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ハンヌ・リントゥのリハーサルを聴いて(シベリウス雑感)

2015 OCT 7 1:01:31 am by 東 賢太郎

ここずっと仕事のせいもあり歌舞伎に気が行っているせいもあり、野球が例年になく盛り上がっているせいもあったりして、どうもクラシックにはご無沙汰の日々でありました。

夏がまた例年より暑かったし台風もひときわ強烈であって、どうもそのような熱帯性気候というものがこれまたクラシックに似合わないんですね。スイスから香港に転勤した頃もクラシックがすっかりになってしまいましたが、音楽をきこうという気分は気候風土と関係が深いように思います。

10月になると、しかし、世の中の方が待ってくれません。だいぶ前に買ってあったハンヌ・リントゥ指揮のシベリウス・シリーズが楽しみになってきました。その初日が明日だったのですが困ったことにサントリーホールのウィーンフィルが重なってしまいました。さらに困ったのは、明日にセリーグのCS出場を決める天王山の広島・中日戦まで重なってしまいました。

lintuご招待であるので息子を連れてウィーンフィルに行くことにしましたがシベリウスは幸いに、今日すみだトリフォニーホールにて初日のプロの公開リハーサルがありさわりを聴くことができました。2番と4番でしたが、フィンランド放送交響楽団首席指揮者のリントゥ氏と新日本フィルが音楽を生んでいく様はインスピレーションに満ちており楽しみました。

しばしの音楽の空白期間をおいて耳にするシベリウスは心に沁みました。彼の音楽は決して自然そのままを描写したものではないですが、古代からおそらくすべての人間が本源的に懐いてきたであろう自然への畏怖、畏敬、讃美のようなものを感じます。そしてその感情の中に人間の儚さ、弱さ、そして、生きようとする者の強さを投影させているようです。どこか魂をストレートに揺さぶってくるものがあります。

ということですから、どこの国でもモーツァルトやベートーベンのように受けいられていそうなものですが、それがそうではなく、やはり北欧という民族色の中に置かれているようです。僕の滞在中のおつき合いで感じた範囲でも独仏伊でシベリウスが特に普遍的に愛好される様子はなく、なぜか英国だけでは深く受容されているようでした。ところが、新田ユリ 日本シベリウス協会会長がyoutubeの日本記者クラブで発言されていますが、フィンランドのオケ団員いわく日本人は特にシベリウスに共感をもって聴いてくれるそうで、「理解する」というよりも「わかる」というほうが近いとのことです。これはどうしてだろう?

自分でもそういう感覚があります。たとえば交響曲第2番はドイツの音楽と同じスタンスで聴ける名曲ですが、それでも第2、第3楽章には非ドイツ的でシベリウス的としか表現できない特別なことばで語られた部分があります。しかしそれはフィンランド人しかわからないことばでは決してなく、冒頭に「音楽は気候風土と関係が深い」と書きましたがシベリウスはきっとユニバーサルなものをエッセンスとして強く持っているのだと思います。

リハーサルで取り上げていた曲をということになりますが、次はドイツやイタリアの音楽からすると同じスタンスではわかりにくい部類の交響曲第4番です。おそらく初めてきいた方は2番ほどは好きになりにくいのではないでしょうか。それは2番では一部だけを占めていたシベリウス的なことばが4番ではほぼ全編にわたって語られているからです。つまり彼は語りたいことだけを一切の虚飾も妥協もなく語っているわけです。

これを作曲した当時シベリウスは原因不明の腫瘍ができて病をわずらい、家庭も財政的に苦境にありました。ひとりの男として、大変に孤独だったのだろうと想像します。60年間決して平坦な人生を生きてきたわけでもない僕も、今の自分よりずっと若い時期にこれを書くに至ったシベリウスの心の風景がわからないでもありません。しかしそういう出自の音楽であるにもかかわらず、4番は僕に苦境の痛みを思い出させるわけではなく自然な慰撫を与えてくれるのです。心の同期とはへたな慰めよりも響くのです。

これは悩んで病んで疲れてしまった人の音楽ではなく、生きようとする強さ、強い意志を秘めています。それを心の耳で聴きとった人にとっては、人生の伴侶となる交響曲なのです。

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