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人生初の点滴をする

2018 DEC 22 8:08:25 am by 東 賢太郎

新幹線で名古屋を過ぎるとだんだん血が騒ぎだす。不破関を抜けると関ヶ原古戦場跡の文字が見え、雪を頂く伊吹山をのぞみながらやがて長浜の郊外を走る。ややあって、彦根の佐和山城跡が目に留まり、あれは石田三成の城だったかななどと考えているとあっという間に京都に着いてしまう。秀吉は長浜で初めて城主となり京都で人生の栄華を極めたが、新幹線に乗ってその行程がほんの2、30分で窓の外を通り過ぎるのを見たらなんと言っただろう。

戦国時代が面白いのは登場人物たちが実に生々しく人間くさいからだ。領土拡大の野望丸出しで合戦に明け暮れ、食うや食われるやの虚々実々の権謀術数が尽くされる。しかしこれを戦国時代と呼ぶなら武士が政権を取った鎌倉時代から実質は戦国時代である。世襲による長期安定政権を樹立した徳川家は実質は疑似天皇化していたが、武家政権ではあるゆえにその樹立以前のジャングル状態をあえて戦国と区別したと思われる。その理屈でいうなら中国に戦国時代でなかった時代などないだろう。

自分の企業を経営するのはジャングルで生きぬくことだ。ジャングルに盆も正月も土日も休日もない。ハワイでアロハシャツで休暇をとっても頭の中は安らがない。信長や秀吉がホリデーに1週間も温泉三昧で息抜きする姿なんて誰も思い浮かばないだろう。彼らの気持ちは給与所得者(社長であろうと)には絶対わからないということを僕も経験してみて初めてわかった。だからだろう、そうやってストレスフルな人生を送ったであろう武将たちが命を懸けた関ヶ原のあたりに来ると血が騒ぐのだ。兵どもが夢のあとの文学的な感慨ではなく同胞感からだ。

これを8年やってきた勤続疲労が出たのか、このところ心身とも調子がいまひとつだ。別にどこも痛くも痒くもないが、英語ならout of orderであり、もっとぴったりに書くなら、指は動いていても調律が狂ってるピアノを弾いているいやな感じだ。これを大阪の守口に行って、ラヴィータ・クリニックの森嶌先生に訴えた。「病気じゃないけど心身とも疲れていて万事がすっきりしない」。こんなのを治す薬はない。でも先生のドイツ製の精密な診断機器である「バイオ・レゾナンス」は数値で答えを出してくれる。だからここの予約は数週間待ちで常に満員御礼だ。

ものの30分の検査(といっても服を着たまま座ってるだけだ)で結果が出る。「全身の代謝、血行が弱ってます。”腎”が良くないから鼻づまり、耳鳴り、頻尿です。これは漢方で治ります。臓器のシグナルが全部弱く、脳細胞の膜がストレスにやられる可能性があります。東さん、かなりひどい数値ですね過去最悪の状態です、放っておいたらまずかったですよ」という診断データのリーディングになり、すぐに別室で2時間の点滴を受けろということになった。看護師さんがとんでくる。「すいません、63才なんですが点滴は人生初めてなんで」「ええっ?そんな方おられるんですね、初めてです」。そっちも初めてだったんだ。

「入院したことも、そもそも病院のベッドに寝たこともないです」。これは看護師さんにはひとかどの驚きだったらしく、血管が細いだのああだこうだうるさい患者に細心の注意で痛くなく注射をしてくれた。「これ押して歩いてもトイレに行かれても結構です」。名前は知らないが入院患者が点滴しながら歩く時の車輪がついて薬剤がぶら下がったあれだ、あれが装着されてしまう。とうとうその身になったかと感慨もひとしおなのは、いつもは大丈夫?と心配する側だったが、される側になってみると意外に悪いもんじゃないと思ったせいでもある。

なにせジャングルで戦う身だ。ライフルを構えているそばから「ところで五十肩のほうは最近どうだ?」なんて心配してくれる輩がいるはずがない。つまり入院経験がない以前にケアされた経験がないのだということに気がついた。そうか、はやいことジャングルはぬけだしてやさしくケアされて生きるのも一法だな、すぐボケるだろうけどなんて考える。打ったのは「αリボ酸+VB」と「高濃度ビタミンC」である。点滴しながら森嶌先生がベッドの横にやって来て、ある重要な相談をされた。実は今日来たのは患者としてではない、相談に乗ってくれと招かれたからで、でもそれがなければ点滴もしなかったわけで幸運だった。

内容はまだ書けないが、実現すれば画期的なアイデアである。こうやって血が騒ぐのはまだまだジャングルにいたいからでケア人生なんか到底無理ということも知る。どうやろうかと考えているうちにウトウトしてしまい、終わりましたと起こされたらなんとなくすっきりした感じはあった。帰りに処方されたのはツムラの漢方4種類(かなりの分量だ)、オメガー3、植物発酵由来LPS(リポポ酸)である。「先生、ありがと、来てよかったよ」お礼をいって日帰りしたが、新横浜で降りたのが失敗だった。22時なのに菊名までの混み方が半端じゃない。もう2度と使わない、品川にするぞ。

Categories:ソナーの仕事について, 健康

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