く、速めでぐいぐい進みます。3を4つに分けるリズムの意味が明瞭に振り分けられます。全曲にわたってメリハリがはっきし、こってりしたロマン派的味つけが薄い分深みは感じませんが熱くなる部分の燃焼度は決して低くありません。難があるとすると録音が無用にハイファイ的で金管の高音部が多少目立つことです。

 

パーヴォ・ベルグルンド / ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

これも①の代表盤でしょう。このテンポとコンセプトもカヤーヌス盤の系統を継いだ正統派であり、シベリウス研究家でもある指揮者ベルグルンドの眼力を感じます。ただし細部のテンポやオケのバランスは彼の個性が勝っています。ホールの残響成分が多めでやや細かい音が不明瞭ですが木管の音色がチャーミングです。初めて2番を聴こうという人のファーストチョイスということになると最有力候補でしょう。

 

 

ジョージ・セル / クリーブランド管弦楽団

②を代表してこれを。セルはチャイコフスキーを4,5番しか録音していません。悲愴をやらなかった人がこれを振るとこうなります。カヤーヌスの伝統にこだわりは感じませんがスコアの読みは深く、第2楽章Mはポルタメントこそありませんがそれに肉薄するロマン的な表情をつけています。オケの技術、メリハリ、集中力とも最高で、第4楽章コーダの白熱ぶりはベストの一つ。あまりの素晴らしさに拍手してしまうほどです。これは66年のライブですが入手しにくくなっているかもしれません。70年の東京ライブも同じコンセプトの名演です。

 

レイフ・セゲルスタム / デンマーク国立放送交響楽団

シベリウス セゲルスタムセゲルスタムはフィンランドの指揮者・作曲家。これは彼の旧盤にあたるので注意。①ですがカヤーヌスとはかけ離れた遅いテンポによる個性的かつ巨大な表現で、ファーストチョイスには薦めません。しかし第2楽章の意味深い表現は最高でこれをベストとして推します。場面場面の気分の変転はどこかブルックナーを聴くようですが、安直な後期ロマン派アプローチではなく、作曲家の目で全音符が吟味されたゆるぎない演奏で非常に説得力があります。第4楽章コーダの神々しさは、ライブには一歩譲りますが、CDで聴ける最も感動的なものの一つです。

 

ユーリ・テミルカノフ /   ザンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団 

ロシア人がシベリウスというのはどうもという方もおられるかもしれません。僕もロジェストヴェンスキー盤の下品な金管によるシベリウスは大嫌いです。しかしこのテミルカノフのメリハリの利いた表現力、オケのパンチ力は決して下品に陥らずセンス満点。ロマン派の音楽としてスコアを完璧にグリップしており、それはそれで説得されます。第4楽章のコーダはティンパニが効いて実に格好よく、ヒロイックな感じはショスタコーヴィチの5番の終結を想起させます。こういう曲かと問われればNOなのですが、不思議と脳裏に残る演奏で、この曲をすでによく知っている人にお薦めします。

 

モーリス・アブラヴァネル / ユタ交響楽団

アブラヴァネルはギリシャ系ユダヤ人で、クルト・ヴァイル、ブルーノ・ワルターの弟子という欧州の保守本流の指揮者。米国に亡命し33歳でメットと指揮者として契約しましたが、これはメットの最年少記録です。自分のオケを求めてユタに着任、以来ユタ交響楽団の音楽監督を30年超にわたって務め「ベートーベンのエロイカも満足に弾けなかった」田舎のオケを全米でもトップクラスにした人です。この全集は楽曲解釈、オケの技術ともレベルが高く、録音も良く、しかも激安です。いくらデフレとはいえあまりに本源的価値を無視した非常識な値段なので抗議の意味でここに激賞しておきます。2番もカヤーヌスの伝統からはそれますがロマン派の音楽として立派な表現になっており、スタンダードな名演としてファーストチョイスにしても後々に違和感を覚えることはないすぐれた演奏です。

 

以下、世評の高い録音についてひとくちコメントです。

ジョン・バルビローリ / ハレ管弦楽団は解釈が重く、遅いテンポも恣意的で、何よりオケがあまりにヘタです。コリン・デービス / ボストン交響楽団は楽譜の読みがルーティーン的で浅く、外形はきれいに整えていますが例えば第2楽章のチェロの重要なモノローグを無神経に通過するなどいかにも粗雑です。ヘルベルト・フォン・カラヤン / フィルハーモニア管弦楽団は表情が人工的。第2楽章Mはドヴォルザークのようで、彼がこの曲のロマン派的外形と3番以降につながる内向的側面とのバランスを扱いかねているのがわかる。2番を再録音しなかったのは賢明でした。ユージン・オーマンディー  / フィラデルフィア管弦楽団は旧録音(CBS)の方がベターですが、それでもオケが本調子でなく第3楽章の入りなどもこのオケとは思えません。一発録りだったのでしょうか。スコア通りでない部分も気になります。サイモン・ラトル / バーミンガム市交響楽団はいかにも若い。しかし第2楽章など非常に個性的で考え抜かれた自己主張は好感あり。同オケとナイジェル・ケネディとやったバイオリン協奏曲のほうは素晴らしいです。ユッカ・ペッカ・サラステ/ フィンランド放送交響楽団は1993年のライブで好演。現代的にイディオム化された2番演奏で解釈面でどうということはないが一発勝負の気迫は魅力的です。クルト・ザンデルリンク / ベルリン交響楽団はドイツ人によるドイツ的音感による見本のようなどっしりゆったりの2番。好きではないが品格は高い。 オッコー・カム / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は若者が猛者を率いた痛快な演奏。練れていないが若鮎のような感性が魅力。カムはヘルシンキ放送交響楽団とのカレリア組曲がベストで、これ以上の演奏は考えつきません。レナード・バーンスタイン / ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団は晩年のレニー節がさく裂。到底シベリウスに聴こえないが、第2楽章の読みは実に深く、やはり彼は作曲家です。ウイーン・フィルのなんとも場違いな管楽器の音色が色っぽい。ロリン・マゼール/ ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団は音がやや古いがやはりオケが慣れていないところが面白い。全集ですが4番とタピオラがベストを争う名演です。

