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同じ阿呆なら借りなきゃ損損(伝ヘロドトス)

2015 JUL 14 12:12:47 pm by 東 賢太郎

ヘロドトスのアポローグに新発見があったというニュースは読者の記憶に新しいところだろう。
 
周知のとおり今度の石盤Bは未来を予言したものだ。ナウス・テオーリアーというものがやがて現れるだろうと書かれている。現代語では観光客船といったところだ。考古学界では地中海クルーズの商業化を予見したものとされ、ヘロドトスの先見の明を証明するものの一つと評価されている。
 
それは以下のような寓話として記されている。
・・・・

船は輸送ではなく観光を目的とするようになった。いま我々が使用する神殿や住居等は2000年もすれば遺跡(アポミナリア)と呼ばれるようになり、この船の客人を楽しませるのだ。船は700名の旅客、300名の乗員(クルー)の合計1000名によって構成される。

旅客はほとんどが外国人、すなわち富裕なペルシャ人やローマ人である。船内では貨幣が通用せず、乗船時に購入した石貨が貨幣の代わりとなる(食券である)。石貨は名称を「ドラネコ」という。始めはワイン一杯が3ドラネコであったが、やがて船が人気化すると増発されてワインは100ドラネコになり、食券は石ころ同然だと苦情が殺到することになった。

しかし一方で、船に乗ると富裕な外国人にたくさん物を売れるということに気がつく者がでてきた。クルーは生活が安定する上に富裕にもなれる人気の職業となり若者の憧れの的となる。やがて300名の乗員枠は誰によるともなく撤廃されることになり、クルーの数は400、そして500と増加していったのである。

ある船でついにクルーが950名に達した時のことだった。乗客名簿を閲覧した船長が、客が50名しか乗っていないことに気がついたのだ。950名のクルーには高給とともに終身年金が支払われ、ワインは「無料飲み放題お楽しみタイムあり」というクルー特権まで与えられていることもわかった。船は大赤字であったのだ。

やがてさらなる悲劇が襲った。この船がクレタ島沖で難破したのである。ほとんど借金で建造した船である。債権者は決死の救済と救助を試み、沈没だけは免れた。そして事故調査委員会が難破原因をつきとめた。お楽しみタイムを知らなかった船長が損を取り返そうとワインを酒樽一本開けてしまい泥酔状態であったのだ。

タカ派の委員は即時債権回収を訴えたが、ないものはとれないことが発覚した。船を差し押さえても鉄くずの値段にしかならないこともわかった。散々議論激論が重ねられ、やがて委員会は結論を出した。クルー全員が酒に酔っていたのだからそれは古来の伝統文化であるとされ、おとがめなし。クルーは禁酒とする条件はついたものの、カネを返してもらうために船もう一隻分のカネを貸しますからこれで稼いで返してねとなった。

ところが・・・・

 
・・・・
 

ここでやはり怒り狂った委員が石盤をたたき割ったと思われ、先の記述は途切れている。

 

この難破船の残骸とみられる遺構から「オイロ」と書かれた銅貨が出土したことは有名だろう。オイロは船の国籍にかかわらず使える「共通食券」として重宝され船内で使われていたことが判明している。難破した客船も収入がオイロで入るなら安心だろうと各国が金を貸していたのだが、実はクルーの飲み食いに消えていたわけだ。

オイロは使うのに便利だが借金にも便利だった。石ころになると心配されたドラネコでは到底できないような金額の借金がオイロならできた。なぜなら銅貨だから鋳造に限りがある。石ころを拾ってきて返済されることはない。しかしもっと大きな理由があった。オイロで借金できる船は「オイロ事業船組合」に所属していたからだ。

見過ごされていた大きな問題は、誰がカネを借りるかだ。借りるのは組合ではない、船だ。人気のない船の食券は、その船だけで通用するならば価値は暴落する。そうなれば乗船料も安くなって、安かろう悪かろうを認容する客は乗ってくるのだ。しかしオイロだと乗船料はそのままだ。客よりクルーが多い船は見捨てられ閑古鳥がないた。

しかし、債権者には幻想があった。船は難破したって、組合がなんとかするだろう。助けないならばそんな組合って一体何の意味がある?

船長たちは抜け目がなかった。ドラネコは廃止し、オイロで借金をしまくった。難破船のスーベニア・ショップで売られていたとされる土産品がオイロ建ての正札のついた質流れ品として他国の質屋の店頭にあふれかえっていたという。ヘロドトスはドラネコ復活派であったとされるが確かな資料は見つかっていない。なお、石盤Bの裏面には同時代の何者かによる落書きが彫られており、考古学者が著書にこう英訳している。

 

Too big to fail.

 

 

 

 

 

 

 

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