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クリストファー・ホグウッドの訃報(追記あり)

2014 OCT 4 2:02:01 am by 東 賢太郎

LP時代の末期である80年代初頭にホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団のモーツァルト交響曲全集がオワゾリールというレーベルから出てきて、世の耳目を集めたのは古い音楽ファンならご記憶と思う。当時、モーツァルトに入れ込んでいた僕は大変関心を持ったのだが、いかんせん金がなくて買えなかった。そりゃそうだ、CDに焼き直しても19枚もあるのだ。というのはモーツァルトは41曲と習っていたのがなんと71曲!もあるためであって、交響曲という概念の洗い直しによる拡大された概念での選曲がなされているからだった。

hogwoodこれを初めて入手したのはペンシルヴァニア大学在学中のことで、第31,35,38、39,40,41番と、リンツを除く有名曲が3本のカセットテープに入ったボックスであった(左)。貧困だった当時にして大投資であり、やっと手にしたことがよほど嬉しかったとみえてMay30,1983という日付と、Sam Goodyと買った店の名前まで記してある。安いCDボックスをまとめ買いできたりyoutubeで無料で聴けてしまうのが当たり前になった今、有難い世の中になったと思う反面、こういう入手の喜びというものが薄れてしまったことは新しい録音をきくことの重みまで取り去ってしまったようで少し複雑な気持ちである。

部屋でこれに耳を澄ましてみて、しかし、そう気に入ったわけではなかった。いかにオーセンティシティを謳われようと、ピッチの低さと共にこの古楽器オケの薄いヴァイオリンの音に抵抗があり、今でもその趣味はそのまま変わらない。やはり僕はベームのウィーンフィルやスイトナーのドレスデン・シュターツカペレの奏でる芳醇な弦への恋情が消えないのだ。

子供のころのモーツァルトはいいヴァイオリンの音を喩えて「バターのよう」と言っている。それはウィーンフィルみたいな音ではあってもホグウッドのオケの音じゃないのではと僕は解釈している。博物館に飾ってある楽器で弾くのは確かにオーセンティックな態度だが、出てくる音もそうとは限らない。

このモーツァルトは80年あたりから急速に広がる古楽器演奏ブームの開祖的存在であって、上述の交響曲の新分類法とともに楽器の選択と奏法の新奇さでも旧世界に殴り込みをかけた新機軸という気概がある。それはブリティッシュ・ミュージアムに結実している英国人の博物学精神の音楽版を観るようであり、知的刺激には富むものの、音楽的価値は同じく古楽器を駆使しながらヒューマニスティックな感興に富んだオランダ人フランツ・ブリュッヘンの演奏にはるか及ばないと思う(彼も亡くなったが)。

hogwood1それでも当全集に対する関心は消えず、ロンドン赴任時代にCDで欠けていたリンツを含む3枚組をこれも大枚はたいて買った。はたして音楽の印象は変わることなく、これ以後継続して購入する意志は失せた。ただ、これの良かったのは分厚い解説書の充実だ。英文をむさぼり読み、モーツァルトの管弦楽曲に関する最新の知見を得ることができたのは後々に非常に役に立つことになる。

ピッチの低さをのぞけば比較的いいと思っている第31番KV 297 、いわゆるパリ交響曲をお聴きいただきたい。

ホグウッドは後年、フルオーケストラを振ってロマン派までレパートリーに入れており、いくつか良いものがある。そのなかでもデンマークの作曲家ニルス・ゲーゼの交響曲集(デンマーク国立交響楽団)はとても味わいがある。

長年イギリスに住んでいて、とうとうホグウッドを聞く機会はなかったんじゃないだろうか、たぶん(仔細には覚えていないコンサートもたくさんあるが・・・)。結局、このモーツァルト全集のイメージが強かったんだろう。

 

(追記)

今日TVでやったN響との追悼、ストラヴィンスキー「プルチネルラ」は素晴らしかった。きびきびした音楽のアンサンブルをまとめる手腕に脱帽。

(補遺)

メンデルスゾーン ヴァイオリン・ソナタヘ短調 作品4

ヤープ・シュレーダー(Vn)/ クリストファー・ホグウッド(fp)

R-7332378-1439114343-8279_jpegシューベルトのソナタと組んだLPをロンドンで買った。英国人の古楽器への愛情は執念すら感じるが、これは夜長にそれとなく楽しめる。ホグウッドのフォルテピアノの音が典雅で好ましいからだが、指揮者の余技ではなくこれがもともと本業だから音楽性が高い。メンデルスゾーン16才の曲だが、彼の室内楽にはヘ短調が多い。書かなかったモーツァルトを意識してのことだろうか。

 

 

(こちらもどうぞ)

モーツァルト「ピアノと管楽のための五重奏曲」変ホ長調K.452

クラシック徒然草-僕が聴いた名演奏家たち-

 

 

 

 

 

 

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