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おめでとう富士山!

2013 JUN 26 13:13:38 pm by 東 賢太郎

ミクロネシアの大自然と文化に感銘を受け、再度その位置を世界地図で眺めていると、あのビキニ環礁がそう離れていないことを知った。1946年か58年にかけてアメリカが23回もの核実験を行い、日本のマグロ漁船・第五福竜丸をはじめ約1000隻以上の漁船が死の灰を浴びて被曝した地である。

このビキニ環礁が、2010年の第34回世界遺産委員会において、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されたのをご記憶だろうか?6月23日、僕が帰国したその日、日本は富士山がそれとまったく同じユネスコの世界文化遺産に登録されたニュースで湧きかえっていた。自然遺産ではなく文化遺産である。

最初は自然遺産登録を目指したが、要件を満たさないことが分かった。スペックだけを見ると富士山は世界のなかで特別な山ではなく、多くの登山者やごみの不法投棄など人間の手で自然が浸食されている。そこで信仰と芸術という観点から文化的景観というアピールに切り替えた。それでも楽勝ではなかった。日本人にとっては特別で美しくても、世界標準では理解されないという示唆に富んだ事例と思う。

この世界標準とは、ユネスコのホームページによると「人類が共有すべき顕著な普遍的価値(outstanding universal value)を持つ物件」であることだ。このuniversalというのがポイントだ。この単語はラテン語語源でuni(単一の)+vertere(回すこと)から来ているuniverseの形容詞だ。回転して一点(一属性)に収束するということだろうか(そこは知らないが)、おそらく「同じ属性を有する物すべて」という含意であり、宇宙、世界、普遍・・・と訳されている(こう語源的に考えないと「普遍的」などの明治の造語の厳密な西洋的語感はわからない。つまり正確に理解できない)。

富士山を文化的に世界標準平面上にのせて「同じ属性だ」と主張するのはなかなか難しいと想像する。日本では英雄の長嶋茂雄を米国で殿堂入りさせようというのに似る。ビキニ環礁、アウシュビッツ(これも文化遺産だ)のような、負のベクトルではあっても人類が共有すべき強いストーリー性がない。神道という信仰は一神教の人にはわかりづらい。日本の心はもっとわかりづらい。浮世絵の画題という芸術的価値だけでは弱いのは三保の松原が一度落ちたことでわかる。

こう考えることで、今回の登録が相応の価値があることが推察できると思う。ユネスコという国際機関が日本国へ向ける、けっしてネガティブでない視線の質を感じる。関係者のご努力の成果であることは無論だし、グローバルな舞台での日本人の戦略性とプレゼン力はオリンピック誘致などでも一般に向上していると思う。これは銀座の寿司屋がミシュランで星をとったような次元のことではない。

 

 

 

Categories:______世相に思う, 徒然に

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