渡辺暁雄 / 日本フィルハーモニー交響楽団は一本芯の通った主張があり金管やティンパニの強奏などに込めた指揮者の意志は強い。第4楽章の速めのテンポがいい。しかし、いかんせんオケが今ならアマチュアレベルで技術も音程も悪い。本当に惜しいです。

ヘルベルト・ブロムシュテット / サンフランシスコ交響楽団は群を抜いて楷書風の演奏。メカニックな正確度はすばらしく、強弱、音程が緻密にコントロールされた透明感はベスト。解析力が勝った左脳型の秀演で評価が分かれるでしょう。タウノ・ハンニカイネン / シンフォニア・オブ・ロンドンは歴史的演奏の部類ですがオケが弱い。併録の5番なども指揮のコンセプトはいいのに、どうしてこんなヘタなオーボエ奏者を使ったのか不思議です。セルジュ・チェリビダッケ / ルツェルン音楽祭管弦楽団はAUDIORというレーベルのライブ。彼にしてはあまりオケの統率がとれていない。第2楽章でカヤーヌスばりのポルタメントが入ります。

さて最後にアルトゥーロ/トスカニーニ/ NBC交響楽団のライブ録音を忘れるわけにはいきません。これはカヤーヌス盤に最も近い演奏で、録音が10年後の1940年ということからも作曲家直伝の演奏情報を伝える貴重な録音です。第1楽章はそっくりです。第2楽章の演奏時間がカヤーヌスより短いのはこれと上記のベルグルンド盤、パレー盤ぐらいで、Dの金管、Mのポルタメント(控え目ですが)に至るまでほぼ同じ解釈と言っていいでしょう。第3楽章はオケの性能がこっちのほうが圧倒的に上で、ライブでこの弦のアンサンブルの切れ味はすごい。第4楽章ですが、カヤーヌスより速く、恐らく最速演奏でしょう。非常に明晰なテクスチュアに明るめで強靭な金管が乗ったラテン的感覚になっていて、これはもうシベリウスを超えてトスカニーニの世界です。オーマンディーがフィラデルフィアで目指したのはこういう音だったのではと思います。コーダは堂々たるインテンポでつまらない小細工になど目もくれず決然と終わる。歌舞伎の千両役者というか横綱相撲というか、有無を言わせぬ貫録で、トスカニーニを尊敬したオーマンディーもカラヤンも真似できなかったのはここなのです。人間、もって生まれたカリスマ、後光みたいなものは努力や訓練ではどうしようもなく、指揮者という人を動かす商売はこうやってそれが明確に結果に出てしまう怖いものです。ちなみにこのコーダの風格も含め、トスカーニーニのDNAを受け継いだのはジョージ・セル盤なのです。この曲はロマンティックであると同時に乾いた鮮烈さを秘めているのですが、指揮者とオケの実力が如実に出てしまうこのタイプの演奏は90年代以降めっきり減りました。テミルカノフ盤はその少ない一例です。そうではなく、響きの豊かなホールで繊細な味つけをしながら後期ロマン風にたっぷりと鳴らすグランド・スタイルがいつの間にかスタンダードになりつつあり、マーラー、ブルックナーに耳の慣れた一般聴衆にはそのほうが受けがよいのでしょう。それは2番演奏の本流ではなく、このシンフォニーが「ポップス化」している兆候のように感じます。全部聴いていないので書きませんでしたが、故ベルグルンドがヨーロッパ室内管弦楽団で録音した3度目の全集は2度目のヘルシンキ盤より人気がないように見えます。5番など驚くべき緻密なアンサンブルの名演ですが、グランド・スタイルに背を向けると孤高の路線になるのだとしたらシベリウスも悲しんでいることでしょう。

最後に、このトスカニーニのCD、2番だけでなく「ポヒョラの娘」、「レミンカイネンの帰郷」のオケのものすごいアンサンブルをぜひ聴いてください。このレベルのオーケストラが世界に今いくつあるでしょう?オケの技術は進化しているとよく言われますが、名曲化、ポップス化した曲の楽譜に慣れただけなのではないでしょうか?1940年当時、まだ現代音楽だったシベリウスの難しい楽譜をここまで手中に収め、今もって古臭さをまったく感じない水準で演奏したNBC交響楽団のレベルに比べると僕は逆に技術が後退しているのではないかと思います。

それはトスカニーニ、セル、ライナー、チェリビダッケのような独裁型、人事権行使型、恐怖政治型マエストロが完全消滅して、生徒会長型、調整型、みんな仲間だ型ばかりになった結果と思います。組合が強くなって指揮者の政治力も削がれました。JALが潰れたのは組合が強くなって客の満足より従業員待遇の満足を求める、すなわち役所化したことが主因です。今のオケ演奏は本当につまらない。サラリーマン、小役人化したオケなど金を払って聴く価値は皆無です。ルーティーンのきれいごとで終わる演奏ばかりで、そんなものにブラボーを飛ばしてしまう聴衆もまた聴衆で、文化はこうして衰退していくという見本のようなものです。「パワハラ」で楽員から訴訟されるような指揮者の出現を願ってやみません。

(こちらへどうぞ)

シベリウス 交響曲第4番イ短調作品63(マゼール追悼)

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