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南洋の釣り船に悠久の時を思う

2013 JUN 24 22:22:25 pm by 東 賢太郎

最後の日です。これでミクロネシア・レポートも最終回です。

朝5:15起き。全員で釣りに出かけました。これは6:00ごろ、出航前のボートです。潮の香りがいいですね。

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夜明け前なのに気温は20度ぐらいでしょうか。このまま海に飛び込んでもいいぐらいのあたたかさです。この島では、お金は一銭もなくても凍死はしない餓死もしない。これがパラダイスでなくて何でしょう?我々は文明国に生まれて良かったと思いこんでいますが、ここの島の人は東京のような都会に住みたいとは誰も思っていないでしょう。凍死しないように大枚はたいて家を買い、餓死しないように毎日あくせく働き、欲望と見栄のために勉強したりお金を貯めたり・・・・

我々の人生、お金や地位を得る無意味な競争のために時間を空費して死ぬだけなんじゃないか? だとしたら文明なんて何の足しになるのか? ここの悠然とした大自然の大きさの前では文明人のはずの僕らなどお釈迦様の手のひらの孫悟空みたいなもんです。ベートーベンの交響曲がどうしたやらベースボールがどうしたやら株式市場がどうしたやら、そんなのはもうどうでもいいなという満腹感に似た感情といいますか、潮の満ち干みたいな大自然の摂理にこころがぴたっと共鳴しているのが自分でわかるのです。こういうことは人生で初めてです。

そんな気持ちをぼーっと一人味わっていると、皆さん、早々とボートに乗り込みました。

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いよいよ出航です。MRAの紅一点日本人社員、石原嬢も釣りは今日が初めてだそうで少し緊張の面持ちです。まぐろ用と小型魚用の2つのボックス。でっかいですね。ぜったい大物を釣るぞという心意気がみなぎっております。

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海はどこまでもおだやかです。船酔いの薬を飲んだ人もいましたが、いらないんじゃないかなあ。僕は酔わないので遠慮しました。ダダダダダ、エンジン音も軽快に。ぐーんとスピードが出てくると風が肌にここちいい。右側からいよいよご来光の時間が迫っています。

 

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皆さん、とくとご覧ください。下がミクロネシアで僕が撮った最後の一枚です。

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遭難者のカメラにはきっとこういうのが残るんでしょうね。何があったかって?

 

ここから船長は猛スピードで沖をめざして一直線に舟を進めました。やがて珊瑚の環礁から外に出たんでしょう、舟はすごい高波に木の葉のようにもまれだします。いや、甘くみていました。全員、頭のてっぺんから波をぶちまけられて、まるで泳いできたかのようにびしょびしょです。よし、このシーンを撮ってやろう。今回この旅行のために買ってきた最新式のキャノンのデジカメを取り出します。

あれっ、動かない!

押しても引いても何をやってもご機嫌をとっても、ダメでした。海水が入ったんでしょうか。こういうわけで写真はおしまいになってしまったのです。

それでもボートはどんどん進みます。来た距離は例のダイヤモンドヘッドが後ろで遠くに霞んで見えなくなるぐらいで、ひょっとしてこのままチューク島でも行くんじゃないかと冗談も出ました。船長さんたちはぜんぜんしゃべらず、どうしようとしているのか誰もわかりません。ここはサメがいるらしいし、転覆でもしたらまずいなあ、皆さんちょっと不安なのか無口に・・・・。N さんはやっぱり船酔いになってしまいました。と、そうこうするうち、船長さんは無言のままやおら船首を180度旋回して、来た方角に向けて引き返しだしました。糸を垂らしてみたわけでもなく、どういう都合かぜんぜんわからないのですが、なにか残念なようなほっとしたような・・・・。

まぐろはどうもいなかったようです。残念です。きのう子供が小舟で釣っていたのにね。すると赤銅色の肌をした老練な船長は 「マヒマヒを釣るぞ」 とけっこう上手な英語で高らかに宣言するではないですか。おお、さすがだ。臨機応変な判断だ。目だけでそれがわかるんだからすごいよね、一同より称賛の声が上がります。すると2人いる船員が、黄色いプラスチックのロールになんだか無神経な太めの糸が巻きつけてある道具を箱から2つ取り出しました。これを舟の両側から海に垂らして、舟を加速するとマヒマヒが疑似餌に食いつくのだそうです。そこでやおら登場した疑似餌!これの写真が撮れなかったのは痛恨です。七夕さまの笹にぶらさげるボンボリみたいで間抜けな顔をした、たぶんイカのつもりなんだろうがその割には足が銀色でやたらに多い、いかにも釣れそうにないマンガ的物体が堂々と針に装着されたのです。

午後1時のフライトなので、それを海に垂らす残り時間は30分。皆が交代で今か今かと糸を持ちます。マヒマヒってどんな顔つきなんだろう、たしかハワイで食べたけどおいしかったよ、疑似餌のサイズからして大きそうだから引きは強そうだね・・・・。こんな会話がなされること約15分。しかし引きはおろか、糸はピクリともせず。そうこうするうちに、皆さんだんだんあの間抜けなイカの顔が目に浮かんできたのか、でもあれに食いつくのはよっぽどバカな魚だよね、スピードでごまかさないと無理だよね・・・・皆さん会話のトーンが一気に変わってきます。

わかった。これは釣りの疑似体験つきクルーズだったんじゃない?

そうか!あのでかいボックスにおみやげのまぐろが2匹ぐらい入ってるんだよ。

もう皆さんやけくそです。誰からともなく、おなかすきましたねということで石原嬢お手製のおにぎりをいただきましたが、それのおいしかったこと!釣糸のことはもう皆わすれておにぎりに集中。それをするどく見ぬいてかどうか、「今日はおしまい!」、船長の毅然とした号令一下、舟はダダダダダとエンジン音も軽快に港に午前9時の予定通りに帰還したのでありました。予定通りだったのはそれだけですね。おみやげのまぐろは出ませんでした。下船したあと、温厚で大人物であられる T 社長より、

ちょっとコミュニケーションが不足しておりましたな

と締めのご講評。まさに言いえて妙でした。ホテルへ帰ると迅速かつ的確に定価通りの125ドルの請求書が我々を出迎えてくれたのです。この3日半、初めての南洋でのすばらしい体験の連続でした。まあ人生、万事うまくいくことはありませんしね。最後にちゃんと帳尻があってご愛嬌で終わるのもまた次回の楽しみが残ったと考えることにいたしました。また来たい、いや必ず来るつもりです。

長々とお読みいただきましてありがとうございました。僕だけはここからグアムに3泊しましたが、写真の都合で順番が分かりにくくなってしまったことをお詫び申し上げます。

 

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