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女の上司についていけるか?(ナタリーとユリアの場合)

2015 JUL 30 22:22:48 pm by 東 賢太郎

「察しない男 説明しない女」(五百田達成 著)は面白い本です。

僕は若者に「遊べ!」といってるのですが、べつに遊び人になれということではなく、なんでもいいから真剣勝負しなさい、負けたら立ち直れないぐらいすべてをかけてやりなさい、そして、許されるうちになるべくたくさん負けておきなさいといっています。

ところがこれは女の子にもあてはまるのかどうか、はたと考えているところです。男も女も同じ人間だからと思っていたのですが、この本によると実はぜんぜんちがう気もしてきます。

同書には、「男は野球で育つ・女はままごとで育つ」とある。まさしく野球で育った僕はままごとをやったことがありませんし、ということは僕のいうことは女の子には共感されないのかもしれません。

野球にパワハラなどという言葉はありません。パワーに蹂躙されるならそれはされる方が弱いのであって、だったら練習して強くなれよ、でおしまい。負けた方も頑張ったんだからほめてあげようなんてこともなし。負けは問答無用で負け、10点差負けでも1点差負けでもおんなじです。

ところが運動会で子供がビリで泣いて帰ってきた、けしからん、かけっこで順位をつけるのはやめろという親が出てくる。ほとんど母親だそうです。野球で育った男親はそういうことは言わないように思いますが、ままごとで順位はつかないわけですね。

体を張って遊べですって?なるべくたくさん負けろですって?それでウチの子が人生はかなんだり自信喪失になったりしたらどうしてくれるの?言われてそうだ。そういう風潮のせいでしょうかサンデーモーニング『週刊御意見番』に登場する張本勲 氏が「喝!」を出しにくくなってしまったそうです。

僕は幸い女性の上司に仕えたことがありません。そういう時代だったし男社会の業界だったし。だから男原理で問題なく生きてきました。しかしこれからの世の中、ままごと原理で世の中が動くかもしれないし、女性の大臣は出るし、ひょっとして近い将来には女性大統領や首相も出るのではと思います。

そこで生きなくちゃいけない男は大変ですが、ではたくさんいた女性の部下たちを「部下」と思っていたかというとこれも微妙なんですね、実は。男原理が通用しないので同じように叱るわけにいかないし、一発ホームラン打ってみろなんて指示しても正確に思いが通じないでしょう。

「男は理屈で動く 女は感情で動く」、反論の余地なし。「男はナンバーワンになりたい 女はオンリーワンになりたい」これもしかりです。オンリーワンでも負けたら意味ないのです僕は。「男はロマンが好き 女はロマンチックなものが好き」、まったくそのとおり。ドイツのロマンチック街道(ローマの道なんでしょうが)はこの日本語名では行く気を削がれます。

「男は使えないものを集める 女は使えそうなものを捨てられない」、これはどうかな、捨てられる女もいるだろうが他人にはわけのわからん物を集めるのは男ですね。「男は謝れない 女は忘れない」、なるほど。

要はこれだから議論にならないんです。もし女性が上司だったら、僕は何を言われてるか、何をめざしたらいいのか、たぶんわからないと思うのです。

ただ、部下だと思わなかったというのは悪い意味ではなくて、そもそも僕らは子供時代は母親に支配されてたわけです。問答無用で理屈じゃなく。だからビシッと言われると弱いかもしれないという意味で男の部下とは違ったという意味です。とくに仕事の核心の部分はともかく、専門外のこと、ドメスティックなことでは。

ところが、自分にとって核心的なことにもかかわらず、この女性なら部下でもいいかなと思う人がいるものです。アルト歌手のナタリー・シュトゥッツマン(Nathalie Stutzmann)です。去年聴いたN響とデュトワの「ペレアスとメリザンド」でジュヌヴィエーヴを歌いましたが出番が短い役で残念でした。

歌手で指揮をする人はいますがいいと思ったためしはほとんどありません。ところが彼女は指揮の能力が高いと思います。モーツァルトのハフナー交響曲をお聴きください。

きれいに整えようという気はなし。「モーツァルトはこういう人よ!」とつかんじゃってます。女だからわかる直感か?彼が振ったらこんな感じだったのではと思わせるものがあります。楽員を興にのせ、多少アンサンブルがごちゃごちゃしてもいい、アンバランスもまた良し、ティンパニはひっぱたき、ホルンもいたずらっぽく強く吹かせる。とにかくテンポの変化や強弱やフレージングの主張が強いのですが身勝手に聞こえず、なるほどこれってそういう曲だったかと思わせるものがあるのです。

もし僕がオーケストラ奏者なら?彼女の指揮には真剣について行くと思います。やっている音楽に説得力があっておもしろい。男は理屈で動くのですが、感性であれ何であれ女性がいったん男をなるほどと思わせたらむしろ強いかもしれませんね。どんな強い男だって子供のころはそういうもんだったし、強い女性のいうことをきいていたほうが楽という気すらします。

もうひとり、僕のご贔屓のヴァイオリニストもそうです。このチャイコフスキー、自信に満ちあふれ、細部までピッチと技巧のコントロールがすばらしく、抜群の運動神経とものすごく良い耳を実感させ、汗ひとつかかずに強い主張で弾ききっていて、心拍数はまったく上がってないんじゃないかと思わせる堂に入り方。とくにアンコールをお聴きいただきたのですが、この求心力、場の支配力は半端じゃありません。ヴァイオリンの人たち、唖然ですね。舞台上のオケまで完全に彼女の聴衆になってしまっていて、弦の人はああ2曲目も聴けるんだよかったという表情です。プロが認める超人ですね。ぜひ指揮もやってほしい。オケを心服させるカリスマ能力、間違いなしですね。

このユリア・フィッシャーが上司だったら?一も二も四の五のもなく、絶対服従でしょう。何をやってもかなわない能力を感じます。

 

 

(こちらへどうぞ)

「女性はブラームスを弾けない」という迷信

男の子のカン違いの効用 (4)

ユリア・フィッシャー(Julia Fischer)の二刀流

 

 

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